5.モラルを気にして変態は務まらなぬ


「そういうわけで【マジシャン】になったわ」


メアリーは俺の隣を陣取る。

懐かれたわけではなく、ゴーストから距離を取らせる為である。


「魔法攻撃は俺の管轄外だが、教えられるだけ教えるぞ。

 【マジシャン】はジョブスキル以外にも、各地で手に入る魔導書を所持することでスキルを習得することができる。

 属性に適正レベルがあって、使えば使うだけその属性の火力が上がったり、耐性が付いたりする」


「魔導書は属性適正のランクなどで使用制限がかかります」


「アドレで売ってる魔導書は第1職で使えるものばっかりだから大丈夫だが、後半にこのシステムが響いてくる。

 最短でレベリングだけしてると属性適正が足らず高等魔導書が使えないって例をよく見てきた」


適正レベルはもうひたすら使い続けるしかない。

これは俺が【マジシャン】をやってた頃に自分で検証したからわかる。

属性適正は自分からの発動、相手からの被弾の回数で上昇する。敵のレベルやオーバーキル等でボーナスがついたりはしなかった。

ちなみに、この実験の結果はBlueearth最高峰の魔術探究ギルド【象牙の塔】へ寄贈したのだが、とんでもない額で買い取られた。

そんな感じの事ばっかりしてるので不労所得が多いのだ。

閑話休題。


「アドレを拠点とする間の目標レベルは20。次の拠点に行くのは第2職を解放してからだ。

 それまでお前にはとにかく魔法を使いまくってもらう」


「はいよ。んで、次は?」


「ギルド加入だな」




──◇──




【第0階層 城下町アドレ】

ギルド【祝福の花束】

日中でも冒険者が賑わうこの酒場は、同時にギルドでもある。

戸を開けてすぐに目に入る、筋骨隆々の大男。

彼こそは【祝福の花束】ギルドマスター、グレッグである。

「冒険者を見送る」という理念を掲げ、多くの冒険者の旅立ちの手助けをしてきた。

見送った冒険者が攻略を諦めた時の受け皿にもなっている。メンバーの半数は上の階層から帰って来た「出戻り組」だ。



「あらぁ〜いらっしゃい。

 可愛い娘侍らせちゃってどうしたの?」


睨まれてる。

笑顔と砕けた口調の奥に「女を泣かせたら潰す」という脅しが見える。

未遂ですグレッグさん。許してくれ。


「この2人を【祝福の花束】に加入させたい」


「いいわよ〜」


「はやっ!」


びっくりするメアリーを見て、グレッグの誤解は解けたようだ。

目に優しさが戻った……気がする。


「詳しい話がしたいが時間が惜しいんだよな。

 お前と、そうだな……いたらモーリン。

 それとヒーラーで一番強いやつを連れて行きたい」


「あら、ご指名ね……じゃあアレでいいのね?」


アレです。


「アレって何よ」


「俺の考えた最短最速のレベル上げ方法だ。

 今となっちゃ何もおかしいことじゃないんだがな……

 二人はグレッグの指示に従ってギルド登録してくれ。

 俺は今から別の所に用事がある」


足早にギルドを去る。

グレッグは本当にいい人なので任せて安心だ。なんせアドレにおいて最長最大のギルドを構えている傑物だ。




──◇──




私はメアリー。

人よりちょっっっっとだけ人見知りな、パーフェクトウーマン。

ライズに連行されるがままにギルドに来たら、筋肉ダルマの元に置いてかれた。怖すぎ。

なんなのこの人。Blueearthって現実の肉体基準なんですけど。2mくらいない?

怖すぎてゴーストを盾にしたい。

でもそんなの酷いから、ゴーストの裾掴んで横に立つ。ここが限界。



「はぁーい、連れてきたわよぉ」


奥から現れたグレッグさんの側には男女二人。

人が増えるのは勘弁してほしい。


──1人は、痩せ型、高身長の細目の男。

腰には片手剣、右手には酒瓶をぶら下げたほろ酔いの青年。


「うちの稼ぎ頭、モーリンちゃんよ。

 ライズちゃん程は強くないけど、ウチじゃけっこう実力者なのよぉ」


「もーやめてよグレッグさん。

 僕はモーリン。魔法剣士やってまーす。よろしくよろしく」


「あ、ども」

「answer:宜しくお願いします」


ゴーストが食い気味にモーリンさんの手を取り握手する。

気を使わせちゃった……。

モーリンさんはグレッグさんに背中を「ドン゛ッ゛」と小突かれた。ちょっとモーリンさん飛んだけど小突きの威力じゃなくない?


「軽率に女の子に触っちゃダメよ」

「すんません……ごめんね。ゲフッ」


モーリンさんも謝ってくれて、良い人ぽい。


「こっちはうちのヒーラーで躍進中のナツちゃん。最近入団したのだけど、努力家なのよぉ」


──私よりも小柄な女の子。

猫耳ぽいフードを被った、標準装備の女の子。

大きな両手杖を抱きしめて怯えたように頭を下げて挨拶してきた。


「あ……ナツ、です。

 なんでライズさんに呼ばれたのか、わからないですけど……よろしくお願いします」


「answer:宜しくお願いします」

「あぅ……」


すかさず握手するゴースト。

あれ?この子握手したいだけでは?


「さて、入団処理が済んだわ。

 貴方達は今日からウチのメンバーよ。よろしくね。

 で、さっそく依頼を受けてもらうわ」


「さっそくなのね。ライズのいってたアレってやつ?

 どんな依頼なのよ」


「別にどのクエストとかじゃないんだよねー。

 これ、依頼リスト」


モーリンさんから渡されたリストには大量の書き込み、アルファベット、数字等が並んでいた。


「アルファベットは依頼レベル。

 うちのギルドはBランクだからここに並んでるのはBまでだよー」


「ひとりの冒険者が受けられる依頼は10個までです。

 私達はこのBランククエストを上から10個受注します」


「まぁそうだろうけど……アレってのはその、具体的にはどういうの?」


先程から聞いている、ライズの言うアレ。

モーリンさんはちょっと申し訳なさそうに答えてくれた。


「……依頼はね、パーティで共有することができるんだ。

 だから誰かが持ってきた依頼をギルドパーティで共有して解決するのが一般的なんだよねー。

 でもね、ライズ式はパーティ全員が同じクエストを受注して、パーティ共有でクリアするっていうやつ」


「パーティ共有はパーティでクエストを共有するシステムです」


「普通ナシでしょ? 報酬が従来の何倍も手に入っちゃうわけだし。

 でも、何でか王国の発行する依頼だけはそれが通っちゃうんだよねー」


まぁゲームとわかっていればおかしくない。それぞれのプレイヤーがクエストを受ける権利があって、それを複数人でやっても報酬はそれぞれのプレイヤーが受け取る。それだけの話なんだから。

でもこれを、この世界がゲームだとわかる前からやってるのは少し引く。相手は国家で、脱税とかみたいな法の抜け穴を突いてるようなものなわけで。

そりゃ思いついても実行するのは躊躇われるわよね。何なのアイツ。


「……ま、ライズ式が恐ろしいのは非人道的ってよりも……まぁこれは後々わかるねー。じゃ、行こうかー」


「……?」


含みを持たせたモーリンさんの言葉に引っかかりつつ、ギルドの外へと連行される。

置いてかないでゴースト。裾掴めない。




──◇──




【第1階層ウィード:始まりの平原】

見渡す限りの草原。

丘や木々によって一部視界が妨げられるが、それでも果てまで見渡せる平原だ。

遠く遠くにアドレ王宮と城下町が見える。


私とゴースト、グレッグさん、モーリンさん、ナツちゃんで進んでいると、丘の上にライズを発見した。

文句が言いたかったが知らない人と一緒だったので勘弁しといてやる。命拾いしたな。


「遅かったな」


ライズと、その後ろに馬車。乗ってるのはベルだ。

こっちに気付いてちっちゃく手を振ってくれた。可愛い。


「こちらが5名、ライズ側が5名。合計10名ですね」


ライズの連れてきたメンバーで私の知らない人は3人。

マフラーで口元を隠した活発で小柄な男の子、大きな弓を背負ったモノクルを付けた長身モデル体型の女性、全身鎧姿で顔がわからない大角兜の男性の3人。


「パーティが組める最大人数は10名。最高の効率で進めるには最適な数だ。

 ……パーティ組むついでに自己紹介するか」


「っス! 【飢餓の爪傭兵団】傘下ギルド【蒼天】のメンバー、レンっス!

 前まで【祝福の花束】で世話されてたんで、協力しにきたっス!

 レベルは18、ジョブは【ローグ】っす! よろしく!」


「【蒼天】ギルドマスター、アイザックです。

 レベル35、レンジャー第2職【アーチャー】でやらせてもらってるわ。

 ライズには貸しがあるし、レンの強化にも繋がるし手伝うわ」


「【蒼天】のミーミル、だ。

 レベルは、25。ウォリアー第2職、【ナイト】をやっている」


3人は【飢餓の爪傭兵団】の傘下ギルドらしい。

ゆくゆくは潰す相手だけど、普通に協力してもらうんだ。


「道具屋【すずらん】のベルよ。

 レベルは34……だけど、これはライズに連れ回されてるだけだから。戦闘には協力しないわ。

 製品不良のポーションくらいなら恵んであげるわ」


「【祝福の花束】ギルドマスター、グレッグよ。

 ウォリアー第3職【グラディエーター】をしてるわ。

 レベルは74。よろしくねぇ」


「【祝福の花束】モーリンでーす。

 レベルは48、マジシャン第2職【魔法剣士】やってまーす。よろしくねー」


「【祝福の花束】……ナツ、です。

 【ヒーラー】の……レベル12、です。よ、よろしく」


「ゴーストです。

 レベルは99、ジョブはローグ第3職【リベンジャー】です」


「俺はライズ。ローグ第3職【スイッチヒッター】の、レベル115だ。で、こっちのが……」


「……メアリーでーす。【マジシャン】始めました、レベル1でーす……。

 ここ、最初の階層なのよね?」


なんか結構レベルにバラつきがあるというか、レベルがおかしい奴がちらほらいる。


──────

パーティ 10/10

【スイッチ:ライズ:115】

【リベンジ:ゴースト:99】

【グラディ:グレッグ:74】

【魔法剣士:モーリン:48】

【アーチャ:アイザック:35】

【鍛治師 :ベル:34】

【ナイト :ミーミル:25】

【ローグ :レン:18】

【ヒーラー:ナツ:12】

【マジシャ:メアリー:1】

──────


「ライズに数合わせでこうして連れ回されてるだけの私がこれなのよ。この辺までなら大したことないわ」


「ライズ式でなければアドレでは20を突破するのも難しいのよね。

 そもそも【蒼天】だとBランクの依頼を受ける機会が少ないし」


アイザックさんは「助かるわ」とライズの肩に手を乗せる。自然なボディタッチ。できる女だ。

ライズはまるで効いてないフリしてるけど、手をどけないあたり満更でもないわね。わかるのよ。ムッツリ。


しかし今の話を聞くと、アドレにいながら30レベル超えのベルもアイザックさんも結構凄い人だ。

てかベルめっちゃ強いじゃん。


「僕とグレッグさんは、上の階層から降りてきたからー。

 ライズもそうだし。ゴーストさんも?」


「answer:私は──」

「あーそうそう。俺が勧誘した」


ゴーストは何を回答しちゃうかわからないのでライズが止める。

危ない。今度こういう時の為の誤魔化し方を教えとく必要がありそう。


「アドレでグレッグ以上のレベルの新顔をまた見るなんて思わなかったわ。

 で、今日はこっちの子のレベル上げかしら?」


「そうだ。俺式で最短最高効率でレベル上げ、そして戦闘経験を積んでもらう」


「あ……あのぉ……私は、どうして……」


「そうよねぇ。どうしてわざわざヒーラーをご所望なの?

 このメンバーなら回復はアイテムで事足りると思うのだけど」


「それは次の休憩に話す。クエストをパーティ共有しながらクリアしていくが、主にベル……というか馬車を中心として動く。

 ナツとレンは疲れたら直ぐにベルの所で休め」


「は、はいぃ……」

「了解っス!」


「私は?」


「経験値は共有されるが属性適正は共有されないからな。

 休む暇なく働け」


ひどない?


「今回レベル上げに使うのは奥の方だが、この第1階層のみに絞る。次の階層に行く必要はない」


「ここ数日のデータから魔物の密集地帯は絞り込み済みだよー」


「では移動中に最適ルートを考えましょうか」


モーリンさんとアイザックさんはベルの馬車に乗り込み相談会。

なんか慣れてる感じ。


「メアリーは常に誰かと組んで戦え。いろんなジョブを観察しろ」


「んー……了解。まずはゴーストと……」


「いや身内で回してどうする。ゴーストは俺の個人指導だ」


つらい。




──◇──




【第1階層ウィード:始まりの平原】


奥地、第2階層へのゲートが見える位置まで到着。

私はグレッグさんとナツの3人で討伐に当たっていた。


「ほーらメアリーちゃん、スライム来てるわよぉ」


「え、どこ、わひゃあ!」


実践経験皆無な運動オンチでは雑魚敵を倒すのも一苦労。

背後からの突進を受け、結構手酷いダメージを受ける。


「回復しますっ!」


「ナツちゃん、敵陣のド真ん中で詠唱しちゃダメよぉ」


「あ、はい! ま、まずは離れて……【ヒール】!」


ナツの杖から光球が放たれる。遠距離攻撃みたい。

これ、ちゃんと受けないと回復できないんだ。

割と瀕死だから助かるわー。


「助太刀に来たっスー! あれ?回復した」


横から飛び込んできたレンに横取りされた。


「割り込むな!」





──◇──




──【平原の魔物討伐 18%】


しばらくして、グレッグさんとペアになった。


「私のジョブ【グラディエーター】はかなりスタンダードな前衛ジョブなの。

 剣、盾、斧、槍……装備できるアイテムの幅が広い所も魅力の一つね。レア装備を拾っても装備できないと勿体ないものねぇ」


グレッグさんが禍々しい大斧を振り回す。

魔物があっちこっちに吹き飛んでいく。

鮮血の斧の名は【生き血を啜るデモンアクス+14】。

物騒すぎない?


「後衛の仕事は広範囲の視野を利用したサポートよぉ。

 前衛だけじゃ対処できない多数相手が腕の見せ所。

 試しに私を援護してみて?」


遠巻きにこちらをみてビビり散らかしているゴブリンに、デモンアクスを向けるグレッグさん。ゴブリン半泣きなんだけど。


「あ、はい。詠唱開始──「砕け散れェい!【バーンアックス】!」──【アイスショット】!」


氷の矢は、跡形もない爆心地に空振り。

攻撃がはやすぎる。どう援護すればいいのよ。


「てか全方位攻撃じゃないの」


「そういう時もあるわねぇ。意地悪しちゃったわ」




──◇──

【アイスショット】

初級攻撃魔法。氷の矢を正面に飛ばす。


【バーンアックス】

斧専用スキル。斧を振り下ろし、全方位に衝撃波を発生させる。

──◇──




──【平原の魔物討伐 38%】


今度はモーリンさん。

今回のパーティで唯一のマジシャン系列。1番勉強になるかもしれないわね。


「僕は【魔法剣士】だけどー、【マジシャン】としてのお手本にならないとねー」


いっちに、さーんし、と軽く準備運動するモーリンさん。

早速魔物に剣を向け、「アレ狙うねー」と無碍もなく一言。


「ほらほら行くよー【アイスショット】」


「早っ」


氷塊の大きさも速度も、何より詠唱速度も段違い。

ダメージも違う。一撃でゴブリンを倒していた。

今のあたしだと3発必要だなぁ。


「何度も使うと詠唱時間が縮むんだよー。あ、危ない」


と、あたしの首を引っ張るモーリンさん。

何事かと思うと、空振るゴブリンの棍棒。

いつの間にか背後から忍び寄られていた。


「流石にこの距離では……【魔法剣:青】!」


剣に冷気が纏わりつき、ゴブリンに斬撃を与える。

傷跡から氷が生まれ、あっという間に氷漬けになった。


「おぉー……凍ってる」


「魔法剣士だけどー、近接された時にこれで距離を取る時間を稼ぐのが僕流なんだよねー。

 でもあまりいい手じゃないからこうしない方がいいよ」


「え、マルチに対応できていい策だと思うんだけど」


「魔法剣士で遠距離軸はねー、流行らなかったよ。だから負けて降りて来たんだよね僕」


モーリンさんはあっけらかんと言うが、その言葉には物悲しさを感じた。

ジョブ選びだけじゃなくて、どういうスタンスで戦うかも重要なのね。


「勿論、どんなスタイルを選ぶかは自由だけど……よく考えないといけないよー。

 まぁ今は前線の情報もだいぶ行き届いてきたからね。【井戸端報道】の新聞とか、【パーティハウス】主催のセミナーとか、【真紅道】の講演会とかあるからねー」


……どうやら、このジョブを選びました、で終わる話ではなさそう。

もっとよく、ジョブをどう使うのか考えないとなぁ。




──◇──




──【平原の魔物討伐 87%】


今度は【蒼天】のアイザックさんとミーミルさんと組む事に。

前線で魔物に囲まれてタコ殴りにされているミーミルさん。

あたしとアイザックさんは少し離れた丘の上。


「私達遠距離部隊は前線で敵を固定してくれている間を狙うのよ……【パワーショット】!」


「なるほど……【アイスショット】」


ミーミルさんに群がる魔物を矢と魔法で撃退していく。

ちまちま倒してはいるが、明らかに敵の数が多い。ずっとミーミルさんが殴られてるけど、一切動じないのは頼れる盾だなぁ。


「……隊長。つらい」


違った。弱音吐いた。


「回復薬を使いなさい。ヒーラー無しなら自力で回復するしかないわよ」


アイザックさんは容赦無し。なんなら魔物よりミーミルさんの方を狙ってるように見える。気のせい?


「む……そうだ。そうだな」


「本当にピンチなら下がりなさい。今回はベルもいるし」


一応気を遣ってるみたい。できるラインを見極めてるタイプね。

飴と鞭が上手すぎてリーダー気質。いや、女王様気質?


「ちなみに前線がいない場合はどうするの?」


「魔物相手なら攻撃して怯ませるのが定石ね。定期的に距離を取るのを忘れずにね」


はい教官。

しかしアイザックさんの闘い方は参考になる。

魔法以上に距離を取る事が肝要になる弓での戦闘は、前衛がいる事を前提としている。

そして後方から戦況を確認できるから、前衛に指示する事もできるわけだ。


「回復薬うまい」


「ミーミルさん殴られながら飲んでる」


「ヒーラーの少ないパーティはこんなもんよ」




──◇──




【平原の魔物討伐 100%】complete!


クエスト完了の表示。

やっと終わったー、と一息つく間も無く、ライズが座るあたしのおしりを槍の柄でぺしぺし叩く。やめいー。


「まだクエスト1つ完了しただけだ。あと9個残ってるぞ」


「ひー」


「そうは言っても全部同時進行だから、あっという間よぉ。

 他のクエストも何割か進んでるから」


「ただ、スポット毎に出る魔物の種類は違うから、次のスポットに移動するよー。

 【平原の魔物討伐】は第1階層の魔物なら何でも良いから討伐するクエストだったからいいけど、他のは魔物指定アリだからね」


「ん、もう終わったのね」


「result:【平原の魔物討伐】完了。所要時間1時間25分」


「……フツーは半日はかかるんスけどね。これがウワサのライズ式っスか……」


別行動をしていたベルとゴーストとレンも合流。

これ、ただクエスト攻略してる様に見えるけど大分おかしい事してる。

「疲労は錯覚だ。休む必要は無いだろ」と後ろからライズが蹴っ飛ばしてくる。つまり休憩一切無しの連続戦闘だ。

開始前に回るルートを最適化して、少しでもタイムロスを減らす効率厨っぷり。

……確かにBlueearthにはスタミナの概念はないからぶっ続けで行動できるけど、ちゃんと疲れを感じるようにできてるのよね。コレを記憶取り戻す前からやってるの頭おかしいでしょ。


「次の目的地までは距離がある。移動しながら休憩だな……ベル、グレッグ。頼む」


「はいはい。【馬車召喚】」


「はぁい。【眷属召喚:「鳴神ナルカミ」】!」


ベルがもう一台の馬車を召喚し、グレッグさんが馬を召喚する。

……馬? 脚六本あるしめちゃくちゃでかいんだけど。


「search:……希少エネミー【スレイプニル】の幼体ですね。本来は60階層ロストに出現しますが、低確立で幼体が20階層ケイヴに出現します」


「あら、60階層……貴方、そんな遠くから来たのねぇ」


鳴神を撫でるグレッグさん。

巨漢のグレッグさんが跨って丁度いいくらいの巨大馬は、グレッグさんに懐いているようで嬉しそうに嘶いていた。

……幼体なんだ。コレで。


「グレッグさん、サブジョブはサモナーだったのね」


「動物ちゃんと旅するの好きだったのよぉ」


「愛馬鳴神に跨り斧を振り回し戦場を蹂躙するグレッグさんの姿はさる拠点階層では【冬将軍ジェネラル・マッスル】と呼ばれているとかなんとかー」


「昔の話よぉ」


「怖すぎるわね……」

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