フットワークが軽い王様はフレンドリーな魔導王
放課後スイーツを楽しみ帰宅した後。
クレープを食べた後なのであまりお腹は空いていなかったが、かといって夕食抜きだと確実に変な時間にお腹が空くので、そばを茹でて詩月と二人で食べた。
両親は今日も仕事で忙しいようで帰れないらしく、ならなんでさっきは迎えに行こうかと言ったのかとツッコミを入れておいた。
詩月と姉妹で、ではなくなぜかのえるがやってきて一緒にお風呂に入ろうと言い三人でお風呂に入り、いつものえるに体を洗われているので詩月と二人がかりでのえるを泡まみれにした。
あとはおしゃべりしながら少し姦しい入浴を終えてから、のえるは帰宅した。
「マジでただ一緒にお風呂入りに来ただけなのかよ」
「のえるお姉ちゃん、お姉ちゃんのことほんとに大好きだからねー」
「まだ手のかかる妹程度に扱われてる気がするんだけど」
「まだまだ女の子初心者だもん。手はかかるよ」
「早くひとり立ちしないとな。それはそうと、シズってもうFDO始めてんの?」
もうじき始めると言ってから何日かすぎているので、もう始めている頃だろうと聞いてみる。
「うん、三日前に始めた」
「なら教えてくれたっていいじゃないか。色々手伝ったのに」
「お姉ちゃんみたいにめっちゃ強いプレイヤーについていくと、手探りでやる楽しさがなくなりそうだから遠慮したの。ていうかあれだね、リアルすぎて面白いけど逆にちょっと怖いね」
「やっぱまずその感想か。で、今何してる?」
「服の素材をかき集めてる」
「……マジでボクを、ゲーム内でも着せ替えるつもり?」
「だって言質取ったもーん。あ、お姫様にも会いたいからフリーデン連れてって? 何ならギルドに入れて?」
きゅるん、とぶりっ子ポーズしながらお願いしてくる詩月。ちょっとそれが腹が立ったので、素早くデコピンをして額を弾いた。
ちょっと強めにやってしまう頭が後ろに仰け反り、額を抑えてしゃがみこみ「おぉ……」と女の子が出しちゃいけない声を出していたが、すぐに立ち上がった。
「ねえ酷くない!? 地味に痛かったんですけど!?」
「今のぶりっ子がなんか妙に腹立ったから、つい」
「ついでやっていい威力のデコピンじゃないよねぇ!?」
「めんごめんご」
「超ふりっふりなドレス着てもらいますから」
「ごめんなさいぃ!」
それだけは勘弁してくれと泣き着くが、むすっとした顔で詩月は部屋に引っ込んでしまい、お許しは得られなかった。
なんてこったと自分の過ちを猛省し、部屋に入ってログインする。
今までずっとフリーデンへの行き方を隠してきたが、いつまでも赫竜王を独占し続けるのもよくないかもしれないなと思い配信しようと思ったが、バーンロットはヨミとの再戦を望んでいる。ヨミも、あれを倒すのは自分でありたいと思っているので、まだもうしばらくは自分があれを倒す確率を上げておくことにする。
「ヨミ様!」
ログインすると太陽がかなり西に傾いて空が茜色に染まっており、夜中になったら行軍が大変だと急いでクインディアに向かおうとする。
ギルドハウスを出ると、ハウス前で木剣を振って鍛錬していたステラがヨミに気付いて、駆け寄ってくる。白い肌とそこに浮かぶ珠の汗が空を茜に染める太陽に当たってきらりと光る。
「もう起きて大丈夫なの?」
「はい、もう魔力も回復しきりました。これからどこかに行くようですが、何かありましたか?」
「ゴルドフレイ討伐に名乗りを上げてくれたギルド代表を迎えに行くんだ。かなり強い人で、ギルドマスターは過去にゴルドニールを一人で倒したことがある人なんだ」
「あ、あの理不尽を一人でですか……?」
「すごいよねぇ」
「ヨミ様もロットヴルムという最強の竜王の眷属を一人で倒したそうですが」
「もう二度と一人でやりたくないねあんなの」
確かまだこの話はしていなかったはずなので、恐らくアルマかアリアから聞かされたのだろう。全く、口の軽い兄妹だ、とふっと微笑みを浮かべる。
「あの、そのギルドマスターのお迎えに私も行ってもいいでしょうか? ガウェイン様がいらしていますので、お車で向かうことができますし」
「うーん……。ここに連れてくるし、待ってたほうがいいと思うけど。それに、仮にもお姫様がそんな汗だくで人に会うわけにも行かないんじゃない?」
「……はぅ!?」
長いこと木剣で鍛錬していたのかかなり汗だくで、顔にかかっている髪は汗で濡れて張り付いており、薄手な運動着も濡れて少し透けておりこちらも体に張り付いている。
そのことを指摘されたステラは顔を真っ赤にして、さっと自分の体を抱くように腕を回して胸を隠す。まるで自分がイケないことでもしたかのような反応だが、純粋培養されて育ったであろうお姫様なのだから、この反応は当然かもしれない。
ウィンドウを開いてギルドハウスの中にある湯船にお湯を張るように操作して、十分もしないうちにお風呂が沸くと伝えるとぺこりと頭を下げてギルドハウスに飛び込んでいった。
さて、と軽く伸びをしてからフリーデンの入り口のワープポイントまで行き、そこからクインディアまで飛ぶ。
黄昏時なのでNPCの数は少ないが、この時間はプレイヤーがたくさんいるので、クインディアはプレイヤーでにぎわっている。
「あ、来た来た! ヨミちゃんこっちー!」
どこに美琴たちがいるのかなと見回すと、喫茶店のテラスにいた。カナタとサクラ、トーチ、ルナの対抗戦参加メンバーと、あとなぜかマーリンが混じっていた。
「なんで?」
「やあ、ヨミ。こちらの素敵なお嬢様からお茶のお誘いを受けてね。一緒に時間を潰していたのさ」
「それは分かりますけど、何でここにマーリン陛下がいるのかって意味です」
「うーん、なんと言えばいいかな。仕事も終わったし魔術で影武者置いてぶらり散歩してた、かな。あとマーリンと呼び捨てでいいし、敬語もいいよ。僕としてはそっちの方が気軽で楽だし」
「……じゃあ、マーリン。王様がそんなでいいの?」
「ははは! 純粋な人間じゃないとはいえ体の構造はほぼ人間なんだし、働き詰めじゃ体を壊しちゃうからね。こうして息抜きしないと」
息抜きのために城を抜け出してこんなところに護衛もつけずに来るのが問題なのだが、という言葉は出さずに飲み込む。
先日の戦いで、マーリンは下手な護衛なんかよりもずっと強いので、一人でも大丈夫なのだろう。
「って、純粋な人間じゃない?」
「そうだよ? 120年生きててこの見た目なわけないでしょ」
「それもそうか」
「あ、種族は教えないよ。人間が基、とは言っておくけど」
このゲームには、人間と全く同じ姿をしている固有種族は強いという法則でもあるのだろうか。
美琴もアーネストもリタも、本人の口から人間ではない固有種族だと言っており、三人揃ってものすごく強い。
ちらりと美琴に目を向けると、社長の娘ということである程度の情報を知っているようですーっと視線を逸らしつつコーヒーを嗜む。
「こちらの美琴嬢から聞いたけど、フリーデンに行くことになっているんだってね? 僕もそれについて行っていいかい?」
「別にいいよ。美琴さんもいいですか?」
「むしろ来てほしいくらい。戦力はいくらあってもいいしね」
「分かった。……あ、そうだ。シズもこの世界にいるから、先に迎えに行っていいですか?」
「あ、あの子も来たんだ。いいよ、先に行ってあげて。それまでマーリン陛下と色々お話しておくから」
「すみません。できるだけすぐに戻ってきますから」
ウィンドウを開いてメッセージアプリも開き、詩月とのトークルームに行ってどこにいるのかを聞く。
スタンバイしていたのかすぐに既読が付いて、ダブリスの服飾店にいると返って来た。
なんでそこに、と考えるよりも先に何が何でもヨミを色々と着飾るつもりなのかと背筋が震えた。
お願いだからもっと控えめなものにしてくれと嘆息して、クインディアのワープポイントからダブリスまで飛んで詩月を迎えに行った。
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