第11話『責任の理由』
「やぁ、時間通りだね」
俺が待ち合わせ場所である駅前ロータリーへ赴くと、既に澄香さんが待っていた。
彼女は自分の車に身体を預け、オシャレなサングラス姿で俺を出迎えた。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
車に乗りこみ、俺達は目的地へと向かった。
澄香さん曰く〈自分たちを語るに相応しい場所がある〉との事。
(一体どこに連れていかれることやら…)
車に揺られること約30分。俺はとあるビルに連れてこられた。
「ここは?」
「音楽スタジオだよ。私達が良く使ってた場所さ」
澄香さんが灯りを付ける。室内には鏡張りになった壁と楽器が置かれていた。
「さて…まずは私と緋織の関係から話そうか」
「お願いします」
「私達は元々バンドをやってたんだ。3年くらい前に解散したけどね」
「バンドを…?」
「私がボーカル、緋織はドラム…あと2人のメンバーが居て、4人で活動してたんだ」
澄香さんが懐から写真を取り出し、俺に渡してくる。
そこには今よりも少し若く見える澄香さんと緋織を含めた、4人組が写っていた。
「緋織の家には行ったでしょ?」
「えぇ。1晩過ごしましたよ」
「あそこには元々4人で住んでたんだ。みんなで打ち合わせしたり、騒いだり…楽しかったなぁ…」
「でも今は緋織1人なんですよね?」
「うん、そうみたいだね…」
澄香さんの発言に、俺は少し違和感を覚える。
そうみたい?まるで今の緋織を知らないみたいな言い方をするじゃないか。
「なんで解散したんですか?」
「……原因を作ったのは私だ」
「澄香さんが?」
それから澄香さんは過去の出来事を語り始めた。
4人で上京してきたこと。
本気でメジャーデビューを目指していたこと。
その中でも緋織の熱量が最も強かったこと。
「緋織は上京してからずっと夢を叶えるために動いてた。私達はそんな緋織に甘えてたんだ」
「甘えてたって…緋織だけが頑張っていたわけじゃないでしょう?」
「ううん、頑張ってたのは緋織だけ。私も…他の2人も…本気で夢が叶うなんて思ってなかった」
澄香さんが室内に置かれたドラムに触れる。
懐かしむような仕草で、俺にはそれが緋織の使っていた物だとすぐに分かった。
「上京してから1年後に…メンバーの1人が脱退した。実家の家業を継ぐって言ってね。3人になった後も活動を続けてたけど…」
「けど?」
「…ある日のライブが終わった後…私にだけ声が掛かったんだ…『単独で歌手デビューしないか?』って」
「っ!それって…!」
「事実上の引き抜きさ。初めは断るつもりだったけど…緋織が背中を押してくれたんだ」
緋織は澄香さんが1人でデビューする事に同意したらしい。
彼女の考えは『デビューして知名度が上がればバンドとしても評価されるかもしれないから』だった。
「でも緋織の思惑通りにはならなかった。私がいくら頑張っても、私1人が評価されるだけ…バンドの活動には繋がらなかった」
「それが…解散理由ですか」
「あぁ。結局、残ったもう1人のメンバーも辞めて、私はソロ活動で多忙。緋織が最後まで残って解散したって感じだね」
話し終えた澄香さんの声は少し震えていた。
彼女もまた、過去を抱えた1人なのだろう。
「今の話を聞いて、君はどう思った?」
「俺は……」
正直、納得の行く部分もある。
夢を目指して挫折したなんて、自殺するには十分な理由だ。だけど…!
「まだ俺は…緋織と向き合ってない!」
緋織の言う〈責任〉に俺はまだ応えていない。
アイツの本心も聞かずに、決められるかよ!
「澄香さん、俺を緋織の家まで送ってくれませんか?」
「今からか?もう時間も遅いが…」
「構いません。今向き合わないと手遅れになる」
「…分かった、行こう」
俺は緋織の元へと向かうべく、すぐにスタジオを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます