第14話 木陰さんのお胸と、陽菜の見せパン、焦る俺。

「ほんとだ。鼻がスピスピいってる」


 なんだこいつ。

 可愛すぎだろ。


 あまりの可愛さに木陰さんなんて、顔がにやけまくって、はにゃーんってなってしまってるんだが?


「もう安全だって、本能で分かるのかな?」

「動物の本能ってすごいらしいもんな。地震を察知したり、って――うっ!?」


 しかし可愛い子猫という共通の話題で話が弾んだところで、俺は気が付いてしまった。


 子猫は木陰さんに抱かれている。

 つまり子猫に顔を近づけるという事は、目と鼻のすぐ前に木陰さんのお胸があるということに。


 世代平均をはるかに越えるお胸は、子猫を抱きかかえる両腕によって左右から押し上げられ、普段よりもさらに自己主張を強めていた。


 でかかった。

 人類最高峰の山脈だった。


 すごい。


 俺が子猫を抱っこする時に子猫がいるであろう場所より、明らかに前にいる。

 子猫と木陰さんの間には、男子には決して存在し得ない、女の子だけが持つ「特殊空間」があった。


 思わず視線が吸い込まれそうに――じゃなくてだな!


「そ、そういえばたしか物置部屋に、ばあちゃんが昔猫を飼ってた時に使ってた猫ハウスとかいろいろ残ってたはずだから、ちょっと行って取って来るよ」


 俺は話を変えつつ、さりげなく木陰さんのお胸から距離を取った。


 こういうのはよくない。

 うん、すごくよくない。


 俺は意識的に深い呼吸をして気持ちを落ち着けつつ、2階にあるいろいろと使わないものとか季節ものとかが押し込められた部屋に向かうと、猫ハウスを取ってきた。


 ついでに爪とぎ、おトイレセットと未開封の猫砂なんかもまとめて置いてあったので、ひとまとめにして抱えて持ってくる。


 全てビニール袋に入れられていたので状態は良好だ。


「ふわっ、いろんなのが残してあったんだね」


「思い出が詰まってるからなかなか物が捨てられないって言ってたし、きっとこれもばあちゃんの大切な思い出なんだろうな」


「すごくわかるかも。わたしも小さい頃に貰ったぬいぐるみとか、ほつれて色褪せちゃっても、なかなか捨てられなくて」


 言いながら、木陰さんは抱いていた子猫を猫ハウスの中にそっと移した。


 子猫は一瞬、目を覚ましたものの。


 みゃ……みゃ……。


 寝ぼけ声のように小声でむにゃむにゃ鳴くと、猫ハウスに敷いてある猫用毛布をもそもそと抱きかかえて、再び眠りの国へと旅立っていった。


「新居を嫌がるかも、とかちょっと心配したんけどな。意外とずぶといな、こいつ……」


「微妙に大物感があるよね、この子。――あ、そういえば名前、まだ決めてなかったよね?」


「そういや名前を付けてなかったっけ。こいつとかこの子じゃ、ちょっと不便だもんな。木陰さんは何か候補はある?」


「はいはいはーい! クロがいいと思いまーす! 理由は黒いからでーす!」


 そこへドライヤーで濡れた制服やら髪やらを乾かし終えた陽菜が戻ってきた。

 濡れてしおしおペタンとしていた髪が、すっかりとふんわり感を取り戻している。


 陽菜はテンションあげあげのまま、クッションにバフンと勢いよく座った。


 その時に短い制服スカートがヒラヒラと舞って、俺はついついその動きを目で追ってしまう。

 太すぎず、細すぎず。

 適度に引き締まった健康的な太ももが、スカートの合間からチラリと見えた。


 これはもう男の子の本能みたいなものだから、許してほしい。

 目の前で短いスカートをヒラヒラされたら、全男子が絶対に目で追っちゃうから。


「陽菜ちゃん、そんな勢いよく座ったら、スカート短くて見えちゃうから~!」


 木陰さんが顔を真っ赤にしながら慌ててて注意するが、陽菜はけろっとした顔で答えた。


「えー? ちゃんと見せパン履いてるから平気だし。ほらほら、ね?」


 そしてあろうことか、陽菜がスカートのすそを持ちあげた。

 黒いパンツ的な物がもろに見えてしまう。


「『ほらほら、ね?』じゃないからね陽菜ちゃん!?」


 そんな陽菜の行動を見て、木陰さんの顔はもう真っ赤っかだ。


「だから見せパンだってばー。ほらほらー」


 しかし陽菜はというと、木陰さんの心配なんてどこ吹く風。

 短い制服スカートを持ち上げたままで、あろうことかひらひらっとさせる。


「だから見せちゃだめだよぉ~! 見せパンは見られてもいいように履くものであって、見せるためのものじゃないんだからねっ」


「えー、別に違いなくなーい? 言ったら水着と一緒なわけでしょ? ねー、たくみん。たくみんもそう思うよね?」


 陽菜が俺を見た。


 ちょ、ま!?

 ここでこの話題を俺に振る!?

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