黄昏色の路地裏で 1/2

 バスの窓から外を眺めれば日も落ちてきたのか黄金色の輝きが道路を煌々と照らす。

 あの後は今の今まで議論を重ねて撮りたいテーマとかそういうのを決めていた。

 幾ら東雲に合わせて書いたものとはいえスケジュールの調整や共有できる情報は全部しておきたかった。

 それによっては追加したいシーンや削るべきシーンも出ると思ったからだ。


 (っと、その前に幾らか見繕っておこうかな)


 その場の思い付きだが停車ボタンを押してバスを降りる。

 こういう景色の時にはもしかしたら面白いものに出会えるかもしれない。

 そんな子供じみた予感とどうせ帰っても暇だからせっかくなら寄り道していこうという少しだけ擦れた考えが同居して、いつもより二つほど離れたバス停で降りたのだった。



 わずか二駅とはいえ逢魔が時の今となっては何処も彼処も異世界のように映る。

 黄金色の日が照らす景色を眺めているともしかしたらジパングというのは稲穂ではなくこの太陽が照らす景色の事を指していたのではないかと思うくらい幻想的な気分に浸れる。

 そしてそんな時間には今まで見過ごしていた景色が突然声をあげることだってある。

 僕はこの街のそんな時間が大好きだった。



 スマホのカメラ機能を使っては良さげなロケーションを探して周囲をふらつく。

 さすがに個人のものは取らないが家路に向かって走る小学生や誰もいない公園などを見つけてはメモ帳に思いついた構想を殴り書きしていく。


 (帰ったらネタの選択だな、東雲にはどんなシーンが似合うかな)


 今回取ろうとしているのは「夢」がテーマだった。

 東京にやってきた少女が自らの夢を追い求め、時には挫折しながらも理解者に恵まれ遂には夢を叶える。

 そんなありふれた何処にでもある話が今回のテーマだった。

 だからこそ捨拾選択は慎重に行わなきゃならない、それが伊吹に分かりやすくイメージしてもらうための前提条件だ。


 (あ、いいとこ発見)


 あちこち撮りながら街道を歩いていたらなかなか見ないような裏道を発見した。

 ビルとビルの隙間程度の広さしかないが人が一人ずつ通る分には十分な広さだ。


 (ここら辺は使えるかもな、挫折した主人公が逃げ込むために迷い込む道として)


 その場所を忘れないようにスマホのカメラを向けて撮影しようとした時、何処からかすすり泣く声が聞こえてきた。

 周囲を見渡しても左右はコンクリートが昇るビルだし、聞こえるとしたらきっと前しかないだろう。

 少しだけ心臓が高鳴り、そのたびに微かな疼きが走ってくる。


 (ワクワクしてるのかな、こういうのに)


 狭い裏道、逢魔が時、すすり泣く声、どれも幽霊の出るホラーとしては一級のシチュエーションだ。

 逃げるよりも前に聞こえるそれから耳が離せなくなる。


 (行ってみよう。もしかしたら何かあるかもしれない)


 自分でもどうかと思うくらい楽観的な考えと共にその声のする方に足を踏み込んでいく。

 声が大きくなるにつれて心臓の鼓動もどんどん早くなっていく。

 引き返すならここしかないと全身が声をあげている。

 それでもこの先に何かがあると考えたら退く気にはなれなかった。

 そして裏道の奥、行き止まりのところで遂にその声の主を見つけた。

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