十五 討ち入り

 如月(二月)十八日。晴れのその日。夕七ツ(午後四時)。

 源助は、木村玄太郎が指定した仙台城下の南河原町にある旅篭に逗留した。旅篭では、玄太郎が源助の到着を待っていた。

 ここ南河原町は仙台城下の南の入り口で、北隣りの北河原町に、与三郎がいる口入れ屋の山王屋がある。


 玄太郎は源助に、北河原町の山王屋の与三郎について説明した。

「北河原町にある山王屋の与三郎を討つか、四穀町の穀物問屋大黒屋から多恵を救うか、如何いたす。私は与三郎を討つのが先だと思う。

 与三郎を討ったところで、我らは咎められぬ。と言うのも、ここ仙台は夜盗被害が多発している故、城下の町方は夜盗の手口から、誰が夜盗か探っている。討ち入っても与三郎は我らを町方と思うはずじゃ」

「ならば、与三郎を討とう」

 木村玄太郎の説明に、源助は与三郎を討つ決心をした。



 如月(二月)二十日。晴れのその夜。夜四ツ半(午後十一時)。

 源助と木村玄太郎は、北河原町の口入れ屋、山王屋に忍びこんだ。

 寝静まっていると思っていたが、皆、奥座敷で酒を飲んで騒いでいる。女もいる。もしやと思い源助が奥座敷を覗くと、多恵の他に女が四人いる。与三郎たち男は五人だ。


 頃合いを見て、源助と玄太郎はいっきに奥座敷へ斬り込んだ。あっという間に多恵を残して女たちが座敷から逃げた。源助は男二人を斬り倒して与三郎に迫った。玄太郎は男一人を斬り倒してもう一人と斬り合いになっている。

 与三郎は慌てて床の間の刀を取って鞘を払い、手当たり次第に刀を振りまわした。多恵が斬られそうになったのを見て、源助が与三郎の斬撃を弾き返した。それでも、与三郎は刀を振りまわしている。

 源助の一瞬の隙を突いて、与三郎の振り回した刀の鋒が多恵の背中を斬った。源助は与三郎の前に立ち塞がって斬撃を弾き返し、身を翻して多恵の傷を確かめた。浅傷だ。

 斬撃を弾き返された与三郎は座敷の隅まで飛ばされたが、源助に刀を投げつけ、刀は源助の肩に刺さった。

 玄太郎はもう一人を斬り倒して源助に駆け寄った。


 ここまでの斬り合いで、源助と玄太郎はもちろん多恵は一言も発しなかった。声を出して名など呼べば源助と玄太郎の身元が発覚する。

 玄太郎は源助の肩から刀を抜き、与三郎に投げつけた。刀は回転しながら飛んでゆき、与三郎の頭を直撃した。与三郎は頭から血を流して倒れた。

 玄太郎は与三郎を討ったと思ったが、刀の柄が与三郎の頭を直撃しただけで死んではいなかった。

 玄太郎は源助と多恵を手当てして、青葉城下の平士頭の屋敷へ二人を連れて行った。



 弥生(三月)一日。

 玄太郎と妻の香織と養女の佐恵、そして源助の妻の奈緒の看護の甲斐なく、多恵と源助は刀傷による感染症で、あっけなく他界した。

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