横浜ロマン譚
涼風 弦音
第1話
星が見えない。それだけで心細くなるなんて、数か月前は思ってもみなかった。半額シール付きの惣菜が入った袋は大した重さではないのに、アパートまでの道のりを遠くに感じさせる。
横浜の大学に通うことになって、一人暮らしを始めて二か月。ド田舎出身の私にとって、コンクリート舗装の道はどこか気持ち悪いし、ヒールで足を痛めることもしばしば。毎朝の化粧はまだ慣れなくて、華の女子大生も楽ではなかった。
息を少し切らしながら、部屋の鍵を取り出す。
「ただい……」
つい癖で言ってしまいそうになるけれど、真っ暗な部屋にはどうせ誰もいない。電気を付け、ローテーブルにどさりと、ビニル袋を置く。無音から逃げるように、テレビを流して携帯の電源をつけた。携帯のロック画面には
「6月2日、レポート・開港資料館」
と予定が書かれている。レンジをしに立つのさえ億劫で、冷え切った惣菜のビニルカバーを剥ぎ取った。
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