第35話「意外と近くに運命の相手がいるかもよ? ねー、美月♪」
「ほらこれ。お内裏様とお雛様」
「わおっ、すごっ! めっちゃいいじゃーん! 綺麗じゃーん!」
陽菜が盛大に騒ぎ立て、
「お雛様の着てる十二単とか、すごく細かく作られてるよね」
木陰さんは興味津々って感じだ。
「見るからにいいとこのお嬢さまって感じがするよな」
「するする! ちょおする! しかも保存状態もすごくない? シミ一つついてないよ?」
「大事な思い出ってことが、すっごく伝わってくるよね。いいなー」
「こりゃ、ばあちゃんも捨てられないよな」
「だよねー」
「これは絶対に捨てられないよ」
「大事にしまってあるし、きっと子供や孫に女の子がいたらプレゼントしたんだろうけど、うちの家系ってみんな男だったんだよなぁ」
こればっかりは俺にはどうしようもないことなんだけど、ばあちゃんがこのひな人形に持っていた想いとかを察すると、少しだけ申し訳なく感じてしまう。
そんなことを考えていた俺に、
「だったらお祖母ちゃんが生きてる間にたくみんが結婚して、女の子が生まれたら飾ってあげないとだねー」
陽菜が妙に楽しげに言ってきた。
俺の肩を持つ手がニギニギされる。
接触強度が上がるに比例して、恥ずかしさが増していく。
「そんな先のことを言われてもな」
「なに? たくみんは彼女とか結婚とかあんまし興味ない感じ? お一人様志向? それとも草食系?」
「そういうんじゃなくて、そもそも女の子とそういう関係になるのが難しそうっていうか」
高校生にもなって、俺にはつい昨日まで彼女どころか、仲のいいガールフレンドがいたことすらなかった。
クロトを助けたことで奇跡的に陽菜と木陰さんと仲良くなれたが、これはマジで奇跡以外の何物でもなく、ぶっちゃけ偶然の産物だと思ってる。
再現性は限りなくゼロ。
つまり現状の俺では結婚とか以前の問題だ。
「そんな悲観的に考えなくても、意外と近くに運命の相手がいるかもよ? ねー、美月♪」
「ひ、陽菜ちゃん! だからそういうんじゃないってばぁ」
「えへへへー♪」
「えへへーって。もぅ、ほんと陽菜ちゃんは口が軽いよね。ヘリウムガスでできてるよね」
ヘリウムガスってアレか。
風船の中に入ってるやつか。
「そんなことないしー。本当に大事ことは絶対に漏らさないしー。女の友情だしー」
「なぁなぁ。なにが『そういうんじゃない』だ? っていうか何の話をしてるんだ? 俺の話をしてたはずなのに、途中から木陰さんの話になってたっぽいけど」
「ごめんねたくみん。これは女の子同士のお話なの」
「そうなのか。悪い、上手く話についていけなくてさ」
「謝らなくてもいいってー。それにそのうち、たくみんにも関係するかもしれないしね♪」
「え? 俺に? そうなのか?」
「するかもしれないしー、しないかもしれない的な?」
「悪い、やっぱりよくわからないな……」
キラキラ女子の移り気なキラキラトークは、どうやらモブ男子には理解が難しいようだ。
「も、もうこの話はいいと思うなぁ!」
と、木陰さんがちょっと強い口調で言った。
少し興奮しているのか、若干顔が赤い。
「あ、ああ。わかった」
イマイチ腑に落ちなかったものの、木陰さんが強く主張してきたので、俺はそれ以上は根掘り葉掘り聞くことはしなかった。
人の嫌がることはしない。
当然だ。
「でもアタシお店以外でひな人形を見るのって、初めてかも? あ、でも小さい頃に美月の家で見たっけ……? あったよね?」
すると陽菜は、それはもうあっさりと話を雛人形へと戻した。
本当にトークの流れが早い。
急流下りでもしているかのようだ。
というか俺、キラキラ女子たちのトークの流れの速さに、ぜんぜんついていけてないの、ちょっとヤバくね?
若い子の話についていけないオジサンみたいじゃね?
いやん!?
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