月華の散る宵に
マシス
プロローグA 後の祭り
あぁ、終わってしまったのか、、、
喜ばしいことなのだが、喜ばねばならないのだが、俺にはそんな余裕を持ち合わせていなかった。只々、仲間たちの無念を晴らせず、無様な姿をさらしていた俺を、自責の念と奴らへの憎しみが思考をかき回す。
宵月の出ていない厚い雨雲で覆われ、青く紫紺に染まったそんな夜に、、、
けれど、あいつらは笑って俺を許すのだろう。
はにかんで「頑張った」と慰めてくれるのだろう。
だがここには、この世には、、、この世では、 もう会えまい。
泣くでもなく、墓参りをするでもなく、ただ呆然と立っていることを、どうか許してほしい。
俺は、あいつらのことを、一生涯忘れないだろう。そして誇りをもって言うだろう
「最高に、最低の、戦友たちだった」
と、あいつらに相応しい賛辞を、、、
後の歴史に、大きく名を刻んだ英雄たちの、特殊部隊の最後に相応しくない終わりだった。
あの最前線での戦闘の日々は、終わるまでは地獄のように感じていたが、今や懐かしさまで感じる。そうか、あんなにも否定していたが、
俺も戦闘狂だったんだな。
これから訪れるであろう、平和な日々は、どう過ごすべきなのだろう。せめて退屈しないものである事を願おう。
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・・・・・・・・・・・報告書・・・・・・・・・・・ 1
特殊戦闘大隊『戦線の支配者』の 壊滅 にて戦争の終結
生存者
・アセビ=ヒスイ准尉
以上1名
死傷者
+コウ=マテリアル大佐 +モニカ=バーナード少佐
+アザレア=アスチルベ中尉 +アルメリア=ハナミズキ中尉
+チェイス=アマリリス中尉 +アヤメ=オリーブ中尉
+ガーベラ=カモミール少尉 +サーペンティ=キャッツアイ少尉
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報告書に、不本意ながらも被害を、仲間の名前を、書いていく。計564名中の563名が死傷する大敗だ。これは国民には伝わることはないのだろう。
だから、俺が語りつないでやろう。
俺がとぼとぼ歩いていると、一人の戦争孤児らしき少女と出会った。ナイフを持って近づいてきて俺に刺した。だが浅い、少女をなだめるように俺は言った
「戦争が憎いか?」
少女は首を横に振った。
「じゃあ、兵隊が憎いか?」
またも少女は首を横に振った。
「なら何が憎いんだい?」
少女は言った。
「私は私自身が憎い。お父さんもお母さんも何も守れなかった私が憎い。だから、あなたを刺した。私が強くなって守りたいものを守れるように。」
奇しくも俺も同じことを思っていた。
「なら俺が鍛えてやる。だが、どんなにつらくても逃げるんじゃないぞ?」
「え?ぅん、私が強くなれるなら何でもいい。じゃあ、よろしく。」
この子を至高の兵に育ててやろうと思った。そして、自身の弱さに嘆き、強くなりたいと信念と強い意志をその小さな体に宿す少女に俺は問いかけた。
「君の名前は、なんだい?」
「......私は、 ノータリン。あなたの 名前は?」
「俺はアセビ=ヒスイ。失いすぎた、軍人だよ。」
「失いすぎたって、 あなた、何を失ったの?職は残ってるし、主君も残っている。それじゃあ、失ったとまでは言えない。」
少女、、、ノータリンは、そう言って切って捨てるように言った。その言葉はヒスイの心の逆鱗に触れてしまった。
「失ってないか、、、君は、面白いことを言うね。何も失ってない人に見えるのかい?こんな俺の姿を見てッ! ハハ ハ、そうか そうか!君は、俺には君の気持がわからないとでもいうつもりなのかい!?じゃあ、君は 拷問されたことはあるか?目の前で、仲間たちが 一方的に、蹂躙されていく光景を 見たことがあるのか?俺に何があったか知らないくせに、自分だけが被害者ずらして生きるつもりか!? そr」
「なら、聞かせてよ。あなたが何者で、あなたとあなたの仲間たちに何があったかを、ねぇ、ヒスイ。」
ノータリンは、冷静さを失ったヒスイに言って聞かせるように問いかけた。
「教えてよ」
その言葉が、俺に、冷静さを取り戻させた。
「長くなるが、話そう。俺が如何にして、『戦線の支配者』に入隊し今に至るまでを。」
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