3.ラスボス一過。これからどうする?


【第0階層 城下町アドレ】

雑貨屋【すずらん】

──ライズの仮部屋(【すずらん】倉庫)


大通りの繁華街から一本裏通りへ。

冒険者達が細々やってるコアな店が並ぶ、冒険者向けの通り。

それを更に裏通りへ。裏通りへ。裏通りへ……

最早客など辿り着かない僻地、それが雑貨屋【すずらん】だ。

売り上げは壊滅的。客はほぼお得意様のみだ。


帰宅。【すずらん】の裏手の倉庫が、俺の仮拠点だ。

こっそり裏口から入ったが、何故かベルにバレた。

というより待ち伏せされてた。何故?


「勝手にハーレムしてんなクソが」

と軽蔑の目を向けられたものの、メアリーとゴーストの二人を上げる事は許可してくれた。

今月からの家賃が3倍になったが。

金はあるがしてやられた感が悔しい。


兎角、許可が出た以上は好きにする。一応ベルには聞かれないようドアを閉めて、ガラクタの山に二人を招待。


「かなり狭いが……まぁ二人はベッドに座ってくれ」


唯一マトモに座れるからな。俺は立ったままでいいや。


「アンタも座りなさいよ。隣空けてあげるから」


と、メアリーはゴーストに指示してゴーストをベッドに座らせる。

そしてメアリーはゴーストの膝に乗る。

なんだその仲良し。眼福。


「いいもん見せてもらったんで立ちんぼでいいです」


「は?」とキョトン顔のメアリー。天然か。

それはおいといて今後の方針会議だ。


「……で。どうする? お前ら」


「変わらないわよ。世界征服よ」


「何をするかじゃなくてどうやって、だ。

 今のお前は俺と同じ、このゲームのプレイヤーだぞ?

 最悪あの天才天知調に消されておしまいだろ」


「お姉ちゃんは絶対に私を消したりはしないわ。

 蟻や蚊さえ慈しむような女よ? データだからって人の命を軽んじたりしない」


「信用してるのな。世界征服企んでるような奴だぞ」


「お姉ちゃんなら征服してもまぁ平和な世界になりそうだし……」


それはそうである。

なんで世界征服しようとしてるのかわからない優しい人だった。笑顔の裏が怖いとかそういうのでもなかった。言葉は物騒だったが。

世界征服中の調さんにとって、メアリーのハッキングはかなり不都合だったはずだ。

ぶっちゃけメアリーを冒険者に設定するまでもなく、その場でデリートされてもおかしくない。目撃者の俺ごと。


「ま、征服するのはあたしだけどねー。

 でも実際どうしようかな。ご丁寧にレベル1だし……」


問題はそこだ。

この世界は超大規模の電脳世界【New World】を侵略中の電子ウィルス【Blueearth】。このゲームを攻略する=世界征服となる。

俺達以外の誰が攻略したなら天知調の勝ちなわけだ。

メアリーが攻略するには急いでレベル差を詰めなくちゃいけなくなる。

……いや、この際俺達が攻略してもダメか。


「たとえ俺達がこのゲームを攻略したとしても、世界征服するのは天知調だ」


そうなのよねー、とゴーストの膝の上でゆらゆら揺れるメアリー。

俺もそこ座りたい。いや百合に挟まるのは許されない。


……そういえば、今朝の新聞。

最前線は今、硬直状態だ。今どころか、ここ最近ずっと。


……そうか。なら打つ手はある。


「わかったぞメアリー。完璧な作戦とは言えないが、世界征服の手前までは持っていける作戦だ」


「え、マジ?」


「このゲームを攻略した時点で天知調の勝ちなんだから、逆説的言えば誰もゲームを攻略できないようにすれば良いんだ。

 そしてその原因を俺達が握っていれば、天知調は俺達と交渉しなければならなくなる」


……勿論、俺達がデリートされない事を前提として、だが。


「交渉で世界征服の権利を獲得するって訳ね。いいじゃない!

 ……で、どうやんの?」


へへん。その辺も考えてますとも。


「それは単純だ。最前線に追いついてトップランカー全員を倒せばいい。

 今最前線には三つのギルドがいる。【至高帝国】【真紅道】レッドロード【飢餓の爪傭兵団】。この三つのギルドに【ギルド決闘】で勝利して階層攻略権を奪い取る」


「【ギルド決闘】って?」


「answer:【ギルド決闘】は【決闘】の一種です。他ギルドの方針などに干渉することができます」


──────

【ギルド決闘】

双方のギルドマスターが合意した場合に成立する決闘。

ギルドの存続、メンバーの引き抜き等が可能。

ルールは事前提示し双方が合意した場合のみ成立する。

──────


ここまで静かにしていたゴーストが解説する。

冒険者認定されたが、基本ルールは頭にインプットされている様だ。

……これ、ゲームの設定とかも熟知してる感じか? だとしたらとてつもない武器になるな。


「……合意を得るには、相手に利益が必要だ。二つくらい考えているが……とりあえず単純に【人材】だな。

最前線は人材不足だ。負けたら軍門に降る、みたいな理由で決闘する。

 その為には相手が引き抜きたくなるような有力なギルドが必要だ。

 ゴーストは高レベルで冒険者化したようだが最前線的にはそれだけじゃ魅力にならん。あいつらレベルカンストしてるからな」


レベルの話は、現在階層攻略が停滞している事と密接な繋がりがある。が、それは今話しても仕方ないので割愛。


「なるほどね。じゃあギルド立ち上げてさっさと出発しないと」


「いや、ギルド立ち上げは後にした方がいい。

 ……まず、纏めるか」


ワンタッチで汚れが消える魔法の黒板に、今やるべき事を纏める。


【やること】

①ギルドを立ち上げる

②階層攻略をし、最前線に追いつく

③最前線にとって魅力的なギルドになる


「2番目と3番目を同時進行するのは至難の技だ。階層攻略ばっかりやってもギルドは大きくならないし、正直大してレベルも上がらない」


「え? 階層攻略してたらレベル上がらないの?」


「ギルドで依頼を受けた方が効率的だ。これはまぁ後で教えるが……ここで重要なのはギルドランクだ。

 ゴースト、ギルドランクについて教えてくれ」


「answer:ギルドランクは、ギルドの功績により配布される【ギルド手形】の数で決定します。

 最上位からSSS、SS、S、A、B、C、D、E、Fという形になります」


あ、最大でSSSなんだ。最前線でもSSランクなんだが。

やはりゴーストの情報はかなり役立つな。そして冒険者としてのデータじゃなくて、ゲームのデータを把握している様だ。これはヤバいメリットだ。

……ゴースト1人でも最前線との交渉材料になりかねない。が、これは独占した方がいい情報か。


「拠点は10階層毎にしか無く、王国依頼のクエストは同時に10個しか受け取れない。

 いちいち拠点で依頼を受けて進むのは効率的じゃない。そこでBランクギルドをまず目指す」


「search:……Bランク以上のギルドはアドレ王国に認定され、王国からの依頼──王国クエストをどこからでも受け取ることができます」


そう。王国クエスト。

クエストにも種類があるが、ある事情で王国クエスト以外のクエストの受注が難しくなっている。

ほとんどのクエストは各拠点階層で受注するが、王国クエストだけは攻略しながら受注できる。経験値も稼げる寸法だ。


「だったらやっぱギルドを早く立ち上げないと……」


「焦るな焦るな。ここで重要なのは、ギルドランクは手形の数を参照しているってことだ」


「……まさか誰かから奪ったり?」


なんか物騒な事言ってんな。天知調の血縁か? 血縁か。


「手形はギルドと個人の契約でしか譲渡できないから奪うのは難しいな。

 要するに、無名ギルドからちまちま手形を集めるより、大型ギルドに加入していい依頼をバシバシこなした方が効率的だってことだ」


「え、他所のギルドの手形を持ち帰るわけ?」


「アドレには【祝福の花束】っていうギルドがある。

 俺はそこに在籍している訳だが、アイテムを提供する代わりに俺の手形を全部もらう契約をしている。お前らも同じことをする」


「……なるほど。もう溜めてたわけね。で、Bランクになったら攻略開始と」


そう。攻略とギルドランクはこれで解決。


「次に仲間だな。

 向こうが【ギルド決闘】を受けるだけの魅力が必要だ。

 引き抜きたくなるような優秀な味方を付けて、それでいて俺達を見過ごしたらマズいと思わせるほどの規模が必要だ。

 とはいえ簡単には人数は集まらないぞ。トップランカーの【飢餓の爪傭兵団】のせいでな。

 連中は全階層の冒険者に片っ端から勧誘してギルドメンバーを増やしまくってる。各拠点に傘下ギルドが1つはあるくらいだ」


「search:【飢餓の爪傭兵団】メンバー120名。傘下ギルド25、全体メンバー数672名です」


「ろっぴゃく……とんでもない数ね」


「各拠点で依頼を受けるのが非効率的な原因の一院でもある」


【飢餓の爪傭兵団】は、その拠点階層にあるクエストを片っ端から独占し解決する。王国から直接依頼をもらう王国クエスト以外は、簡単にはクエストを受注できない状態だ。

つまり、「クエスト受けたきゃ軍門に降りな!」って事だ。なんせ天下のトップランカーがバックに付いてるからタチが悪い。


「飢餓の爪って……飢えるのはこっちじゃないのよ」


「まぁその代わりにアイテムに頓着なく、結構いいアイテムを横流ししてくれたり、大規模な買い物をしたりするからな……商売系ギルドは万々歳だ」


実際、Blueearthに大きな動きをもたらしているのは【飢餓の爪傭兵団】だ。

何をするにも大掛かりで、周りも変わらざるを得ない。

上手く利用できる可能性も大いにある。


「ふーん……トップランカーについても詳しいのね。ほかの二つも何か知ってる?」


「そうだな……一通り確認するか。

【真紅道】は50人程度の正統派ギルドって感じだ。

 最前線で積極的に攻略を進めているが、後進の育成の為に階層を降りてくる事も多い。だから知名度も高く人気だ」


「ふーん。いい奴なんだ」


「まぁそうだな。最前線は攻略に手間取ってるし手は多い方がいいってとこもあるだろうが、階層攻略する奴らを助けたいって純粋な心が第一にあるのは本心だろう。

 なお、最初に潰すのはこいつらだ」


「最悪だあんた」


「気に入らないとかじゃないぞ。このギルドは決闘主義だ。

 そういう素直で真っ当な奴から落とさないとヤバいからな」


「search:今月のギルド決闘回数も13回と全ギルドで一位です」


最前線には三つのギルドしかいない。その三つのギルド同士で決闘する事もあるが、ある事情でほぼしない。

そんな事してる暇あったら攻略だ!ってくらい最前線は困窮しているらしいから。

で、そうなるとこの決闘は最前線に追いついていないギルドとの決闘だ。【飢餓の爪傭兵団】の様に各拠点に傘下を置いているわけでもない【真紅道】は、わざわざ下の階層まで降りて正々堂々と決闘を受けている事になる。

あまりに実直で誠実。冒険者のインフラを支えるのが【飢餓の爪傭兵団】ならば、冒険者の偶像として立つのが【真紅道】だ。

……故に、ここを崩すというのはかなりのリスクを伴うが。


「後一つ、【至高帝国】だっけ?」


「おう。あそこはよくわからん。

 メンバーはたった4人なんだがやたら強い。

 二つの後に最前線に追いついたギルドなんだが、当時喧嘩していた【真紅道】【飢餓の爪傭兵団】を仲裁したとかなんとか。

 とにかく謎だらけだ」


「ふんわりしてるわね」


「マジで情報が無いんだよ」


冒険者は一度到達した階層にしかワープできない。

なので、最前線の情報は最前線から聞くしかない。

情報発信ギルド【井戸端報道】は定期的に最前線のギルドと下位階層で会談をして情報を買っているのだ。あくまでトップランカーが合意した情報しか流れてこない。

つまり、【至高帝国】側が情報を絞っている訳だ。


「ウォリアー、レンジャー、マジシャン、ローグの4人。で、レンジャーがBlueearth最強の座にいる。ここまでは【井戸端報道】で公開されてる情報だな」


「え、最強いるの?」


「あくまで1対1最強な。それも対人の」


トップランカー同士が決闘を行わなくなった原因。

数において不利な【至高帝国】は人数差のある決闘は受けないし、少人数戦ではレンジャーが最強すぎて勝てない。

【至高帝国】側から決闘を申し込む事も無いため、トップランカー同士でギルド決闘をしても【至高帝国】しか得をしない、という状況だ。

この背景があってこそ、たった4人でトップランカーとなったのだろう。が、推測しかできない。


後発の利点と言えば事前情報。それが無いのだから、出来る限り戦いたくない相手だ。


「とまぁこんな所だな。こっちが不利なのは間違いないが、考えて動けばどうにかなるかもしれん」


ひとまず方針は決まった。やる事はいっぱいあるな。

階層攻略を諦めた身ながら、流石にゲームマスター直々の指令となれば重い腰を上げなくてはならない。と渋々だったが、いざ計画してみると楽しくなってくるものだ。

遠足前日が1番楽しい理論だな。


「さて、そうなると俺のいくらかの武器防具をくれてやるか」


趣味の鍛治でアイテムは大量に抱えている。最前線まで通用するようなトンデモ装備もちらほらあるのだ。

勿論非売品。稀にベルに格安で売るが。


「悪いわね」


「お前は……まぁそこの箱に入ってる装備を好きなだけ持ってけ。レベル差を補える程度のステータスのものばっかりだ」


「マジで。太っ腹ね……どれにしようかしら」


ごそごそと木箱を漁るメアリー。これまで考えた事も無いが、雑に探しても手を怪我する事が無いのはゲーム世界の利点だなぁ。

考えてみれば色んな所で、無駄な怪我のリスクが無くなっている。変なリアルさを追求してダメージフィードバックを強くしてたVRゲームとかあったが、【Blueearth】はそういうのは無い。

いい世界なんだよなぁ。絶賛世界規模大犯罪進行中って事以外は。


「question:ライズ。私は何を装備すれば良いですか?」


ゴーストはベッドから立ち上がり問いかける。

そっちは考えてある。レベル1のメアリーでは装備できないアイテムも多いからな。


「おう。まずは双剣。俺のお下がりをあげよう」


昔にイベントの報酬で手に入れたレア装備を強化しまくった特注品、【無限蛇の双牙ウロボロス】。

手に入れたのは本当に序盤の頃だが、一方の柄にもう一方の刃を差し込む事で耐久値を回復できる【無限自喰ウロボロス・リペア】というアビリティによって無限に使える代物だ。

気に入ってはいたが、【スイッチ】戦法は武器一つ一つの耐久値の消費が少ないので、強みを活かしきれてないとは思っていた。


まあそんなのはオマケ。本命はこっちだ


「そして防具はコレな」


インベントリから取り出したるは──メイド服。

ロングスカートのメイド服。王道のメイド服。


ゴーストの表情は変わらない。メアリーは……形容し難い顔でこっち睨んでくる。軽蔑はしてると思う。だが怯まない。


「激レア防具【バトルドレス】を強化しまくった【バトルドレス+77】だ。俺の現役時代の装備より強いぞ。是非着てくれ」


「answer:ありがとうございます。とても嬉しいです」


「ちょっと待てオイ」


メアリーがインターセプト。俺とゴーストの間に立ち塞がる。


「ゴーストちょっとそいつから離れなさい」


「了解」


「ナンデショウカメアリーサン」


「下心見え見えなのよ。何コスプレさせようとしてるのよ」


「違う。激レア防具だが俺が装備できなかったから強化の練習に使っただけだ」


「何で自分の防具より強くしてんのよ」


「強くなっちゃったんだよ。アイテム強化は確立ゲーだ。おかしい事はないぞぅ」


「……ほんと?」


めっちゃ睨まれとる。仕方ない。奥の手だ。


「娘にはいい装備を着てもらいたいだろ」


「親心に訴えてもダメ」


「お前の選んだ装備も強化するから」


「交渉してもダメ」


「黒髪ストレートロング巨乳長身クールロングスカート黒メイドが俺のストライクゾーンなんだ」


「性癖を吐露してもダメ!」

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