第8話 聖騎士
王都ロザリオの中央区画は精霊を奉る神殿があり、聖職者と精霊に従う者が暮らしている。
この区画は他区画とは違い、人の出入りが制限されているという特徴がある。
何故なら、中央区画自体が精霊の領域になっている為、祝福を受けた者だけしか入れないようになっているのである。
これまで祝福を受けた人間の中で、稀に精霊に愛された者という特別な存在がいる。
もし精霊に愛された者が生まれた場合には、その者を神殿に住まわせなければならないと法律で決まっていた。
これまでの歴史において、そもそも神殿に入れる人間は「王家の血筋」以外にはいなかった。
つまり、王家には稀に「特に精霊に愛された者」が生まれるという事である。
四代目の王の統治時代に、王と寵愛を受けたとある側室との間に四人の子供が生まれていた。
一人は男児、他三人はみな女児であった。
そのうちの長女は生まれながらにして精霊が見える子供であった。
そのことが幼い頃に突然判明してから、彼女はずっと神殿に一人で暮らすようになった。
その娘こそが聖騎士「エルメ」である。
エルメはある時から毎日決まった生活をするようになった。
早朝五時に起床し、身支度をすると昼まで祈りを捧げ、午後は必ず剣を握って鍛錬に励んだのである。
何故剣の鍛錬をしたのか?
その答えは精霊にあった。
初めは精霊が見えるだけであったエルメは、何年も毎日神殿内で祈りを捧げているうちに精霊たちと会話ができるようになっていた。
精霊たちはまるで実の親のようにエルメを大事にしてくれ、彼女に助言をするようになった。
その助言の一つに「剣を握れ。強くなれ。いずれ厄災がやってくるのだから」というものがあった。
エルメはそれに従い、毎日剣を握ったのである。
そのおかげか当時エルメは十代のうら若き女性であったにもかかわらず、実力を認められ、騎士の位を高齢の父王から賜わることになる。
彼女の生活は騎士になった事で大きく変化した。
毎日東区画に出向き、騎士としての仕事が終わるとすぐに神殿に戻る様子を見た人々はエルメを「聖騎士」と呼ぶようになった。
・ ・ ・
【ザイン失踪後 野原 国外】
ダグラス達は現在も足を止めずに歩き続け、数分前にいた山を越えた先にある広大な野原を進んでいた。
魔族のいるエリアが目前と迫っているというのに、エルメは複雑な心境だった。
(……精霊が語りかけてくる……「行ってはいけない」と何度も……どうして?)
エルメは山中にいる時から精霊たちが自分の側で叫びながら飛んでいる事に気づいていた。
彼らは何故か「この先には行ってはいけない、戻れ、ザインを探せ、王都へ戻れ」と叫んでいるのだ。
しかし、エルメはそれを無視していた。
(分からないけど、これは違和感がある。
そう、どこかで、同じような事があったような……)
前を歩く仲間たちの顔を見つめ、これが良い選択なのだと自分を奮い立たせ、親のような精霊たちに対して初めての反抗を示すエルメは、より強く剣を握りしめた。
その様子に気づかないダグラスは爽やかに笑いながら、振り返って一行の先を指さす。
「ついに見えてきたよ!! あれが、魔族の町だ!!」
遂に彼らは魔族の町ユリアスに辿り着いたのである。
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