第12話 運営の様子と宝箱の破壊

ここはティニットを管理するある場所……。


「エリブミの森のボスに挑んだプレイヤーがいるようです」

「何?流石に早くないか?」

「誰か映像を映してくれー」


映像を映し出される。


「1人?!」

「この子、噴水を壊していた子です!」


小さな女の子が映し出されジャイアントトレント相手に戦っている様子が確認された。


「いや、なんでもう《魔物使い》スキル持ってんだよ……一応隠しスキルなんだけど」

「既に《魔物使い》スキル所有者は複数名いるようです」


それも女の子には人気なさそうなモンスターを仲間にしてるし……。


女の子はギリギリの所でジャイアントトレントの攻撃を避けていた。かなりVR慣れしてそうだ。


「動きがうまいな、レベルはどれほどなんだ?」

「レベルは12ですが装備品がかなり良いようで俊敏が50近くあります」

「俊敏はあるが筋力は低いみたいだな、あまりダメージが入っていない」


ちょっとずつダメージを蓄積させていくようだ、俊敏特化ならよくある戦法だと思う。ただ、このボスはそういうチマチマでは倒せないように設定してある。


「おい!仲間を投げるなよ?!」

「躊躇いもなく投げやがった」


少女が躊躇わず仲間を投げる姿に皆が驚く。


確かにあれなら俊敏が低いフォレストマッシュもボスに接近出来るが普通やるか?


その後はボスを麻痺にして順調にダメージを重ねていく様子を見ていた。


「あれじゃジャイアントトレントは倒せないんだよ」

「ほら回復した」

「それにあの攻撃は……」


突如として女の子にジャイアントトレントの木の根が突き刺さる。


回復後は攻撃パターンが切り替わり、奇襲攻撃が追加される。βテストの時から変わっていないが少女はその情報を知らなかったようだ。


「ああ、終わったな」

「やけに痛そうにしてね?」

「嘘だろ…この子痛覚設定100%だ」


こんな小さな女の子に痛覚設定100%って大丈夫なのか?!


システム的には大丈夫なはずだがそれでも心配してしまう。


そんなこと思っている間に女の子はとんでもない言葉を喋った。


「"破壊開始"だとぉ!ユニークスキル所有者か!」

「そういえば昨日破壊者についてメッセージが来ていたな、この子だったのか」

「もうユニークスキル所有者がいるのは知っていたがまさかこんな小さな女の子とはな」


相当な大怪我をしていて痛いはずなのに女の子は笑いながらジャイアントトレントの木の根を次々と破壊していった。


「おい、誰だよ!感情を昂らせるなんて効果したやつ!どう見ても異常者に見えるぞ」

「一応調べましたが精神的な面は至って正常なようです」


これはもう勝っただろってくらい笑顔で蹂躙している。


「あのユニークスキル、確か対多数用だよな?なんで1体の敵に無双してるわけ?」

「少女の戦闘センスが凄いだけだ。ステータスはさほど壊れてない」


ただ殴っているだけなのに攻撃はしっかりと避けている。とても華麗で美しいとまで言える動きだ。


「とにかくあの女の子はジャイアントトレントに初挑戦なんだよな?それにソロってことだよな?」

「「「「「あっ…」」」」」


1人がその事に気づき急いで女の子についてのログを調べ始める。


「急げ!ボスが倒される前に何とかして装備を作成するんだ!」

「どう考えても間に合わねぇ……こんなにも早くソロ撃破が現れるなんて予想できるか」

「ジャイアントトレント!もうちょっとだけ耐えてくれ」


女の子の映像は映し出されたまま急いで作業を開始する我々であった。


◆◇◆


「なんで空っぽ…?」


目の前の宝箱を念入りに見てみるがどこからどう見ても空である、綺麗さっぱり何も無い。


「ボスの報酬は倒した時の素材とお金だけ……?そんなことある?」


大きな宝箱をひっくり返したり一度閉じてからまた開けたりしたりしても何も変わらなかった。


「うそぉ……結構楽しみだったのに」


パラがポンポンと座り込んで落ち込んでいる私を慰めてくれた。


「パラ……うん、もう大丈夫だよ」


パラも私も強くなったしまあ良しとしよう。


目の前にある空っぽの宝箱を腹いせにぶっ壊してボス部屋の出口に手を触れる。


『エリブミの森の入り口に転移しますか?始まりの街に転移しますか?』


「あー……始まりの街で」


フッと視界がいつもの街に切り替わった。


とりあえずログアウトしないと怒られそうな時間になっていたので急いでログアウトしてリビングへと向かった。


そしてやっぱり少しだけ母に怒られはしたがいつもの物を壊した時よりは全然優しく怒られたのですぐにお説教は終わりご飯を食べた後にゲームを再開した。


「なんか最近お母さんが優しいんだよ」


フニフニとパラを触って遊びながらアルマさんのお店へと歩いて行く。


いつもより視線が多い気がするんだけどやっぱりパラを見ているのかな?アルテナさんも近づいてこなかったもんね。


そういえば私がボス倒した時の通知って私自身も来ているのかな?


そう思って通知欄を見るとやっぱりあった。


「ソロってちゃんと表示されるんだ……ってなんかメッセージがきてる?」


私宛にシステムメッセージが来ていた。


『ラビリル様、いつもティニットをプレイしてくださりありがとうございます。ボスの撃破報酬ですがこちらの不手際で用意する事が出来ませんでした。ただいま急いで作成中なので今しばらくお待ちください。お詫びとして本来1つの所2つ用意致します。これからもティニットをお楽しみください。運営より』


運営からのメッセージだ。


「やっぱりあの空っぽの宝箱、バグか何かだったんだ」


少しむかついて宝箱壊しちゃったけど大丈夫だったかなぁ。


そう思いつつ楽しみが増えた私であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る