第9話 …嘘なんだよな…

実乃里「…先生…北柏第四公園…お分かりになりますわね?」

「…ああ」

俺たちの家は実は近い。その公園はちょうど俺たちの家から等距離くらいの位置にある、こじんまりとした公園だった。


実乃里「あれはまだ私が小学校に入学してすぐでしたわ。あの頃は母が未だ働いてらっしゃって…私は中学一年生の兄が迎えにくるまで、よくその公園で遊んでおりました」

「……」

実乃里「その日の公園には、先客がおりました。私より少し小さな女の子、恐ろしく可愛い…私より可愛い女の子って…私…初めて目の当たりにしたのかも」

何となく…五月のことを…言っているような気がした。

実乃里「その子は滑り台で遊んでいて…楽しそうで…でも…何回目でしたか、その子のお洋服が引っかかっちゃったのですね…体制を崩したその子は顔からお砂場に飛び込んでしまって」

…うん、そんなこともあったかも…

実乃里「その子は大泣きしてしまって…私も思わず駆け寄ったのですが、何も出来ずオロオロしてしまって…」

「……」

実乃里「そのときですわ…兄と同じくらいの中学生が突然現れて、彼女を力強く抱き上げましたの…それだけではありませんわ…その人は傍らでオロオロしていた私の頭を優しく撫でながらおっしゃいましたの『ごめんね?でもありがとう!』って」

「……」

実乃里「初恋でしたわ」

実乃里ちゃんの瞳が近い。

実乃里「初めて先生とお会いしたとき、確信致しましたわ!先生こそ私の運命の!」


「ごめん、俺たち五月が小学生になってからこっちに引っ越してきたんだ。人違いだね」


実乃里「……」

「……」

実乃里「あ…バスルームのお湯を出しっぱなしでしたわ、失礼致しますわ」

そそくさっと俺から離れていった実乃里ちゃん。

やれやれ、これで人違いだったから俺はお役ごめん!ってことなら良いんだけど…


そうは行かなさそうなんだよな…何故なら。

俺、分かっちゃうんだよね…人の嘘。


今の実乃里ちゃんの話は……ほとんど嘘なんだよな…

さて、実乃里ちゃんはどうするのか…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る