夏、君は弾けて消えて行った。
緩音
夏、君は弾けて消えて行った。
「
「大好きだよ。
微笑んだまま彼女は消えて行った。今私にあるものはこの深い絶望だけだ。朝絶望とともに起きるとカンカンと頭の中で音が反芻する。
「いやっ!鳴らないで。鳴らないで.....」
耳を手で塞いでも頭の中でカンカンと音は鳴り続ける。布団にくるまって音をなくしていたが私は不意に立ち上がって外に出る。すると夏の日差しが私の病的なまでに白い肌を焼く。アパートの階段を下りると海が見えた。夏は嫌いだ。
「怜巳ちゃん。はーやーく。」
「待ってあと前髪だけ。」
私は鏡の前で前髪を整える。最後に横を向いておかしくないことを確認してから家のドアを開けた。
「お待たせ、澪。」
「おそいよ澪巳ちゃん。」
腰に手を当ててぷんすか起こっているのは澪。私の親友だ。
「ごめんて、前髪がおかしくて。」
「怜巳ちゃんはそんなことしなくても可愛いよ。」
澪の歯が浮くようなセリフに私は顔を赤くしながら駅に行く。
「今日から私たちもJKかー。」
「そうだね。怜巳ちゃんは楽しみなこととかある?」
「そうだなーやっぱり新しい友達とか?」
「ええーそしたら怜巳ちゃんは私に構ってくれなくなっちゃうじゃん。」
「そんな心配そうな表情しないでよ。澪は特別だから。」
私は澪の手の甲に唇を落とす。
「ちょ、ちょっと怜巳ちゃん。こんなところで恥ずかしいよ...」
「私たち以外乗ってないのに?さっきの仕返しだよ。」
「えーっ、私何かしたぁ?」
ナチュラルに澪はあれを言ったのか。そう思うとまた顔が赤くなるのがわかる。
「澪。」
「なーに怜巳ちゃん。」
「好きだよ。」
「ふふ、何それ。私も大好きだよ。」
肩を寄せ合って手を結んで笑い合った。
私は自嘲気味に笑い、海に近づく。海へと向かう階段で何度か転びかけた。この日差しで頭がくらくらする。でも私を苦しめていた音は遠ざかる。そのままふらふらと海の砂浜に私はへたりと座り込んだ。
学校に着いた。クラス分けを確認するのはドキドキしたけど澪と同じクラスになることができた。教室に行くとクラスの半分くらい来ていた。
「お、知らない顔。」
唐突に声をかけられた。私も澪も驚いていると
「あ、ごめんごめん。驚かせちゃった?この学校って大体同じ中学からそのまま上がるのが普通で人数も少ない学校だからみんな顔覚えてるの。」
「ああ、そういう。」
「私たちは少し離れた場所に住んでて、この学校海が近くていいなってこの学校に来たの。」
「あ、じゃあ2人はもともと知り合いなんだ。」
「そういうこと。私は澪。よろしくね。」
「私は玲巳。よろしく。」
「澪ちゃんに怜巳ちゃんね。うちの名前は
話している間にどんどん人が集まってきた。本当に外から来るのは珍しいようでその日は常に人に囲まれていた。
「じゃあ、今日は終わり。みんな気を付けて帰るように。」
「澪。帰ろ。」
「うん。」
私たちは学校が終わって駅まで走ってきた。私たちはぎりぎりで電車に乗り込むことができた。
「ぎりぎり、まに、あった、ね。」
「うん、でも次から、は、次の電車に乗ろうか。」
「そうだ、ね。」
私たちは息を何とか整えた。
「それにしても、今日はずっと囲まれてたね。」
「うん。怜巳ちゃんいっぱい友達出来たんじゃない?」
「そだね。」
「じゃあ、バイバイ。怜巳ちゃん。また明日迎えに行くよ。」
「うん。じゃあね。」
私たちは家が駅一つ分離れているので電車で別れる。こうして私たちの学校初日が終わった。
私は海に足を入れた。太陽の暑さと海の冷たさで頭が混乱する。バランスを崩しそうになったがなんとか体勢をもどしてこらえる。すると私の後ろで電車が通る音がした。ガタンゴトンとレールの上を走る音が聞こえる。しかし私が振り向いた時にはすでに走り過ぎた後だった。
高校に進学してから2か月後。クラスで異変が起きた。わかりやすく言うといじめだ。何がきっかけかは分からない。でも気が付いた時には噂が蔓延していた。その内容はパパ活、万引き等いろんな噂があった。最初はいじめの標的にされた子も反抗していたが次第に反抗しなくなるとともに顔から生気が抜けて行った。いじめの主犯格という表現が正しいかわからないがいじめの中心にいたのは日葵ちゃんだった。
ある日いじめられているこの上に花瓶が置いてあった。私は日葵ちゃんに話しかけに行った。
「ひまりちゃん?」
「なに怜巳ちゃん?どうした?」
「それやりすぎじゃ.....」
「そんなこと言わないで。だってあの子は犯罪を犯したんだよ。」
「証拠ってあるの?」
そう聞くと日葵ちゃんの顔から笑顔が消えた。
「なに怜巳ちゃんはあの子の肩を持つの?」
「いや、そういうわけじゃ、ただ気になっただけで。」
「あーそうなんだ。でもねもう噂はとめれないの。もうこの町中には広まってるんじゃないかなぁ。」
そうとぼけるように日葵ちゃんは言った。
私は海に沈んだ足を進める。すると下半身が全部海に浸かった。さっきまで日に焼かれていたところが急激に冷やされていく。血が巡る感覚がする。血が冷える。私が冷えていく。それでも太陽は私をギラギラと照らし続ける。
高校入学から3か月後、夏休みまであと1か月くらいになった。
最近は澪と帰らなくなったし、話さなくもなった。別に喧嘩したとかそういうわけではない。ただ澪が日葵ちゃんたちのグループと絡みだした。私はあの一件から日葵ちゃんと話すのが苦手になった。だからその近くにいる彼女も自然に話さなくなっていった。それとは別にあったことと言えばいじめを受けていた子は転校したとのことだった。さらにその話になったときに私は変な噂を聞いた。
「ねえ掲示板の噂ってほんと?」
「でた。そんなの都市伝説にきまってるじゃん。」
「だよねー。」
家に帰って興味本位で調べてみた。
「あった。」
それは私の通っている高校名で調べたときに一番下に出てきたサイトで確かに高校名が書かれている。そこには前いじめられたこの噂が書かれていた。私は悟った。このサイトで噂が広まったんだと。
だからと言って私にできることなんてないし、正直私が次のターゲットになるのが怖かった。
私はついに体勢を崩し海に全身を入れる。水しぶきを上げて海に入って行った私はそのまま海の底に落ちて行く。これで太陽に身を照らされることはない。が息が続かなくなった私は海面から顔を出した。また太陽に体を焼かれる。
夏休みになった。私は中学時代の友達たちと遊び高校の人たちとは1日たりとも会うことはなかった。それは澪も含めて。
私は夏祭りに行った。誰も連れず一人で。去年ここで澪と来年も見ようと約束したっけ。でも今年は一人だ。花火が打ちあがり夜空に星を作り出す。私はそれを誰もいない河川敷で眺めていた。
夏休みも後半になるにつれ、私の心は沈んで行った。私と澪は幼稚園からずっと一緒だった。何をするのにも二人一緒だった。なんでもお揃いにしたっけ。中学校の時にお互いに買ったブレスレット。澪はつけているだろうか。私が悩んでいる間にも澪が日葵たちと遊んでいるのを想像するだけで吐き気がした。無性にイライラする。私はこのやり場のない怒りを鎮めるために幼いころの澪と私の写真が入ったアルバムを取り出して写真が入ったままぐちゃぐちゃにして燃えるゴミにして出した。そして私はスマホを手にとりあの掲示板のサイトを開いた
海面から顔を出した私は息を吸う。まだ頭がくらくらするがそのまま浮かんで仰向けになる。太陽に正面を向いて大の字になる。太陽のせいで目が見えない。気が付いた時には海岸から離れたところまで流されていた。
夏休みが終わり学校に行くと誰かの机の上に花瓶が置いてあった。誰か、と言ったが私は座席表を見るまでもなく誰の席か知っている。みんなちらちらとそれを見ているがだれも行動には移さない。
すると澪が学校に来た。澪は一瞬驚いたような表情をして、日葵に話しかけに行く。が日葵は澪をいないもののように無視し続けた。一瞬私の方を見たような気がしたが私は気づかないふりをした。次のターゲットは澪になった。
日に日に澪の顔から生気がなくなっていく。ご飯も食べていないのだろうか。すごく細くなったように感じる。
そんなまだ暑さを感じる日、私たちは学校のプールの掃除をすることになった。なぜ夏休み明けに、と思ったが来年からプールの授業が始まるようで一度まだ暑いうちに練習としてやってみようと言う話になった。プールをデッキブラシで磨いて水を入れつつ塩素も入れる。明日からプールの授業が数回ある。と先生から通達があった日の放課後の帰り道、いつも通り一人で駅まで向かっているとプールの方から声がした。
日葵と数人の取り巻きが見える。すると誰かがプールに落ちたのか水の音がした。
バカらしい。と思って無視して帰ろうとすると声が響いた。
「わたっ、おy gない。」
私は来た道を全力のダッシュで戻る。バックはおいてきたがいい。とにかく無我夢中で走ってプールまで行くと澪がおぼれていた。
私はプールに飛び込んで澪を抱き上げた。
「れ、みちゃん。」
そう言う澪を無視して私は日葵を見上げる。一瞬にらまれて体が逃げようとするが私は逃げずに日葵を睨み続けた。
「れみちゃん。何してるの?遊んでただけだって。」
「澪は泳げないの。ふざけないで。」
そう言い放つと日葵はまた感情をなくした目をして帰って行った。
私はプールサイドに澪を押し上げると濡れたままバッグのところまでやってきて服をタオルで拭いて帰った。電車の中での他人からの視線が気持ち悪かった。
遠いところまで流された私は陸に戻ろうと思って泳ぎを始めた。どんどん陸に近づいていくが服を着たままなので体が重くて体力を消耗する。
次の朝、学校に行くと私の席に花瓶が....なんてことはなかった。ただ澪へのいじめが止まることはなかった。日葵は露骨にいじめることはなく、大体周囲の人か先生がいないところでやっている。私が目に着いたところは全部止めにかかった。がその分だけ私がいないところでのいじめが横行していたらしい。それを知ったのはずいぶん後だったが。
変わったことが一つあった。朝、澪が私の家に来るようになった。さらに学校でもずっと私についてくる。私たちは特に話さないがまた元に戻れるかなと思った。
しばらくして秋も近くなってきたかなと思う季節のころ、体育の後着替えをしてる時に澪が泣いていた。澪が泣いていた理由は聞いてみても教えてくれなかった。
陸が近い。もう足を延ばしたら砂に足がつくのではないだろうか。そう思って一度立ち泳ぎの姿勢になるが足はつかなかった。日はもう傾きかけていた。
9月4日、21:43分。
澪から連絡が来た。その前の連絡は4か月前だった。連絡内容はただ
「ばいばい」
だった。私は急いで家をでる。靴を履いている暇はなかった。私は靴下で街をかけていく。いろいろなことが頭をめぐる。どこに行くべきか。私が来たのは駅だった。怜がバイバイというにはここしかない。一緒に通学した1,2か月だが私には記憶としてしっかり残っている。
駅に行くと澪がいた。黄色い線の内側に立っている。カンカンと電車が来る音がする。私は声を張り上げる。
「澪!」
それに気づいた澪は体を反転させて、何かを呟いた。そのまま澪は線路上に身を投げそして電車のブレーキ音が鳴る。そこからの記憶はない。私は澪だったものを一瞬見てしまい。そこで倒れてしまったと病院で知った。そのあとはいろいろなことが起こった。いじめの発覚によってあの高校は取り潰されることが決まった。いじめに関与していない人は別の高校への転校が援助された。私はあの掲示板を探したがきれいさっぱりなくなっていた。私はアパートをでて自分の実家に戻った。そして家の近くの高校に転校した。
澪の葬式には行けなかった。が澪のお母さんからブレスレットを渡された。しかしブレスレットは壊れていた。ブレスレットは事故の時身に着けていなかったらしい。それからだった。私はカンカンという踏切の音が聞こえるようになった。病院にも行ったが解決の見込みは見えない。
足がつくところまでやってきた。私は海から上がろうとしたが上がれなかった。寒さで体が震えている。這って陸に上がろうかと思ったタイミングで体から力が抜けた。そういえば最後に食べたのいつだっけ。カンカンと踏切が鳴る。それはどんどん小さくなっていって。ついに聞こえなくなった。
5000文字くらいの短編を書いてみました。
2024 5 20
夏、君は弾けて消えて行った。 緩音 @yurune
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