家に転がり込んできた陰キャな担当さんはサキュバスっ娘!
東雲 葵
第1話
「ごめんなさい。私たち、別々の道を歩んだ方が良いと思うの……」
ボク・
高校最期の日—————。
ボクと彼女は人気の少ない桜の木の下で、彼女にそう告げられた。
その桜の木は、その下で告白をすれば、永遠の愛が叶うなんて言う都市伝説が語り継がれている。
そんな木の下でボクは彼女から別れの言葉を聞かされた。
茫然としているボクの目の前で彼女は、作った笑顔でそう言った。
「ど、どうして……?」
「これがきっと正解なんだよ……」
彼女はそう言った。
彼女の特徴の一つである長い黒髪が風にサラサラッと靡いた。
いや、分からないよ……。ボクにはそれがどういう意味なのか分からない。
ボクのこれまでのお付き合いしてきたことで、何か問題があったのだろうか……?
彼女との交際が始まったのは、高校一年生。
彼女の方から声を掛けてきてくれた。
ボクみたいな何も特徴のない男子に彼女のような清楚な美少女が声を掛けてくれるなんて驚きでしかなかった。
周囲では不釣り合いカップル何て言われたこともあった。
それが原因なのだろうか————。
「周囲の声が気になったの?」
ボクは吐き出すように問うた。
彼女は笑顔を作り、首を横に振る。
「そうじゃないの」
「もしかして、他の人が好きになったとか?」
も、もしかして、これはNTR展開なのか!?
ボクは心中穏やかではなかった。
彼女を狙っていた男子は多かった。
サッカー部やテニス部のキャプテンは、清楚でかつスタイルと良い彼女を我が物にしようと声を掛けていたのをボクは知っている。
「ううん。違うよ。私、噂になった人たちとはそういった関係になったことはないし、これまでもずっと、楓くんのことが好きだもの」
「じ、じゃあ、なんで……」
「きっとこの選択が私にとっても、楓くんにとっても良かったと思える日が来ると思ったから……」
「————。もしかして、いつもの……?」
「そうだよ。私の中でそう感じたの」
彼女は耳元の髪をさっと、かき上げる。
こういっては何だが、彼女の勘はとても当たる。
けれども、こういった勘は当たって欲しくない、とボクはその時唐突に感じた。
「ボクは何か間違えたのかな?」
「ううん。何も間違えていないよ。むしろ、これが正しい道だったんだよ」
そういう彼女の表情はどことなく寂しさが浮かんでいる。
彼女が望まない別れって何だよ……!
「ボクは君とまだ一緒にいたいんだよ……」
「私も……いいえ、ここははっきりとさせておきたいの……。これ以上、お互いで良い愛を続けちゃったら、私が堪えられなくなっちゃう。決心が揺らいじゃう……。だから、これでおしまい。ね?」
そういうと彼女はボクの答えを聞かずにボクに背を向けた。
お別れ……。
そんな………。ボクは彼女を一生懸命愛してきたのに……。
どこでボタンを掛け違えたのだろう。
「待ってよ……。待ってよ—————————っ!!」
校舎の裏。
誰もいないその伝説の木の下で、ボクの絶叫が響き、ボクの初恋は弾けた……。
ガバッ!!!!
ボクは布団を撥ね退けるように飛び起きる。
体は汗でびっしょりと濡れていた。
「どうして、今になってこんな夢を見たんだろう……」
彼女の笑顔は今でも心の中に残っている。
これまでにも高校生という立場を理解した付き合いを心がけてきた。
確かにボクは奥手だから、彼女と手を繋ぐのにもかなり時間がかかってしまった。
初めてデートしたときの彼女の楽しそうな笑顔。
高校の体育大会で一緒に委員会をしたときの笑顔。
修学旅行でこっそりと抜け出して、一緒に夜景を見に行った時の笑顔。
どの笑顔も彼女は嘘偽りなく微笑んでくれていた。
でも、あの卒業式の時の笑顔は、「嘘」が混じっているような気がした。
自分の勝手な解釈でフィルターがかかっていたのかもしれない。
でも、ボクの中では、あの時の彼女の笑顔は、なぜか心の底からの笑顔という感じではなく、どこか寂しそうな印象があったように朧気に記憶に残っている。
あれ以来、ボクは女性と付き合うことはなかった。
どこかに彼女とよりを戻すことができるのではないか、と浅はかな希望すら抱いていたのかもしれない。
ただ、それ以上に異性を愛したいという気持ちもなくなり、小説家という仕事の関係であまり人と交わることもないまま生活をしていた。
「………はぁ………」
もう一度、ベッドに横になる気も失せてしまい、深いため息を一つ漏らした後、ボクは起き上がり服を着替える。
時期は3月になり、少しずつ陽光にも温かみを感じる季節になってきた。
いつも通り、デニムのズボンにざっくりとした黒のパーカーに袖を通すと、そのままリビングに向かう。
時計の針は10時を差そうとしていた。
遅めの朝食として、食パンとブラックのコーヒーを体に放り込んだ。
洗面台で歯磨きをし終え、顔を洗ったタイミングでボクのスマホが鳴動する。
画面には「
ボクが小説家として所属している出版社の編集長だ。
ボクは何か嫌な予感がしたが、さすがに放置してお小言を言われるのも億劫に思い、画面をタップして電話に出た。
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