反逆のオウル

良花アト

#1 初任務は黒煙の中

ーー痛い。暗い、なんだか・・・うるさい。


真っ暗な中、人々の声がする。サイレンの音が近づいてくる。そして、やけに落ち着いた、ひとつの足音が近づいてくる。すぐそばで、その足音が止まった。


「・・るみたいです。はい、・・い。」


何かを話しているが、よく聞き取れない。


「・・・。」


体を動かされているような・・・気がする。全身に力が入らない。水が流れているような感覚がする。急に視界が明るくなった、様な気がする。けれどぼやけて何も見えない。目も、開けられない。


「お、おい!怪我人をそんな抱き上げたりしたら・・」


ーー怪我・・・?そっか、流れているのは、血か。


ーー何があったんだっけ・・・車に乗ってて・・・


ーーあ・・・れ?私は・・・誰と・・・何をしていたんだっけ・・・


「ードサッ!」


何をしているんだろう。もう、意識が、遠のいていく。


ーーー


「今日から、彼女が動き出す。そうすれば、『奴ら』の動きは今以上にもっと活性化するだろう。そして、彼女を狙う能力悪用者も・・・。綾斗。約束を守り、任務を遂行出来るな。」


「了解。」


ーーー


「キャーっ!」


「メドゥが出たぞ!」


どこからか、人々の叫び声が聞こえてきた。


「な、なに?!」


街を歩いていたどこか他の人とは違う雰囲気の少女二人の顔色が変わる。すると、二人の耳につけていたインカムから、声が聞こえてきた。


「こちら情報部隊、駅構内2番ホームに停車中の電車内にてメドゥーサ出現!至急応援願います!」


「こちら藤白。蓬田隊員と共に目標地点に向かいます。」


「先に到着した隊員が先ほど車両内の乗客の避難を行っていますので、メドゥーサを発見次第早急に退治願います。黒煙に覆われているそうですが、害は無いものだそうです。」


「了解。」


会話を終えると二人は顔を合わせ頷き合い、人々の悲鳴の方へと走り出した。世間は休日のその日、二人がたどり着いたターミナル駅は騒然としていた。

人々が青ざめ息を切らし走って駅構内から逃げ出てきている。それもそのはず、駅構内は真っ黒の煙のようなもので覆われていたのだった。状況がわからず狼狽する人々で駅周辺はひしめいていた。

けれど二人の少女は迷うことなく駅構内へと入っていく。


「何この煙!こんな煙を出すメドゥーサなんて初めてなんだけど!」


「とりあえず2番ホームに行きましょっ。」


二人は案内看板を辿り駅の中を駆け抜ける。幸いほとんどの人は避難をしたようで、二人の向かう方から逃げてくる人は少なかった。


「あった!あそこ!絶対あそこの中居る!!」


2番ホームに着くと、一段と濃い黒煙に覆われ異様な雰囲気を放つ電車を発見した。二人は一番後ろの車両の空いているドアから中に入る。ガラス片や荷物が床には散乱しており、歩いて進むのが精いっぱいだ。


「彩葉ちゃん。明かりをお願いできる?」


ロングヘアの端麗な顔立ちの少女藤白莉瀬ふじしろりせがそう言うとお団子ツインテールの人形のような幼い顔立ちの少女蓬田彩葉よもぎだいろははウインクをして片腕を伸ばし手を開いた。すると、彩葉の目が光り輝き始めた。


そして目を光らせると、直後に手からはビリビリと電気を纏う光の球体が現れた。空中に浮かぶその光は辺りを照らし、二人は暗い煙の中をスムーズに進んで行く。


「一応人が取り残されていないか、確認しながら進みましょ。」


「OK!」


そして、何車両か進んだ先で二人の足がぴたりと止まった。


「いた・・・メドゥーサ!!」


やっと目標のターゲットを見つけたのだ。メドゥーサ。その名の通り人を石に変えてしまう化け物だ。姿形は人間と変わらないが、鋭い牙や縦長の瞳孔、長く先が裂けている舌を持つのが特徴だ。


だが、ターゲットのメドゥーサは悄然とし、動く気配がない。ただ、黒い煙が体から放出しているだけだ。


「なんだ。余裕じゃん。」


そう呟いた彩葉の声色は先程までのふわふわとした雰囲気とは打って変わった。そして、また手を前に出し、今度は手を銃の形にした。すると、指先から瞬く間にレーザービームが放たれ、人間と同じ心臓の位置を撃ち抜いた。


「グアッ。」


メドゥーサはそう一声だけあげると、散り散りの黒い塵となり消えてしまった。同時に黒い煙も段々と薄くなって行った。


「煙を放つだけで全然攻撃もしてこないし大騒ぎの割には別に何ともなかったね!」


彩葉がまた元のヘラヘラとした雰囲気に戻り、莉瀬にVサインを向ける。


「ふふっ、そうね。煙も薄れてきたし、前方車両にも取り残された人がいないか確認してくるね。」


「りょうかぁ〜い。」


そう言い莉瀬が前方車両に向けて歩き出した時。


「莉瀬ちゃん!!危ない!!!」


彩葉の緊迫した声に驚き振り向くと、先程まで莉瀬の立っていた場所の真上の天井が、勢いよく崩れ落ちてきていた。轟音と共に爆風が襲い、二人は車両前方と後方の壁に打ち付けられた。

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