七番目の勇者、二度目の旅はくだらない魔導書を集めながら、相棒のもふもふ魔族と好き勝手に生きようと思います
菊池 快晴@書籍化進行中
第1話 七番目の魔法使い、二度目の旅はくだらない魔導書を集める旅にします
魔王が死んだ。
王都の凱旋パレードは、今まで見たことがないほど華やかだった。
国民が総出で花びらを投げている。
子供も大人もお爺さんもお婆さんも笑顔で、勇者御一行は、誇らしげに手を振っていた。
そんな中、私はちょっぴり複雑な気持ちで花びらを投げていた。
パレードが無事に終わり、勇者御一行が王城へ戻っていく。
今後は王都の騎士団長として職務に就くとのことで、ゆくゆくは姫様と婚約を結ぶとのことだ。
私は、路地の角を曲がった人気店の酒場に入ると、
「エリン、ここじゃよ」
椅子に手を置いてポンポンと叩いたのは、戦士で前衛のボム。
白いひげを蓄えたドワーフで、いつも私たちを守ってくれていた。
ちなみに私は魔法使いだ。
――七番目の勇者の。
「みんなは?」
「パレードが収まったら来るじゃろう。みんなエリンと違って、まだ気持ちが追いついてないんじゃ。わしも含めてな」
「そっか。でも、これからどうしよう、とは思うよね」
「そうじゃの、旅を始めてから五年か……色々あったのぅ」
「そうだねえ。――七番目の勇者として、最後まで職務は果たせたかな?」
「エリン、お主は世界最高の魔法使いじゃ。わしらがもっと強ければ、パレードのど真ん中で手を振っていたのはお主じゃろう」
「ふふふ、それはないんじゃないかな」
ボムが褒めてくれて嬉しい。
既に料理を頼んでくれていたらしく、ほどなくしてご馳走が並んだ。
たくさんのお酒に肉料理や魚料理、サラダまで。
「凄い。ご馳走だね」
「わしらの旅も終わった。先に初めておくとするか」
「そうだね。――五年の旅に乾杯」
美味しい肉料理に舌鼓をしていると、隣の席からヒソヒソと声が聞こえてきた。
「あの人、
「ほんとだ……今まで何してたのかな? 王都に戻ってきた理由ってなんだろう?」
「すぐ戻ってこれるぐらい近くにいたんじゃない? さぼってたとか」
くすくすと笑いながら、聞こえないように話しているけれど、私の耳は随分と良い。
するとボムが立ち上がろうとした。
私はそれに気づいて肩を抑えて、ふたたび着席させる。
「ありがとボム。でも、大丈夫。私は気にしてないよ」
「ふむ……わしらの五年を何だと思っとるんじゃ。エリンの偉業を一から並べてやろうかのう。目ん玉が飛び出るぞい」
「ふふふ、そういってもらえるだけで嬉しいよ」
勇者とは、魔王を倒すことができると国王陛下に認定された人の二つ名だ。
一番目の勇者は、七罪の一人にやられてしまった。
二番目、三番目は、魔王に。
四番目と五番目は行方不明となり、六番目がついに魔王を倒したのだ。
誰も到達できなかった偉業だ。
そして私が、認定最後の七番目。
『エリン、お主は最高峰の魔法使いとして初の女性勇者だ。期待しているぞ』
小さな村の出身だった私は、魔法使いになりたくて一生懸命に努力した。
才能があったらしい。魔法学園を卒業後、私は
もちろん一人じゃない。
今目の前にいる戦士のボム以外にも、二人の仲間がいる。
魔王城までもう少しということろで、私たちの旅は唐突に終わった。
『勇者が、勇者が魔王を討ち取ったぞおおおおおおお』
それを聞いたのは、呪われた村で魔族と戦った後だった。
「……わしはいいんじゃよ。もう十分長く生きた。じゃが、エリンはもっと認められていいはずじゃ。身内びいきではなく、エリンは六番目の勇者よりも多くの人を助けた。弱気ものを見捨てず、苦しいとも言わず、本当に素晴らしかった。きっと魔王も倒していただろう。忖度なしに、エリンは人類最強じゃよ」
「ふふふ、ありがとね。ほら、お肉料理冷めちゃうよ。ボム」
「ふむぅ……」
突然、旅の目的を失った私たちは、緊急収集で王都に戻ってきた。
初めはみんな嬉しそうだった。けれども、いろんな話を耳にするようになってから、複雑な気持ちと戦うことになった。
「七番目は何をしてたんだ?」「そんな奴……らいたか?」「旅の資金をもらっておいて、お役御免って羨ましいよな」
決して楽じゃなかったし、みんな頑張っていた。
けれども、そんな気持ちはわかってもらえなかったのだ。
私はいい。ただの村の少女が、強くてかっこいい仲間と共に世界各地を回れたのだから。
それだけで満足だった。
でも、仲間が悪く言われるのは心が苦しかった。
「オレはいいんだよオレは! でも、エリンはすげえんだよマジで……石化されながらも魔族に立ち向かえるやつがいるか!? いるわけねえよなあ!?」
「酔いすぎだよ。ドナー」
「うう、エリン! オレは悔しいぜえ……」
「はいはい、ありがとね」
やがて、仲間たちもやってきた。
いつも明るくて陽気な魔法戦士のドナー。
「でも、ドナーの言う通りです。エリンはどんな困難にも立ち向かっていました。六番目の勇者を悪く言うわけではないですが、エリンにも同等の名誉を与えるべきです」
いつも冷静な金髪をなびかせたミリカが、真剣なまなざしでそういってくれた。
ボムは、ただただ頷いていた。
私たちの旅はこれで終わり。
みんなそれぞれの故郷や王都で暮らすことになる。
「ありがとうみんな。でも、私はみんなと過ごした五年の旅が宝物だよ。今まで、こんな私についていてくれてありがとう」
その日、私たちは旅の思い出を語りながら一晩中飲み明かした。
時日が立つの早い。
あれから、半年が経過した。
王都の宿で目を覚ます。朝日がまぶしくて気持ちがいい。
鏡を見る。出発前より大人びた顔。
戦うのに邪魔だからといって短く切っていたけれど、今は長くて随分と女の子らしい金髪になった。
「――よし、行こう」
頬を叩いて気合を入れた。
勇者が王妃と婚約し、王都は幸せに包まれていた。
いまだに魔王討伐の話で持ち切りだ。
誰も私のことなんて覚えていないらしくて、ちょっとだけ切なくて、ちょっとだけ気持ちが楽だった。
消耗品をいくつか購入して、北門まで歩いていると、見慣れた顔が立っていた。
信頼できる仲間たちだ。
「みんな、見送りはいいっていったのに」
「そう言うわけにはいかぬよ。七番目の大魔法使い、エリンの門出じゃからの」
「オレもいきてえけどよお! 家のことがあってよおお!」
「わかってるよ。これからは兄弟を守ってねドナー」
「何かありましたらいつでも私をお呼びください。エリン」
「ふふふ、頼りにしてるわミリ」
私は旅に出ることにした。
これは、二度目。
一度目は、魔王を倒す旅だった。
それはもう終わり。成し遂げられなかったけれど、大満足。
二度目は、私の旅。
これからは、自分の為だけに生きる。
自己中心的に、楽しく生きてやろう。
目的だってある。
すると、ボムが、さっそく
「ほれ、
「ええ! ありがとう! わわ、凄い。なにこれ」
「掛け間違えたボタンを元に戻す魔法だ」
「ふふふ、ありがとう。後でしっかり習得するね」
魔力には限りがある。
幸い私は力が強かったけれど、無駄な魔法は無意味に魔力を消費する。
それもあって、攻撃魔法や防御魔法、回復魔法にすべてを注いでいた。
けれども、世の中には沢山の魔法、魔導書がある。
だから私は、くだらない魔法をたくさん覚える旅に出るのだ。
無意味で、無駄で、何の意味のない。
心にぽっかり穴が開いていないと言えば嘘となる。
だから、それを埋める旅でもある。
「それじゃあみんなまたね。いつ帰ってくるのかわからないけれど、みんなと行けなかったところも、思い出しながら楽しんでくる」
そして私は旅に出た。
仲間と共に血と汗を流した旅。
今度は、くだらない思い出として上書きするために。
「……ふふふ、今日の夜、わざとボタンを間違えてみよう」
さあて、どんなくだらない魔法と出会えるかな。
――――――――――――――――――――――
ドラノベ中編用。
のんびりまったり旅します。
相棒は二話目で現れます。もふもふです。黒いもふもふです。
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