#2 お手並み拝見

「な、なに・・・?」


全身に痛みが走り、直ぐに体を起こすことが出来ない。おでこをぶつけたようで、床に自分の血がぽたぽたと垂れてきていた。ゆっくりと視線だけを自分が元いた位置に向けるが、莉瀬と彩葉の間には壁のように瓦礫が積み上げられていた。


ーーコンクリート片?電車の天井どころか駅の天井も落ちてきた・・・?


何が起きたのか状況把握が出来ない中、とりあえず体を起こす。


「彩葉ちゃん、大丈ー」


彩葉の安否を確認しようと少し大きな声をあげたその時。天井の空いた穴から、何かが落ちてきた。一瞬何が起きたか分からなかった。だが、落ちてきたな・に・か・を見ると、莉瀬の表情は一変し、目を逸らす。


「メ、メドゥーサッ・・・!」


莉瀬の目の前には、莉瀬よりも一回り大きなガタイの荒い息遣いのメドゥーサが仁王立ちしていたのだ。目を合わせると石化してしまう。


ーー天井もこいつが破壊したの?掴まれたりしたら普通に死ぬかもっ・・・!


「莉瀬ちゃん、伏せて!」


状況を把握した莉瀬の表情が曇ったとき、瓦礫の隙間から一筋の光が莉瀬の目に飛び込んできた。同時に聞こえた彩葉の声で、莉瀬は咄嗟に床に伏せ、頭を覆った。


次の瞬間、瓦礫の向こうから先程のメドゥーサを倒したレーザービームよりも何倍も太く威力の高いレーザービームが車両を突き抜けた。

メドゥーサには当たらなかったものの、莉瀬と彩葉の間に積みあがっていた瓦礫に人が通れる程の大きさの穴が空いていた。


ー蓬田彩葉、能力:雷


「莉瀬ちゃん、敵、交代!!」


穴の向こうから目を光らせた彩葉がそう言う。

彩葉の前にも一体メドゥーサがいたのだった。


莉瀬はある程度状況を把握し、頷き立ち上がると、大振りで殴りかかってくるメドゥーサの攻撃を華麗に避け、彩葉の開けた穴をくぐり抜け、彩葉のいる方にたどり着いた。


「無事で良かった。凄い力が強そうなメドゥーサだから、気をつけて。」


「了解っ!こっちは能力持ちっぽいから、頼むね!」


互いに敵の説明を終えると、今度は先程莉瀬がいた方に彩葉が走っていった。


「うわっ!確かにこりゃ掴まれたらやばいかもっ・・・!」


莉瀬よりも10cmほど背の低い彩葉からすると、そのメドゥーサはもはや巨人レベルだ。

彩葉を見るなりメドゥーサは、電車の椅子を片手で掴み持ち上げ、彩葉に向かって思い切り投げ飛ばして来る。やばっ、とつぶやき避けようとするも、椅子は大きすぎて避けきれそうにない。瞬時にそう判断した彩葉は足に電気を纏い、椅子を光の速度で蹴り返した。

思わぬカウンターにメドゥーサは激しく音を立て車両後方まで吹き飛んだ。


「いったぁーい!」


雷の能力を持つ彩葉は、光の速度で移動することや腕や足を動かすことも可能だが、自分の足で蹴っていることに変わりはない。電車の椅子を思い切り蹴り飛ばした彩葉の足は赤く腫れあがり、傷だらけになっている。


だが、なんだか楽しそうな彩葉は歯を出してニヤリといたずらっぽく笑った。

吹き飛んだメドゥーサは、彩葉を殴ろうと、勢いよく立ち上がり、彩葉に向かい走ってくるも、彩葉は先ほど足にのみ纏っていた電気を全身に纏っていた。お構いなしに殴りかかってくるメドゥーサだったが、纏う電気に触れた途端、痛みで手を引いた。


隙ができたメドゥーサに対し彩葉は手を前に出し、先程と同じ、威力の高いレーザービームを手のひらから放った。そのビームはメドゥーサの体を一撃で貫いた。ガタイの良かった体には先程の瓦礫に空いた穴のようにぽっかりと穴が空いている。


体に穴の空いたそのメドゥーサは、ゆっくりとそのまま後ろに倒れ、みるみるうちに黒い塵となり消えていった。


「うっ。」


レーザービームを放った直後、彩葉は顔を顰め、左腕を抑えた。最初に吹き飛ばされたときに刺さったであろうガラス片が、腕にいくつも刺さっていた。


「全然気づかなかった・・・。」


完全にエネルギー切れだ。スイッチが切れたように体を纏う電気が消え、彩葉はその場に座り込んだ。気づかなかった腕の痛みも、足の痛みも増していく。


莉瀬の事が気になり振り向くが、また瓦礫が崩れ落ちてきており、彩葉の空けた穴はふさがってしまっていた。もう一度穴を空けるほどの気力もエネルギーもない彩葉は、足を引きずりながら電車の外に出ると、その場に倒れ込んだ。


「こちら、戦闘部隊藤白班蓬田。現在ー」


そして、倒れ込んだままインカムで連絡を取り合い始めた。


ーーー


一方、莉瀬と能力持ちのメドゥーサはまだ戦っている最中だ。


服の裏に隠していた八咫烏研究部隊作成の銃を取り出し、発砲するも、メドゥーサは撃たれる直前に自分の体に穴を作り、銃弾は穴を通るだけだった。


ーー変身系の能力?いや、体そのものを液体に変え、体に穴を開けることが出来ると推測する方が妥当か。


メドゥーサは手から野球ボールほどの大きさの液体の塊を出し、莉瀬に向かって投げてくる。最初にその塊がかすった肩の服の部分は溶け、見える肌はやけどのような傷になっていた。


ーー当たったらダメなやつね。


そう理解すると莉瀬は続けざまに飛んでくる塊を避け続けた。だが、莉瀬が避けた先にある椅子などに塊が当たると、椅子は黒く変色し溶けていた。


ーーあまり避け続けているだけじゃダメね。


そう思ってからは早かった。飛んでくる塊を避けながら、莉瀬は床に落ちていたボストンバッグを思い切りメドゥーサに投げ飛ばした。思いもよらぬ行動に、メドゥーサはダイレクトにその攻撃をくらい、よろめいた。ボストンバッグを投げた瞬間、莉瀬もボストンバックについていくように走り出す。メドゥーサが気づかぬ間に、距離を詰めていた莉瀬は、よろめいたメドゥーサの腕を掴んだ。咄嗟に腕を液体に変えようとするメドゥーサだったが、


「させないっ!」


莉瀬は目を光らせ、力強くメドゥーサの腕を掴み直した。すると、メドゥーサの腕の液体化が止まり、手から液体の塊が出てくるのも止まった。メドゥーサの腕を上に持ち上げ、メドゥーサの体を壁に叩きつけると、手に持っていた銃を心臓の位置に突き付ける莉瀬。そのまま目を閉じ、ゆっくりと引き金を引いた。


バンッ。銃声が車内に響く。すると、先程と同じようにメドゥーサの体に穴が空くも、今回の穴は先ほどまでのメドゥーサが故意的に空けていた穴とは違う。空いた穴から段々と黒い塵と化して行ったのだ。


莉瀬がメドゥーサを倒し終わる頃、黒い煙は完全に晴れ、視界が良くなっていた。車内の窓から外を見ると、ホームに倒れている彩葉を見つけ、莉瀬は慌てて外に出る。


「彩葉ちゃん!大丈夫?」


青ざめた顔で彩葉に駆け寄り、体に触れようとする莉瀬だったが、先程メドゥーサに触った手に激痛が走り、触れようとした手が止まった。


「だいじょーぶだよぉー、莉瀬ちゃんこそ大丈夫〜?手、怪我したの?」


「大丈夫っ。」


そう言いつつ手のひらを見ると、負傷した肩と同じように赤く、火傷のような傷になっていた。


「無事なら良かったぁ。いやー、舐めてたらダメだね。まさか追加で二体来るとは・・・。情報部隊に報告はしたからもうすぐ応援が来ると思うよぉー。」


「あの時、咄嗟の判断流石だった。ありがとう。」


あの時、とは彩葉が敵を交換しようと提案した時のことだ。褒められた彩葉はへへっと頬が緩む。


「いやー、すぐ避けてくれたみたいで良かったぁ。あのメドゥーサ、なんの能力だったの?なんか、攻撃が効かなかったんだよねぇ。」


「体から液体を出したり、体を液体に変える能力ね。電気を通さない液体だったのかな。触ったり当たったりしたところが火傷みたいな傷になってるの。」


負傷した手のひらを彩葉に見せると、その有様に彩葉は顔を顰めた。


「うぇー・・・。こっちは攻撃力は高そうだったけど、電気触ったら痛がって怯んでたし、見た目より楽ですぐ片付いたからよかったよ。」


「一体目を倒した途端現れて、お互い相性の悪いメドゥーサと戦うことになるなんて、偶然がすぎる・・・。」


「ははっ、確かにぃー!ねぇごめん、引っ張って起こしてくれない?疲れちゃって起き上がる気力がない〜。あんまり他の部隊の人にこんな醜態見せれないしねっ。」


「ふふっ、いいよ。」


莉瀬が負傷していない方の手で彩葉の手を引き二人が立ち上がると、丁度八咫烏の医療部隊と支援部隊が到着した。

そして荒れた現場は支援部隊により早急に片付けられ、翌日には何事も無かったかのように電車は運行していた。


ーーー


「ふーん、弱点は補い合ってるわけか。悪くない。」


「マスター。どうやら先程の二人の他にもう一人男がいるらしく、三人で一班らしいです。今日はまだ、もう一人の男は居ないようでしたけれど。」


「手練で固めてるんだな。雷の能力の女、相当強いだろう。あ・れ・を一撃で仕留めちまうんだから。」


「そうですね。」


「ふーん、面白い。だが、藤白莉瀬の方はまだ上手く使いこなせていないようだな。あれじゃあ宝の持ち腐れだ。機会を見て、絶対に藤白莉瀬の能力を物にする。あの、誰もが欲しがる能力を。」


ーーー


ー藤白莉瀬、能力:能力無効化


彼女達は、特別な能力を持っている者のみが入れる組織、八咫烏やたがらすの隊員であり、日々死闘を繰り広げている。

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