死にたがりな美少女を救ったら「責任取れ」と脅されて彼氏にされた話
マホロバ
第1話『死にたがりな彼女』
「クッソ…なぁーんで帰る時にパンクするかねぇ!」
バイトの帰り道、夜空に向かって愚痴を叫ぶ。
俺は
パンクした自転車を押しながら海沿いの道路を歩く、哀れな男子大学生だ。
「せめて出勤前ならサボる口実になったってのに…」
ため息をつきながら、景色に視線を向ける。
曇っているせいで星は見えない。それでも隙間から月明かりだけが顔を覗かせている。
海面に反射した光が何とも言えない幻想的な風景を醸し出している。
まぁ何の足しにもならないけど。
「今日の晩飯は何にしようかな…」
いつも通り家に帰り、いつも通りの時間を過ごす…
──そのはずだった
「ん?何だ今の音?」
突然、ザポン!と何かが水に落ちる音が聞こえてきた。
気になってガードレール越しに海を見ると、やはり何かが落ちたようで、海面には波紋が拡がっていた。
石でも落ちたのだろう。そう思って離れようとした時、俺は強烈な違和感を覚えた。
「本当に石…か?」
暗闇に目を凝らして海面を凝視する。すると沈んでいくカラフルな影が見えてきた。
それは間違いなく、人の形をしていた。
「嘘だろおい!!」
俺は自転車も荷物も投げ出して、海へと飛び込んだ。
冷たい海水を掻き分け、沈んでいく人影を掴む。がっしりと掴んだのを確認してから、俺は慌てて海面へと浮上した。
「ぷはっ!おい!何してんだアンタ!」
「……………」
「何なんだよクソッタレ…!」
不思議なことに、沈んでいた人は動こうとしなかった。俺の手を振り払うとも、握り返すこともせず、ただ引き摺られるがままだった。
「はぁ…はぁ…はぁ…!」
「ゲホッゲホッ…!」
近くの岩場へと何とか引き上げ、ようやく息を吐く。
俺が助けた人は引き揚げられた後、むせるように肺に入った水を吐き出していた。
「何やってんだよアンタ…!」
「何って…入水自殺」
「そんなこと見りゃわかんだよ!あーチクショウ!ビショ濡れじゃねぇか…」
水の染み込んだTシャツを絞りながら、助けた人物をよく観察してみた。
やや細めの体格に灰色の髪。透けた衣服の下には女性物の下着が見え隠れしている。
中性的な見た目をしているが、声からして多分女性なのだろう。
「なんでボクを助けたの?」
「生憎と育ちが良いんでね。目の前の自殺見過ごせるほど腐ってねぇんだわ」
「そっか…分かった」
「おう」
「………………」
「…何だよ…人の顔ジロジロ見やがって」
「いつまでそこに居るの?」
今度は俺の方が面食らった。
コイツまさか…
「アンタ、まさかとは思うが…俺が居なくなってからまた飛び込む気じゃないよな…?」
「そのつもりだけど?」
「バカ!そう言われて『ハイそうですか』って帰れるわけねぇだろ!!」
そのまさかだった。
コイツは俺が立ち去ってからまた自殺を決行するつもりだ。それを聞いて帰ったんじゃ、見捨てたのと何も変わんねぇだろうが!
「でもキミが居たんじゃ死ねない」
「そもそも死ぬな!」
「なんで?キミには関係ないでしょ?」
「あるわ!」
「どんな関係が?」
「それは…えーっと…」
ぶっちゃけ関係は無い。見捨てても良いんじゃないかと思い始めてるくらいだ。
でもそれだと俺も気分が悪い。どうしたものか…
「…ふふっ、変な人」
俺が悩んでいると、コイツが微かに笑った。
お前にだけは言われたくないんだが?
「良いよ。今日はやめてあげる」
「何で上から目線なんだよ…」
「キミのワガママを聞いてあげるんだからボクが上だよ。でも…後悔することになるよ?」
「二度と会うこともねぇし構わん」
「ふーん…そう思っちゃうんだ…キミって本当に恵まれた環境で生きてきたんだね」
何言ってんだコイツ?助けたことを後悔するなんてある訳ないだろ。
むしろ助けられなかった方が後悔するわ。
「キミの名前は?」
「
「ボクは
俺が助けた女性──緋織さんは岩の上をピョンッと跳ねて登って行った。
あまりに軽やかに動かれたせいで、俺は呆気にとられたまま1人呆然としていた。
「…ん?今“またね”って言わなかったか!?それってどういう──」
俺が岩場から元の道に戻ると、そこには倒れた俺の自転車があるだけ。
緋織さんの姿はどこにもなかった。
「なんだったんだ…今のは…」
俺は再び帰路に着いた。
濡れた感触だけが1連の出来事が夢では無いと証明していた。
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