第4話有言実行する男
オーディションの特番が放映された次の日の朝。
葵の母さんに俺は呼び出された。
「テレビを見たクラスメイトに馬鹿にされるから学校に行きたくないって」
昔は何の遠慮もなく、葵の部屋に突撃したがとんとんと部屋のドアをノックし、学校に行きたくなくてふて寝を決め込んでいる葵に話しかけた。
「そろそろ起きないと遅刻するぞ。ほら、馬鹿にされたら俺が何とかするから」
俺が話しかけて、20秒後。
パジャマ姿の葵が部屋から出てきた。
「……ウソだったら許さないからね」
絶対に助けてよ? とキツイ目で俺を睨む葵。
その気持ちは分からなくもない。
もしここで俺がとんでもない薄情者で葵がバカにされているのを見過ごそうものなら、幼馴染としての人生すら終わる。
それはそれで俺は嫌だし、ちゃんと守るからと俺は不安がる葵に目で訴えた。
しっかりと意志を見せつけた後、俺は床に置いていた通学用に使っているカバンを手に取る。
「じゃ、俺は先に学校に行く」
「一緒に行ってくれないの?」
「一緒に行きたかったのか?」
「べ、別にそういうわけじゃないけどさ」
色々と不安が尽きないし、幼馴染である俺を精神安定剤として横に置いときたいのはわかるが……。
さすがの俺も葵の邪魔にはなりたくないからな。
「これからアイドルになろうって子の横をおいそれと歩けるわけないだろ?」
「……自意識過剰でしょ」
そんなバカなという目で見られるも、葵の母さんも俺に続いた。
「そうね。あんまり二人で一緒に居られるのを見られるのはまずいかもしれないのは間違いないわ」
「ですよね」
「……二人とも浮かれすぎ」
「んじゃ、お先に」
時間はあっという間に過ぎていく。
俺は話を切り上げて、先に学校に行くことにした。
※
俺が学校に着くと、すでに教室内は葵の話題で持ち切りだった。
席に着きカバンを置くや否や、小学校からの友達である佐藤に話しかけられる。
「なあなあ、昨日のテレビに渡良瀬さんが出てたっての本当なのか? なんか、他の奴から聞いたけど、アイドルオーディションの特番でめっちゃ映ってたらしいけど」
ふっ、俺と葵が幼馴染なのは結構な奴が知っている。
こんな感じで周りから質問されるのは想定済みだ。
俺はあらかじめに用意していたセリフを言った。
「らしいな」
葵のアイドルへの道を邪魔しちゃいけない。
俺は何も関わってませんよ~と振舞っておくのがベストだ。
「なんか詳しい話しらねーの?」
幼馴染なんだからさと言わんばかりに佐藤が俺を見てきたが、俺は断固として無関係であるという姿勢は崩さない。
「知らない」
「……ま、幼馴染とはいえ、お前らって小学校3年生くらいからは、そんなに絡んでる様子ないもんな」
佐藤とは小学生からの友達だ。
俺と葵が年を取るにつれて、外では話すような仲じゃないことを知っていることもあってか普通にオーディションについてを俺から探るのをやめた。
だがしかし、それでもやっぱり興味は尽きないようだった。
「んでんで、幼馴染がアイドルになりそうってのはお前的にはどんな気分なんだよ」
「別に何も」
「嫉妬とかしちゃってるんじゃ?」
「だから、そういうのはない。むしろ、誇らしいくらいだぞ」
というと、佐藤は俺の顔を見て笑った。
「ほんと、昔からお前って渡良瀬さんのこと異性として興味ねーよな」
「別にそんなもんだろ」
「にしても、渡良瀬さんも有名人か~。俺、絶対に自慢する。俺、あの子と同じ学校に通ってたんだぜ? って」
まだアイドルオーディション中なのに、佐藤は本当に葵がアイドルになるのが確定かのように言った。
うん、やっぱり昨日の特番を見たら自然と葵がもうアイドルになるのは既定路線と思うよな。
これでオーディションに不合格だったら、むしろ逆に凄いと思っていたときだ。
クラスの背後で、ケラケラと笑う女子達の話声が耳に入る。
『渡良瀬さんって、アイドルみたいなのに興味なさそうに見えるのに、興味あったとか意外だよね』
『ね~、なんかいつも落ち着いた感じでこっちを見下してる? 感じなのに、本当はアイドルみたいなきゃぴきゃぴしてるの好きだったなんてほんと意外だよね~』
『わかる~』
聞いててあまり気分のいい感じはしない内容だな……。
葵を嘲笑うかのような女子達の会話を俺は見過ごせなかった。
とはいえ、あいつらのような奴に正論を言おうが響きにくいんだよな……。
俺は当たり障りのない感じで女子達に釘を刺すべく、少し声を大きめにして佐藤に話しかけた。
「てか、マジで怖いよな。有名人になるってことは、将来的に色々と発言力も増すわけだし……」
俺の発言を聞いた佐藤は笑いながらいう。
「颯太は渡良瀬さんと幼馴染だもんな。もし有名人になったとき、あることないこと、周りに言われたら大変か」
「俺もブランディングってやつを大事にしてるからな」
「お前ってそんなこと考えてたのかよ」
「いやいや、俺だって色々とだな……」
もし、葵が本当に有名人になろうものなら彼女の発信力はとてつもないモノになり、彼女の一声次第で色々と不利益を被るかもしれない。
だから、あまり葵を敵に回すような発言をしない方が良い。
俺はそう遠回しに葵のことをあざ笑う奴らにくぎを刺してみたのだが……。
『あははは、私、葵ちゃんにサインでも貰っとこうかな』
『じゃ、色紙買わなきゃね!』
びっくりするくらい意味なかった。
うん、そうだよな。遠回し過ぎて、葵のことをあまり馬鹿にするなって警告にはなってないよな。
はぁ……、事の発端は俺だしな。
あんまり波風は立てたくないけど、もうちょっと葵のために頑張るか。
俺は席を立ち、ケラケラと楽しそうに話してる女子達のところへ行く。
「葵ってさ、今凄く頑張ってる時期だから、あんまり本人の前でアイドルの話題を茶化すように話さないでくれないか? ほんと、頼む!」
手と手を合わせながら、俺は謝るかのようにお願いした。
真摯な態度で臨んだこともあってか、少し小馬鹿な感じで話していた女子達に俺の想いは通じたようだ。
「……まあ、確かにね」
「そうだよね。うん、わかった」
という女の子達に俺は気さくな感じでお礼を言った。
「ありがとう。マジで助かる」
さてと、無事に解決したしトイレにでも行くか……。
俺が教室から廊下に出たときだった。
あんなに学校に行くのを渋っていたが、きちんと制服を着て学校に登校してきた葵と出くわした。
「ちゃんと学校に来たんだな」
「まあね」
「んじゃ、俺はトイレ行ってくるから」
学校じゃ葵とはそんなに話すような仲じゃない。
俺が普通に葵とすれ違おうとしたとき、葵が小さく俺にぼそっと言った。
「……ありがと」
さっきのやり取りを葵に見られてたっぽいな。
うん、ちょっとこそばゆい。
そう思いながら、俺はトイレへと向かうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます