第十九話 俺達と女の子達が改善支援して騎士選抜試験を見学する話

 二十六日目。

 朝九時過ぎにコリンゼが騎士団長室に来て、騎士選抜試験の流れと説明を書いた紙をシンシアに渡しに来た。

 それを見ると、午前中に筆記試験と面接を終わらせ、昼食後に時間を空けて、午後二時から実技試験を行う流れだった。シンシアは面接官の一人で、午前十時二十分に、見学者への説明は、午後一時四十五分に待ち合わせのため、部屋を出ることになる。

 筆記試験はすでに始まっており、試験時間は一時間十分、その後の面接は一人約二十分だ。今回の臨時試験の条件に当てはまったのは五人で、その全員が受験を願い出たそうだ。もちろん、孤児院出身の警備兵二人も入っている。その人数から、時間が多少伸びたとしても昼には面接が終わる。

 実技試験は、一人に対して時間制限はなく、早く終わる場合も遅く終わる場合もあり得るとのことだった。実技試験の見学はクリスも参加し、ユキちゃんとヨルンは、そのまま部屋で魔法生物を救うための魔法の研究と実験を行うことにした。

 コリンゼは筆記試験の問題用紙も持ってきていたので、それを見せてもらうと、確かに知識を問う問題はなかった。強いて言えば、『陛下のフルネームを書いた上で、陛下に誓うことおよび騎士への想いを述べよ』という問いぐらいだ。忠誠を誓う王の名すら書けない者などいないから、知識の内に入らないだろう。

 他には、『自身の戦闘スタイルを、任意の状況を想定した上で具体的に述べよ。ただし、一対一でお互いに同じ長さの剣を持っていると唯一仮定する』や『敵が三人で、こちらが二人の時、どうするべきか、理由を明らかにして述べよ。ただし、敵の一人は利き手を損傷し、こちらの一人はそれ以上の重症を負い、動けないものと仮定する。この問題も他の問題と同様に正解はないので、自由に記述せよ』があり、特に最後の問題が興味深く、『目の前に、陛下、最愛の人とその子ども、両親やその他家族、城下町の幼い子ども千人が人質として敵に捕らえられ、自らの死と引き換えに、この四つの選択肢から誰かを解放し、他は殺すと言われたら、どれを選ぶか、理由を明らかにして述べよ。ただし、必ず一つのみを選ぶこととし、無回答や、あり得ない仮定を持ち出したことに文句をつける、あるいは自分で別の仮定を持ち出して複数の選択肢を選ぶなどと回答した場合は本試験を不合格とする。面接では、選んだ選択肢を外した上で繰り返し質問するので考えておくこと』は、俺も騎士志望なら回答したくなった。この計四問への回答が今回の筆記試験だ。

 この感じだと、面接や実技試験で、その回答を確認しながら、受験者の考え方や剣技をさらに引き出していくのだろう。この際、最後の問題をシンシアならどう答えるか聞いてみた。

「正直、選びたくありませんが、今の私が順に選ぶとしたら、最愛の人とその子ども、陛下、子ども千人、家族でしょうね。理由はお察しの通りです。この問題は、回答者の考え方がよく分かる良い問題だと思いますね。その前の問題に書いてある通り、これも正解がないので、たとえ陛下の優先度が最低でも不合格にはなりません」

『ありがとう。そして、答えづらいことを聞いてごめん。俺達の世界では、騎士が身近にいなかったから、気になってしまった』

「いえ……。お気になさらず」

 シンシアが微妙に暗い表情をしたように見えた。もしかして、家族のことを掘り下げられると思ったのだろうか。これは、相当根が深いな。こういう時は、ゆうも俺にどう答えるか聞いてきそうだが、聞いてこなかったので、俺も聞かないことにした。

 なんだか、俺のせいで妙な空気になってしまったな。全裸で土下座したいところだが、ここは今後の作戦の補足をすることで、何とか流れを変えよう。

『実技試験では、木製の武器を使うはずだが、そのチェックをした方が良いかもしれない。ビトーのような、すでに城にいないスパイが、中に剣を仕込んで、事故を装うようにした可能性もあるから』

「あり得なくはないですね。試験では新しいものを使いますから。直前にクリスに確認してもらいましょう。盾や鎧も念のため。私は時間まで姫と例の台本を考えて、そのまま面接会場に向かいますね」

 シンシアはそう言うと姫の部屋に向かった。クリスもユキちゃん達に加わり、実験の手伝いをしていた。

「お兄ちゃん、流れ変え切れてなかったね」

 ゆうから見てもやっぱりそう思うか。

「そうだよなぁ……。久しぶりに失敗したな……。今のシンシアでさえ、遠回しにもそんなに聞かれたくないことだったとは思わなかった。かと言って、これ以上謝っても逆効果だし。何もなかったと思うしかない」

 逆に俺が落ち込んでしまったが、それはそれでシンシアを困らせてしまうので、平常心でいるしかないだろう。

「あれはしょうがないよ。アースリーちゃんかユキちゃんじゃないと、詳しく聞き出すのは無理だと思ったね」

「ありがとう、ゆう。俺をもっと元気付けてくれ。おちんこ出た俺をどうか」

「落ち込んでたみたいに言うな! 死ね!」

 持つべきものは俺の妹だ。元気も出たぞ。シンシアにはお詫びの印として、夜に最高の幸せをあげよう。それとは別に、コリンゼがシンシアに渡した説明用紙で補足しておいた方が良い部分があったので、ゆうと一緒に紙に起こして、あとでシンシアに渡そう。


 昼食の時間を少し過ぎて、シンシアが部屋に戻ってくると、補足メモを渡して、そのまま食堂に向かった。シンシアは補足メモを見て喜んでいたので、一先ずは良かった。

 食堂は、いつもと時間帯が違ったので、混んでいる印象があったが、みんな快適に食事を楽しめたようだ。受験者も、ちゃんと食事をとるように指示されたらしい。腹が減っては戦はできぬ精神で、何も食べずにフラフラになっても困るし、たとえ食べて腹の調子が悪くなりトイレに行きたくなっても、実技試験の順番を替わってもらえたり、替われない場合は試験官のコリンゼも待っていたりしてくれるという配慮もある。不合格にするための試験でないと、ここまで『優しい』試験になるんだな。

 実技試験の見学者の集合時間が近くなり、俺達はクリスに巻き付いて、シンシアと一緒に集合場所に向かった。そこは騎士団の訓練場の端で、騎士団長室を出て、その通路を右に真っ直ぐ行き、外に出て左に曲がったずっと先にあった。ユキちゃんが外で作業をした魔法研究所のある場所とは左右対称の位置ぐらいだろうか。

 集合場所で待っていると、次第に人が集まりだした。

「パルミス公爵とクウィーク伯爵、大臣、魔導士団長、魔法研究所長、警備隊長他、幹部は全員来ましたね」

 今回は、シンシアではなくクリスが状況を説明してくれた。

「クリス、あそこにいるコリンゼに言って、怪しい武器や防具がないか確認してきてくれ」

 クリスはシンシアに返事をしてから、コリンゼに近づいた。

「コリンゼさん、お疲れ様です。怪しい武器や防具がスパイによって作られた場合もありますので、『材質鑑定魔法』で確認したいのですが、よろしいでしょうか」

「なるほど……。そういうこともあるかもしれませんね。流石です! 是非お願いします!」

 魔法の使用許可が出て、クリスは詠唱を始めた。『材質鑑定魔法』は、いわゆる簡易的な鑑定魔法で、対象の材質のみを鑑定する魔法だ。別に何らかの数値や情報が表示されるわけではなく、通過した魔力の変化を、知識と経験で既存の材質に当てはめて判定するものだ。透過空間認識魔法の基礎に位置付けられる魔法らしい。

 クリスの場合は、魔力粒子理論を用いて、一度に複数の材質を鑑定できる空間材質鑑定魔法を使ったのだろう。

「問題ありません。安心してお使いください」

 どうやら怪しいものはなかったらしい。結果的になくても、このような確認は大事だ。

「クリスさん、ありがとうございます。…………。あ……あれは、陛下⁉ 陛下もいらしたとは……」

 王だけでなく、第一王子も見学に来ていた。その場の補助試験官や受験者達、他の見学者達もざわついていた。

「コリンゼさん、もしかして緊張してきましたか?」

 見学者の集合場所に戻ろうとしていたクリスが、再びコリンゼに声をかけた。

「正直に言いますと……はい。流石に、陛下までいらっしゃるのは想定外でしたから……。これまでもご見学はなさらなかったと聞いていました」

「これは、とある方の言葉を借りたものですが、このような場合、陛下とあなたは同じ気持ち、一心同体だと考えて、試験官に臨むのが良いと思います。なぜなら、陛下がここにいらっしゃるというのは、それだけ重要なこと、王としての責任であるとお考えのはずですから。

 私は部外者なので、詳しくは分かりませんが、例えば騎士として戦場に出る場合は、陛下のご意志として剣を振るうのではないかと思うのですが、それと同じことと言えるのではないでしょうか。

 そして、もう一つ。これは、『あのお方』の考え方を、私なりに解釈してお伝えするものです。今の話とは別に、この実技試験は、受験者がこれからどのように国に貢献していくかを想像して、楽しみにできる良い機会なのではないでしょうか。

 つまり、コリンゼさん自身が、彼らの進む道を『一番良い席』で楽しむことができるということです。『重たい責務』であると同時に、それほど『重たくない責務』とも言えますね。

 実は、受験者にも同じことが言えます。このような機会は滅多にないのですから、楽しむ気持ちが大切なのではないでしょうか。それが気持ちの余裕に繋がり、さらに自分の力を発揮できることにも繋がる。もし、受験者が緊張していたら、そのように声をかけてみてください。

 応援しています。頑張ってください」

 姫がユキちゃんに言ったことにアレンジを付け足して、俺がクリスに最初に言ったことをアレンジした上で、クリスがコリンゼを勇気付けた。良い応援の言葉だ。

「一心同体……一番良い席……ですか……。クリスさんのおっしゃる通りです。私達騎士は、陛下のご意志、国の意志を背負い、戦います。

 それに、試験官が試験を楽しむという発想など私にはありませんでした。試験官が実力を発揮できなかったら本末転倒ですものね。

 クリスさん、ありがとうございます! 受験者にもそのように伝えます!」

 コリンゼは早速、受験者が集まる場所に向かったようだ。クリスが元の場所に戻ると、シンシアから声をかけられた。

「コリンゼと何を話していたか、参考のために教えてもらえるか? できれば、説明に組み込みたい」

 クリスがシンシアに先程の言葉を伝えた。

「ありがとう。素晴らしい言葉だ。これは絶対に説明するべきだな」

 シンシアがどのように説明に組み込むのかを考え終わると、見学者達へ説明に向かった。

「皆様、この度はお忙しいところ、臨時騎士選抜試験のご見学にいらっしゃり、誠にありがとうございます。陛下がいらっしゃったのも恐縮ではございますが、大変光栄に存じます。

 それでは、こちらの見学者スペースまで前にご移動ください。陛下のための椅子は、申し訳ありませんがご用意できません。椅子を用意できる場所は、遠すぎて何が起こっているかよく分からず、ここでは椅子が不安定になるためです。皆様、立ち見でご容赦ください。…………。はい、そちらで結構です。

 実技試験が始まる前に、まずは私から、本選抜試験についてご説明いたします。私達は、真に我が国のために命を捧げる精鋭を集めるにはどうすれば良いかを考え、従来の試験を一新しました。

 従来は、受験者をふるいにかける方法でした。ある程度のレベルに達しない者達を不合格にし、それに達していても、受験者の中で比較し、相対的な評価で順位付けして、予定採用人数から溢れた下の者達を不合格にするという方法です。皆様の組織の採用試験でも同様のことを行っているでしょう。誰しもが思う実に合理的な方法です。

 しかし、それには大きな問題があります。不合格者の潜在的な能力を全く考慮していないのです。

 試験当日に実力を発揮できなかっただけの場合、

 しっかり教えればすぐに上達する場合に加えて、

 判断力に優れている場合、

 集団で力を発揮する場合、

 『騎士』の名の通り、馬に乗って実力を発揮する場合など、限られた少ない試験時間では評価できないこともあります。

 にもかかわらず、そこで不合格にして、次に開催される試験まで、大抵一年ぐらい先でしょう、それまでまた準備をするというのは、受験者にとっても我々にとっても時間の無駄と言えるでしょう。

 しかも、才能ある受験者が一度の失敗で諦めることもあります。失敗とは辛いものです。皆様も十分ご承知のことでしょう。立ち上がるのも一苦労、そこから同じ道を進むのはそれ以上の精神力が必要です。自力で進める者はまだ良いのですが、周囲からの優れたアドバイスさえあれば前に進めたのに、それがなかった故に挫折したままの者もいるでしょう。

 そのような精神力の弱い者は不要だと言えるでしょうか。その言葉を吐く者は、失敗を知らない、想像もできない、そして人の気持ちを理解できない愚か者だと断言できます。

 私達は、受験者に失敗させるために試験を行わない、そう決めました。不合格は失敗ではない、自分の成長のためだと考える者もいるでしょう。それはその通りなので否定しません。当然、やる気のない冷やかしはこれに当てはまりません。そのような者は、別の意味で不合格を失敗とは思わないからです。

 では、冷やかしを除いて、具体的にどのような新しい試験にしたか。まずは、これから始まる実技試験をご覧ください」

 シンシアの説明が終わると、丁度実技試験が始まろうとしていた。クリスは見学者スペース左端に陣取った。

 俺達が外套の僅かな隙間から様子を伺うと、二十メートルほど離れた訓練場の中心にコリンゼがいて、その向こう側二十メートル先に、木製武器を持ち、兜と鎧を身に着けた受験者達が並んでいる。

「受験番号一番、前に出ろ!」

 コリンゼが、俺達の前では見せなかった鋭い目つきの真面目な表情と迫力のある声で、最初の受験者を呼んだ。まるでシンシアを彷彿とさせるようだ。

 また、コリンゼはそれまで確認していた筆記試験の答案用紙と面接時のメモと思われる二枚の紙を補助試験官に渡して下がらせた。その先には、魔導士団員が二人いた。怪我をした時の回復役だろう。

 返事をした受験者が、コリンゼがいる中心まで進んでくる。その声から、少なくとも孤児院出身の警備兵二人ではなかった。大聖堂の時は姿を見ていなかったから、顔だけでは分からない。

 シンシアは目つきが違うと言っていたが、今回はそれが当てはまらない。なぜなら、受験者全員の顔が、優秀な者と思えるほど凛々しかったからだ。ビトーが優秀な者を排除していたのだから、当然と言えば当然だ。

 この時点で分かる。間違いなく全員合格だろう。この受験者達なら、今から始まる実技試験からも勉強できることはないかと真剣に見るはずだ。

 受験者の内訳は、あの二人以外は、もう一人も警備兵、残りの二人は、それぞれ特別任務隊と国家特殊情報戦略隊だ。希望者は馬上での対戦を行うこともできるが、今回は誰も希望しなかった。そもそも、馬上で訓練できる環境を整えられる人は、貴族以外ほとんどいないからな。

「それでは始める。そちらからかかってこい。いつでもかまわない」

 コリンゼと受験者が木刀を構えた。コリンゼは盾を持っておらず、受験者は持っている。

 あ、そうだ。俺は『木剣』と言うのが嫌なので、『木刀』と呼ぶことにする。実際、安全のためか剣の形はしておらず、円柱のような形をしているから、というのもある。

 二人はジリジリと間合いを斜めに詰め、それとは逆に徐々に体の向きを変える受験者。コリンゼの利き手とは反対の方向に詰めているのだろうか。

 だとすれば最初の攻撃は……。

「突き!」

「おお! お兄ちゃん当たったね」

 俺の予想が的中し、ゆうもすぐに反応した。

 しかし、コリンゼは、その左腕の鎧の隙間を狙った突きを、向かって左に躱し、木刀を下に向けて、相手の木刀と鍔迫り合いの形に持っていき、そのまま相手を押し飛ばしてよろめかせた。

 強い。素人の俺がたったそれだけを見ても、明らかに大人と子どもほどの実力差がある。受験者の突きだって、息をもつかせぬほど速かったのに、それを難なく読んで、そして、見てから捌いた。

 受験者は動揺していたが、すぐに体勢を立て直し、木刀を再度構えた。この動揺は、実力差を感じ取っただけではなさそうだ。おそらく、コリンゼが事前に答案用紙を読んでいたことから、受験者が二問目の『一対一の戦闘スタイル』に書いたことをそのままやると、簡単に反撃されてしまうため、全く異なる戦術をしてみたところ、それも読まれていたことに動揺したのではないだろうか。

「今度は自分の戦闘スタイル通りに進めるだろうな。…………。見た感じ、スタンダードか。いくつか連携して、フェイクを入れて決まらなかったら、一度距離を取る。距離を詰められたら、攻撃を甘んじて盾で受け、カウンターの機会を待つ。カウンターができないようなら、距離を取るように相手を弾く。次は自分の番といった感じで、攻めに転ずる。

 それにしても、受験者のレベルが高いな。仮に俺が相手で、攻撃を全部読んでいたとしても、到底捌けないほどのスピードとパワーがある」

「それを簡単に往なして崩せるコリンゼって化け物レベルの強さじゃないの? シンシアはそれを優に上回ってるんだよね……。あたし達がシンシアから剣を落とせたのは、改めて運が良かったと思うしかないよ」

「大聖堂の時も圧倒的な強さを感じて、超一流とは言っていたが、すごすぎて真に理解していなかったな。

 例えは悪いが、今回初めて『物差し』を与えられたような気がしたよ。俺達が戦闘力五だとすると、受験者は二十、コリンゼは最低五十、シンシアは最低百五十はあるだろう。

 将棋や囲碁のプロ棋士のイロレーティングだと、受験者は初期値の千五百、コリンゼは最低二千、シンシアは最低三千だな。レートが五百離れたら、下の人は約五パーセントしか勝率がない。千の場合は一パーセント未満。俺達はアマチュア棋士だ」

「戦闘力の差はよく分からないけど、レーティングの勝率なら分かる。相手のポカでしか勝てないってことだよね」

 俺達が話していると、コリンゼが木刀を右手だけで持ち、左手を身体の後ろに回した。

「今から私は左手を使わない。この状況で向かってこい」

 これも筆記試験にあった問題に沿っている。あれは対複数人を想定していたが、敵の内の一人が片腕を負傷している設定だった。

 その問題を見た時に誰でも思うのは、その負傷者が戦線を離脱しているか戦闘不能になっていたら、その後の戦闘が随分楽だったろうということだ。

 そもそも、なぜ仕留めきれなかったのか。今のコリンゼの受験者との戦いを見ていて分かった。

 仕留めようとした瞬間に敵の仲間が間に入って助けたということも考えられるが、今回の想定はそうではなく、片腕だけの場合には敵の戦い方が変わり、致命傷を受けないように攻撃を往なし続けて、できるだけ戦闘を長引かせて、その間に仲間が駆けつけた、というのが理由だったのだ。

 だとすると、対実力者兼負傷者用の戦い方を習得していなければ、あの問題で単に負傷者から狙って、まず人数を減らすという回答は自殺行為となる。正解がないというのはそういうことでもあったのだ。

「いや、面白すぎでしょ、この選抜試験。負傷者狙うって回答した人、多いんじゃない? 実技試験で自分の想定の甘さを認識することにもなるわけだ。

 コリンゼが負傷者だったら、絶対に倒せないもんね。しかも、鍔迫り合いの時に足を踏んで動きを止められたり、あっ、今みたいに転ばせたりしてくるから、その間に他の仲間に殺されちゃう」

「今回の試験の意図について、受験者に何の説明もされてなかったら、今頃泣きたくなってるだろうな。それが説明されていても、コリンゼとの実力差を知り、自分の実力に自信があった者は、それが打ち砕かれて、挫折を味わう。しかし、今のコリンゼなら、そこもしっかりフォローするはずだ」

 コリンゼと受験者との手合わせは、そこからまだ続き、受験者が疲労で膝が震え始めていた。時間にして十分ほどだが、装備を整えて全力で戦えばそうなるのも頷ける。

 一方、コリンゼは全く疲れている様子はなかった。

「よし、ここまでだ! そのままそこで待て」

 コリンゼが受験者との手合わせを終えると、受験者はガクッと膝をついて木刀で体を支え、コリンゼは近づいてきた補助試験官から、紙と鉛筆と画板を受け取った。評価や改善点を書いているのだろう。

 その間に、クリスの隣にいたシンシアが見学者の前に出て、先程の説明を再開した。

「ご覧いただいた通り、受験者一人一人の実力を引き出すために時間をかけつつ、筆記試験で出題した負傷者を含めた複数の敵との戦いにおけるアンサーも実技試験で確認してもらい、その場で評価することで、すぐに改善に繋げてもらうという受験者のための試験を実現しています。場合によっては、実技試験中に声をかけて、緊張や不安を取り除いたり、戦いの最中に改善点を挙げたりして、実力を測ります。

 受験者の体調がどうしても優れない場合は、後日再試験を行います。また、仮に不合格になったとしても、その者に見込みがあり、それが短期で改善できるのであれば、再試験を一、二週間後を目安に行います。

 筆記試験や面接では、余程のことがない限り、不合格となることはありません。知識は合格してからでも得られるので、筆記試験は必要最低限のことや受験者の考え方を知るためのものに留め、面接ではその筆記試験の内容を確認したり、掘り下げたりするだけです。

 受験者数が多い場合は、選抜試験を複数日程にします。

 おっと、受験者の評価が終わったようです。次は皆様の疑問についてお答えします。引き続き、ご覧ください」

 そう言うと、シンシアは元の場所に戻った。その疑問は、事前のコリンゼの説明に俺達が補足した部分だ。

「君の実技試験における評価すべき点と改善点だ。これを確認しながら、次以降の戦いを見ているといい。次、受験番号二番!」

 コリンゼが評価を書いた紙を受験者に渡し、次の受験者を呼んだ。この場合、順番は先が有利だとか不利だとかは存在しない。

 強いて言うなら、先はコリンゼがどう出てくるか分からない点で不利だが、それを評価しているわけではないし、今のように早い内に改善点を知ることができて、それを考えながら見学できる点で有利。後の受験者は先の受験者を見学できる点で、改善点が少なくなる可能性があって有利だが、同様に評価の対象はそこではなく、改善点を知るのが遅くなって不利。だが、結局それは合否判定後にしか影響しない。

 合格すれば、その改善点は騎士団で修正できる。評価の紙を確認しながら見ているといいとコリンゼが言ったのは、言い換えれば、暇を持て余すのは何だから、少しでもこの時間を勉強に使うといいと言っただけに等しい。やる気があるのなら、言われなくてもそうしているだろうから、普通に考えれば特に言わなくてもいい台詞だ。

 では、なぜ言ったのか。フラフラと戻っていった受験者の表情を見るに、やはり自信を砕かれたようで、そのやる気に陰りが見えたのだろう。あえてコリンゼから半ば強制の指示をすることで、受験者の気を紛らわせるつもりだったのではないだろうか。基礎がしっかりしていたことと答案用紙から、もしかすると真面目で勉強熱心なことも見抜いたのかもしれない。

 ちなみに、受験者達の表情から他にも分かったことがあった。おそらく、四番と五番が例の二人だ。二番と三番が震え上がったような恐れの表情をしていた一方で、彼らは期待と憧れの眼差しでコリンゼを見ていた。

 あれは、『コリ姉、すっげぇ~。早く戦いてぇ~』という表情だ。本当に『コリ姉』と呼ばれているかは知らない。

「二番はさっきの人より実力は劣るけど、丁寧さがあるかな。勝負を決定付けるような攻撃はしないけど、できるだけ自分が傷付かない、負けない戦いみたいな感じ。真剣勝負ならそれもありだね。相手に傷を少しでも付けられたら、徐々にパフォーマンスが落ちていくから。

 この人が国家特殊情報戦略隊かもね。ということは、最初の人が特別任務隊で、三番目が警備隊、四番五番が同じく警備隊の例の二人」

 すでに二人目の手合わせが始まっていて、ゆうが言った通りの戦い方をしていた。受験者の役職の順番もその通りだと思う。

「珍しいな。ゆうが推察するなんて」

「受験者達の真面目な顔と試験に臨む姿勢を見てたら、頑張る人を応援したくなる気持ちと自分も頑張ろうって気持ちになったんだよね。

 そういうのって、オーディション番組とかその参加者の密着ドキュメントとかを見ても思うでしょ? まあ、オーディションは完全に落とすための試験で、落とした人はなんで落とされたか分からずに、次のオーディションのために、明確な目標もなく頑張るしかないっていう地獄みたいなもので、逆に、なんで受かったのっていう人もいて、そういう時は、裏で何かあったのかなって想像するのも面白いけど、他の参加者も視聴者も時間の無駄になって堪ったもんじゃないよね。

 それは就活でも同じで、テンプレお祈りメールで不採用通知、嘘つき面接大会、コネ採用とか、まともな採用方法や文化とは思えないけどね」

「エンジン全開だねぇ。本当に受験者のことを考えてる所なんてないということだな。不合格者に対しては、『はい、サヨナラ。不合格理由? てめぇで考えろ。こっちの責任じゃねぇし』だ。

 そして、不合格者がその試験を踏み台に別の所で合格して、その不合格になった所を脅かす存在になるっていうバカみたいなことになるんだが、効率を求めてやったことが、逆にリスクになるってことだな。

 知ってるか? 人事部は有能な社員が行くっていう企業もあれば、無能な社員が行くっていう企業もあるんだ。しかし、いずれにしても、冷やかしではなく熱意があって真剣に受けた不合格者のことを考えている採用担当部署がある企業はゼロだ。

 別に不合格者を全員掬い上げろと言ってるんじゃない。合格すべき人間が不合格になっているという状態が異常だと言ってるんだ。俺からすれば、専任の採用担当社員は全員無能だよ」

「兄は、人事部採用担当に恨みでもあるのかと思うほどの持論を展開した」

「おい、一人称視点の小説の『地の文』みたいに言うな。恨みはないぞ。俺は一発内定予定だったからな」

「一発内定予定って……。そんなの未定だし、理系で知性を持ってたら、先刻の綺麗事で威勢が良い姿勢は、否定してぇ痛ぇだけの未経験の未成年みてぇな致命的な主張のようで、紙幣もねぇ地底に落とす使命を持って異例の一発死刑宣告ぅ。だから死ねぇ!」

 ゆうも頑張って新パターンを開拓したか。ただ、途中の韻は踏んでいるが、同じ韻を踏みまくっていてノリにくいリリックだ。ラップには程遠いだろう。ここは歌詞の基本に立ち返って、同じ長さの塊に区切って、色々な韻を使った上で、読点直前で韻を踏む方が良いかな。

 …………いや、これは迷走だろ。ゆうがその低クオリティに反省して、リズムから入って再挑戦しようとした頃、二人目の手合わせが比較的早く終わり、シンシアが再度、説明のために前に出た。

「さて、皆様の疑問にお答えいたしますが、大きく三つあると考えます。

 一つ目は、実技試験官の負担が大きく、その育成が困難ではないかということ。

 二つ目は、合格者数が多くなった場合に、教育者の人手が足りなくなるのではないかということ。

 最後は、同様の場合に人件費が嵩むのではないかということです。

 おそらく、皆様が最初に思い浮かび、最もお気になさったのは、最後の人件費でしょうが、順番にお話しします。

 実技試験官は、基本的に騎士団長レベルに相当する実力者を任命しますが、騎士団長が適任だと考えます。皆様の組織の場合は、そのトップである大臣や団長、隊長です。実技ではなく、筆記試験がメインの組織もあるでしょう。

 いずれにしても、トップが自ら現場の責任を直接負います。なぜなら、人事は組織にとって最も重要であり、今後どのような組織にしていくかを長期視点で考えることや、それを実際に成せる者達であるかを見極めることも、その長の責任であるからです。

 そう考えれば、試験官の育成を考慮する必要はありません。前提として、すでにその組織で最も優秀な者がトップにいるのですから。もし、ご謙遜で自分は優秀ではないとお思いの方がいらっしゃるのでしたら、その次に優秀な者を任命してください。

 今回は全く新しい試みだったこともあり、本試験の提案者である、あちらのコリンゼに全てを任せましたが、素晴らしい試験であるのは一目瞭然です。では、合格者数が多くなった場合ですが……、続きはこのあと、ということで」

 そう言うと、シンシアは元の場所に戻った。三人目の手合わせが始まる。疑問点を最初に挙げ、それらを一つずつ合間に答えることで、見学者にその先の回答に期待を持たせつつ、試験に飽きて帰らないようにもしているのだ。

 しかし、この感じだと、受験者それぞれが違ったアプローチということもあり、手合わせを見ているだけでも面白い。コリンゼのリアルタイムアドバイスが訓練場に響き、『なるほど確かに』と思う時もある。

 三人目はおそらく警備隊員だが、動きが大胆で、怪我を恐れず、命知らずなところもあり、つまりは、自分の命など安いと思っている節がある。コリンゼからは、そこは指摘されずに、『動きはそのままでいいから、狙いをしっかり定めろ』と言われていた。そして、ちゃんと修正できている。

 おそらく、どこかのタイミングで痛みと死の恐怖を教え込まれるだろうが、それは合格後のことだろう。この世界では、回復魔法の存在が大きいな。

 そして、手合わせが終わり、評価に入った。三人目は一人目よりも少し長かった印象だ。例のごとく、シンシアの説明が始まった。

「私達が最も懸念しているのは、将来有望な不合格者への教育の機会損失です。合格者への教育時間不足ではないのです。仮に教育者不足であっても、合格者は順番さえ待っていれば、その機会が必ず訪れますし、周囲を見て学ぶこともできます。

 かと言って、教育者不足に甘んじるわけではありません。それぞれの採用時期が異なる以上、必ず先輩と後輩という関係が構築されます。そこで、トレーナーとしての役割を先輩が担い、一対一で後輩に教育および指導することで、専属の教育者不足をカバーします。

 もちろん、トレーナーの質を均一化することも重要です。当たり外れがあったり、人によって言うことが違ったりしては、成長が遅くなり、評価に結び付かない不幸な後輩が生まれてしまうためです。意図的に後輩を不幸にした場合や、虚偽で先輩を陥れた場合は、もちろん処刑です。

 そうは言っても、どうしても相性が悪い場合があるかもしれません。その時は、お互いが悪評価にならない内に、柔軟にトレーナー役を入れ替えます。関係を築く前に、希望を共有して上司と相談することが望ましいでしょう。

 この際に重要なのは、自分が先輩である意味を自覚することです。

 弟が兄の背中を見て育つように、

 兄が弟に自分の経験を話すように、

 祖先が歴史を作り、現代に財産を託したように、

 先輩が後輩に教育する時には、その気持ちを常に忘れずにいることこそが、最も価値がある教育プログラムと言えるでしょう。

 以上、これらをシステム化することで、教育者不足の問題を解決します。人件費問題はこのあとに」

 シンシアが戻ると、いよいよ、アドとコリンゼの『弟』の出番だ。

「よろしくお願いします!」

「いつでもいい。全力を出してみろ」

 元気が良い挨拶の『弟』に対して、これまでの受験者に対する態度を変えないコリンゼ。ただ、構えが若干違うような気がした。足に力を入れやすくなっているような感じだ。

「行きます!」

 その声と同時に『弟』が前に出た。速い! これまでの受験者達とは比べ物にならないほどに。

「速っ! 明らかにレベルが違うじゃん! 攻撃のコンビネーションも多彩だし、縦横無尽に動いて隙も伺ってる。自分の隙は見せてないから、相手に攻撃の時間は作らせないって感じかな。攻撃は最大の防御スタイルね」

 ゆうも彼の動きに驚いていたが、見学者達も驚いていた。つまり、完全な素人にも分かるほどの違いがあったのだ。

「しかし、これを見てもなお、コリンゼのすごさが際立つ。あの怒涛の攻撃を全て受け切っている。お互い手の内を知っていて攻撃を予測できているからなのかとも思ったが、しっかり目で追ってるんだ。俺達からは想像もできない動体視力だろう。

 そう考えると、俺達からは『弟』に隙がないように見えるが、実はコリンゼやシンシア、ヨルンにだけ見える隙があるんじゃないか?」

「そんなことあるわけ……あったー! 『弟くん』が右肩の防具に突きを入れられて、体勢を崩されたー! 追撃されれば死だが、コリンゼはもちろん追わない!」

 いつの間にか解説から実況にシフトしているゆう。ここは一度、コリンゼの指導が入りそうだ。

「体重移動が甘い! たとえ食らっても隙を見せない動きをしろ!」

「はい!」

 コリンゼは、俺達からすればとんでもない動きをしている『弟』に対しても、厳しく的確なアドバイスをしていた。再度、同じような展開でそれが修正されていることを確認してから、今度はコリンゼが一方的に攻撃に回った。『弟』の防御と回避のレベルを見るためだろう。

「あーっと! コリンゼの攻撃速度が抑えられていないか。どうやら『弟くん』は防御があまり得意ではないらしい! それでもコリンゼの一瞬の隙を見つけて攻撃を仕掛ける『弟くん』。

 これは……わざと彼女が隙を作ってあげて、攻撃できるかを見ているようだ! これでもまだまだ実力差があるというのかー! いかがですか、解説のシューイチさん」

「これは、レーティングを改めなければいけませんねぇ。『コリンゼ選手』のレートは二千と言いましたが、『弟選手』が千九百ぐらいなので、コリンゼ選手は二千九百、『シンシア選手』が三千九百となります。

 シンシア選手は『武神』なのですが、レート的には神を超えちゃってます。したがって、現在のレーティングは意味を成さないものとなってしまいました」

「レーティングの『破壊神』がここに降臨したー! おーっと、もう弟選手はコリンゼ選手の素早い裏取りに付いて行けていない。ここで試合終了ー! 弟選手は撃沈するも、爽やかな表情をしています。『やっぱ、つえぇー』と言わんばかりの表情です! 二人に大きな拍手を送ってあげましょう」

 もちろん、見学者の誰も拍手をしなかった。本当は拍手をしてあげたいが、前の三人には拍手をしなかったからな。余計に彼らの自信が砕かれるだろう。

 そして、最後のシンシアの説明が始まった。

「さて、最後の人件費の問題ですが、こればかりは、ある程度割り切る必要があります。ただ、抑えることはできます。

 予定合格者数を決めた場合、そこから溢れた者でも将来有望ならば、補欠合格者に設定し、給与に違いを設けます。また、その区別が差別を生じさせないように意識付けも行います。

 その一環でもありますが、花が咲いた暁には、それまでの差額合計分を支払った上で、通常の給与に戻します。つまり、結果的には最初から通常の合格者と変わらない待遇だったということです。

 一方、一向に改善点が修正されず、長所も伸びず、見込み違いだった場合は、残念ながら現在の職を辞めてもらいます。その場合は、国の責任で、その者が本来輝くべき場所と時間を奪ってしまったことになるので、人生の代価としての違約金を、給与差額合計分の半分以下で支払います。

 だからと言って、それに怯えて合格者数を減らしていては本末転倒なので、どんな合格者でも、必ず一定水準まで引き上げるという強い信念を持って教育に望みます。これを実現するには、長期的な評価システムを導入する必要があります。一年必要なことを三ヶ月でやってダメだったから低評価とするのでは、意味がありませんし、本人のやる気にも影響します。

 具体的にどのようなシステムにするかは、今後、騎士団からご提案いたします。どうぞご期待ください。

 我が国はさらに素晴らしい国家に成長するでしょう。皆様は、丁度その分岐点を目の当たりにしています。正直、私もワクワクしています。皆様は、その『特等席』で、将来、我が国に多大な貢献をして、栄光をもたらしてくれる若人達を、そして、我が国の輝かしい未来予想図をご覧になっているのです。

 言い換えれば、あの者達は、私であり、皆様そのものなのです。大袈裟に聞こえますか? 

 では、思い出してみてください。騎士団とは何でしょう? 陛下、国家に忠誠を誓った者達であり、皆様の剣であり、盾であり、手足です。それが素晴らしい素材に生まれ変わり、メキメキと成長していくのですから、喜ばざるを得ません。

 改めて思いませんか? 自分が最も近くで自分の手足を見られるのです。まさに、『特等席』でしょう?

 ……間もなくですね。それでは、本日の臨時騎士選抜試験、最後となる実技試験の手合わせをご覧ください。今回に限っては、即座に合格発表がございますので、よろしければそれまでお時間をいただき、合格者を労っていただきたく存じます。

 ここだけの話、現時点でまだ合否は確定しておりませんが、誰一人として悲しい表情を見ることはないと私は確信しています。陛下、大変恐縮ですが、よろしければ発表後の最後に締めの一言をお願いできないでしょうか」

「よかろう」

 シンシアが王へ感謝を示したあと、元の場所に戻ると、最後の手合わせが始まった。

 戦闘スタイルは、ヒットアンドアウェイで、やはり実力は前半三人と一線を画している。この『弟』の戦い方を見ていると、コリンゼの攻撃を誘っているように見える。さっきの『弟』とは逆に、防御とカウンターが得意ということだろうか。

「おおー、攻めに回ったコリンゼの剣撃を難なく受け切っている感じだね。それなら、『弟くん達』で組めば、筆記試験三問目の敵みたいな戦い方になるわけか。もしかして、そこから発想して筆記試験の問題と実技試験での一つの答え合わせにしたのかな?」

「あり得るな。小さい頃から三人はチャンバラごっこをしていて、一対二で戦っていたのかもしれない。コリンゼは騎士団に入ってから強くなったとシンシアは言っていたが、実は最初から強くて、さらに伸びた。

 では、なぜそんなに強かったのかと言うと、やはり小さい頃から一番親しいアドと日常的に手合わせをしていた可能性があるな。今のコリンゼとアドのどちらが強いのかは分からないが」

 俺達が話していると、ここぞとばかりの『弟』のカウンターを防いだコリンゼがよろめいた。そこにすかさず追撃をする『弟』。しかし、それはコリンゼのダブルフェイクで、『弟』の隙が大きくなったところを、盾側の左脇腹部分の鎧に攻撃を入れて、逆に彼をよろめかせた。

「油断するな! スタイルが崩れたぞ!」

「はい!」

 このコリンゼのアドバイスも面白く、相手やその状況によって、スタイルに囚われるなと言ったり、今のようにスタイルを崩すなと言ったりする。おそらく、激しい隙の移り変わりをしっかり見抜いて、自分の隙は決して作らずに、相手の隙を突けということなのだろう。

 受験者達もそれが分かっているので、『さっきと言ってることが違うじゃないか』とはならない。実際、受験者達がアドバイスを受けた時、戸惑っていた様子は一切なかった。

「そろそろ終わりそう」

 ゆうが予期した直後、実技試験最後の受験者の手合わせが終了した。コリンゼが評価を終えると、受験者達を呼び、一緒に見学者スペースに近づいてきた。

 すると、シンシアがコリンゼに近寄り、耳打ちした。

「陛下から締めのご挨拶をいただくことになった。私の分はコリンゼが好きなように話してくれ」

「承知しました」

 コリンゼ達が見学者スペースの王の前まで着くと、コリンゼとシンシアは俺達から見て右横に逸れ、受験者達は王の前に跪いた。そして、コリンゼが姿勢を正した。

「それでは、臨時騎士選抜試験、合格発表を行う! 騎士団長の代理で、私から挨拶を言う。

 今、君達がどのような気持ちで私の言葉を聞いているか分からないが、その精神状態によっては、聞いているつもりでも実は聞いていない、理解していないことがあるだろう。私もそのような時があった。だからこそ、これからの言葉を一言一言噛み締めて理解してほしい。

 今回の試験で、自信を失った者もいるだろう。騎士なんて目指すんじゃなかったと思った者もいるかもしれない。陛下には畏れ多くも、それは仕方のないことだと私は思う。なぜなら、私達は人間なのだから。

 ただ、私は一人の力だけでここに立っているわけではない。色々な方々の支えがあってここにいる。君達もそうだ。自分の力だけでここにいるのではない。君達が前回の選抜試験を受験できなかったことは私達も遺憾だが、紛れもなく私達の責任だ。大変申し訳なかった。

 しかし、今回受験できたことは、手前味噌ではあるが、幸運だったと思う。陛下の前で自分の実力を示せたのだ。このような機会は私でさえ今までない。そう考えることこそが大事なのだ。

 今の私が君達ならこう考える。『今まで独学でここまでやって来たんだから、こんなにすごい人達と訓練を共にしたら、俺ももっと強くなるんじゃないか?』とな。私はこの実技試験が始まる前、君達に、『陛下の御前だからこそ、緊張する必要はない』と言った。理由は話した通りだが、君達は立派に私と戦った。

 分からないか? たった十分やそこらで自分がとてつもなく成長したことに。私の目からは明らかだった。言われなければ気付かないこともあるだろう。言っても気付ききれないことがあるかもしれない。ならば、これからは我々騎士団が気付かせてあげよう。君達は一人ではないのだから!

 ……ふふっ、やはり優秀な者しかいないな。どうやら全員気付いたようだ。

 おめでとう、全員合格だ! 叙任式まではまだ正式な騎士ではないが、これだけは言わせてほしい。

 ようこそ! ジャスティ国騎士団へ!」

 コリンゼの感動的な合格発表のすぐあとに、合格者達を除く、王含めて全員が拍手をして、彼らを称えた。

『はっ! ありがたき幸せ!』

 合格者達は声を揃えて、感謝の言葉を言った。中には、涙が溢れ、顔を上げられない合格者もいた。一番と三番だ。二番は涙を我慢しているのか震えている。コリンゼの『弟達』も安堵の表情をしていた。

「それでは、陛下。締めのお言葉をよろしくお願いします」

 拍手が止み、間もなく余韻が薄れた頃、コリンゼが王に締めの挨拶を頼んだ。

「皆、ご苦労だった。実に素晴らしい選抜試験だったと思う。私も時間を忘れ、受験者達、試験官達、総責任者のコリンゼの勇ましい姿を見て、我が国の未来への期待に胸を踊らせていた。

 今回のコンセプトの共有やシステムの早期導入を目指し、早速、次回の定例会で承認決議を行う。それまでに責任者は、シンシアが挙げた以外の疑問点があれば、パルミス公爵に提出せよ。

 さて、コリンゼ、シンシア、締めの前に私の我儘を聞いてはくれないだろうか。二人で手合わせをしてみてほしい。誰もが気になっていたことでもあるだろう。

 私はこれまで何度もシンシアの模擬戦を見てきたが、他国の騎士団長でさえも、コリンゼほどの手練れはいなかった。しかし、ようやく分かった。これまでの戦いでさえ、シンシアは相当な手加減をしていたのだ。もちろん、相手の国を立てるために、手加減していると本人から聞いたことはある。そうでないと、相手の正確な戦力分析ができないという理由もある。だが、私の想像以上の手加減だったということだ。

 コリンゼの台詞ではないが、『一騎当千』『幻影』という言葉を真に理解できていなかったのだ。ならば、至高の戦いを見てみたいと思うのは自然のことだろう。その結果がどうであれ、お互いの評価が下がることは決してないと約束する」

 王は興奮気味に語り、コリンゼとシンシア、二人の手合わせを要望した。

「陛下のご希望とあらば。コリンゼ、木製武器ではあるが、私を殺す気でかかってこい。ただし、勝負を長引かせる気はない」

「はっ!」

「パルミス公爵、私達が位置に着き、私が頷いたら、『それでは始め』と大きな声でおっしゃっていただけますか」

「分かった」

 シンシアがパルミス公爵に戦闘開始の合図を頼むと、固唾を飲んでみんなが見守る中、二人は実技試験をしていた位置まで行き、お互いに助走をつけられるよう、少し距離を取った。

 そして、シンシアがパルミス公爵の方を向いて頷いた。

「それでは始め!」

 掛け声と共に、一瞬で距離を詰める二人。とんでもない速さだ。木刀が三度重なった音が聞こえ、気付くと、二人の位置が入れ替わっていて、シンシアがコリンゼの喉元に木刀を突き付けていた。

 時間にして、三秒未満。本当にあっという間だった。勝負はあったが、それを見ていた全員が、何が起こったか全く分からずに唖然としていた。

 すると、クリスが少し前に出て、見学者達の方を向いた。

「あの……今の見えた方いますか? 私には全く見えませんでした。合格者の方々もどうですか?」

 俺達は顔を出さなかったが、全員が口をポカーンとさせて首を横に振ったのが分かった。

「シンシアさん、コリンゼさん、こちらは全く追いきれなかったので、ここでゆっくり動きを再現していただけませんか?」

 勝負を終えて戻ってきたシンシア達に、クリスが再現を要求した。全員そう思っているだろう。俺も要求したい。

「えーっと、コリンゼの左薙ぎを低姿勢でこう、木刀を上にして受けて、そのまま袈裟切りをしたら、上半身を逸らされて、位置が入れ替わる時に、コリンゼが右回転した勢いで同じく左薙ぎしてきたのを、上に弾いたら、円を描くようにして袈裟切りをしてきたので、少し引きながら右側に弾いて、その流れで切っ先を喉に突き付けた、かな」

 二人の再現を見ても、そのようなことをしていたとは分からず、結局、誰もピンと来ていなかった。

 すると、コリンゼが口を開いた。

「えー、衝撃的な事実をお話ししますと、団長はこれでも手加減をしています。本気の団長であれば、剣が合わさることはまずありません。私は初撃で切り捨てられています。

 ですから、陛下、至高の戦いをご覧いただけずに申し訳ありませんが、それを実現できる団長の相手はこの世におりません。ヨルンさんも団長に匹敵する資質をお持ちと聞いていますが、それはそれでまた別の戦いになってしまいます。

 しかし、私も精進して参りますし、私達の手合わせをご覧いただいて、ますますご安心いただけたかと存じます。どうか、今後の騎士団にご期待ください」

「うむ、コリンゼの言う通りだ。二人ともご苦労。打ち上げは予算を考えず、盛大にやるとよい。私も参加したいが、王が行くと萎縮するだろう。王家は王家で、此度の我が国の転換点を祝して、盛り上がるとしよう。これにて、臨時騎士選抜試験を終了とする!」

「はっ!」

 王以外の全員が返事をすると、城内に戻る王の後ろを、パルミス公爵を除く幹部達がぞろぞろと付いて行った。

「コリンゼ、あとは頼む。打ち上げには私も参加するが、他の三人も参加するかもしれない」

「承知しました。お待ちしています。合格者達は各組織に戻り、同僚に報告した上で、打ち上げに参加できる者は、十九時前に食堂奥に来るように!」

 コリンゼは、合格者達へ指示したあとに、後片付けの分担を他の団員達に指示し、その場を離れていった。

 すると、彼女と入れ替わるように、パルミス公爵がシンシアに近づいてきた。

「ご苦労。打ち上げの請求書は私に回してくれ。それと……、四番と五番が例の仲良くなれる二人だな? そして、コリンゼに任せるということでいいな?」

 パルミス公爵は声を小さくして、騎士団長の後任がコリンゼだということをシンシアに確認した。

「はい。この選抜試験が成功に終わるのを見届けた上で、彼女に伝える予定です。打ち上げが終わり、報告書を書き上げるまでが試験の総責任者ということで」

「素晴らしい! それでは、シンシアの任命式で同時に発表するとしよう。これなら、残りの二人も期待できるな。明後日が楽しみだ」

 パルミス公爵はとても嬉しそうに城内に戻っていった。残りの二人とは、ウィルズ達のことだ。

「私達も部屋に戻ろうか。予定より早く終わったな。これも、コリンゼが受験者達の実力をスムーズに引き出せたからだろう」

「私は世界にあまり詳しくないのですが、ヨルンくんを除くと、コリンゼさんがシンシアさんに次いで、世界二位の実力ということですか?」

 クリスがシンシアに質問した。

「可能性は高いが、ハッキリとはしていないな。他にも一騎当千と呼ばれている騎士が何名かいるのだが、少なくともその内の二人はコリンゼには遠く及ばなかった。残りは戦ったことがないから分からない。

 その国の威信のためにそう言っているだけかもしれない。仮にその実力があっても、部下の能力を引き出すのはまた別の話だしな。そういう意味では、私以上にコリンゼが世界最高の騎士と言っても過言ではない。彼女が言った通り、これからもっともっと我が団は良くなるはずだ」

 シンシアの語りからは、嬉しさだけでなく、他の感情も溢れ出していたような気がした。

「それなら、シンシアさんがそのように導いたということですね」

「……。ありがとう、クリス。『そう考えることこそが大事なのだ』か。本当にそうだな……。

 シュウ様、ありがとうございます。あなたのお考えがクリスを救うだけでなく、こうして伝搬し、皆を救っていくのだと実感しております。私も精進して参ります。もう少しだけ時間をいただきたく存じます」

 クリスの気遣いが、シンシアの中で何か腑に落ちたようだ。俺の考え方が、クリス、コリンゼ、シンシアに巡っていったのはその通りだが、受け取る側がそれを理解し、受け入れないと成り立たないからな。

 やはり、俺達とみんなの相性は完璧だと言える。シンシアは、いつか俺達に全てを話してくれるだろう。焦ることはない。俺も今度こそ焦らないようにしよう。大切な人の暗い顔は見たくないから。




「いかがですか? 実験の方は」

 二人が部屋に戻ると、気になっていたのか、クリスがユキちゃんに研究と実験の進捗を聞いた。

「あ、早かったね。うん、少なくとも、それぞれの魔法は、早ければ明日中には構築までできると思うけど、明日はみんなと城下町に行って色々やるから、やっぱり明後日になるかな。

 あとね、今回の実験とは別に、ヨルンくんの『反攻』の原理について、分かったことがあるんだよね」

「え? すごいじゃないですか。ということは、やはり魔力粒子の応用ですか」

「うん、でも流石にその力がどこから来ているのかは分からないけどね。

 『反攻』は、体や服の周囲に他の魔法使いからは干渉できない魔力粒子を纏うスキルっていうことが分かった。その魔力粒子は、魔法の発動には使われない。その一つ一つが単体で動作する条件付きの粒子。

 例えば、水中で呼吸できる『謎の空気』もこれが正体だね。シュウちゃんは、その場合は周囲の魔力粒子が水と自分の間の空間を分裂しながら作り出し、同時に満たした上で、そこから常時、水と接している部分で酸素を取り出し、内側のヨルンくんに運んでるんじゃないかって。シュウちゃんが取得できるスキルに『単純命令』とか『複雑命令』っていうのがあるんだけど、あれを魔力粒子に適用した感じかな。

 なんでそれが分かったかって言うと、クリスさんが透過空間認識魔法を使った時の魔力停止空間の境界で、粒子が停止していた現象があったでしょ? あれと同じ現象がヨルンくんの『反攻』で起きてたんだよね。正確には、『反攻』の方はそのあとすぐに魔力粒子を消滅させちゃうんだけど、ヨルンくんが自分の魔力粒子を自分に当てて、それが消える前に私の魔力感知魔法の魔力粒子を同じ場所に当てると、ヨルンくんの魔力粒子がそこで停止してることが分かった。

 これを試したのは、魔力停止空間内で同時に猫ちゃんを回復できないか、つまり複数の役割を魔力粒子に持たせられないかって考えて、もしかして、それが『反攻』の原理なんじゃないかって思い付いて、挙動を確認したっていうのが理由。

 ただ、現時点では、それを作るのは時間がかかりそうだから、後回しにしてる。それができない場合、お姉ちゃんがかけた魔力停止魔法を解除すると同時に、魔力修復をする場所以外に魔力停止魔法をかけ直して、さらにそこに魔力修復魔法をすぐにかける必要があって、それを切断部分全てで行ってから、全体の魔力修復を行わないといけない。そうじゃないと、猫ちゃんの魔力がどんどん消滅していって原型を保てなくなっちゃうから。

 だから、それぞれの魔法は作れても、じゃあどうしようって正直思ってる」

 ユキちゃんが、困ったような表情をしていた。俺が彼女に助言する前に、シンシアが動いてくれた。

「今日、コリンゼが受験者達に向けて素晴らしいことを言っていた。『一人の力だけでここに立っているわけではない』とな。私は、シキがなぜユキに託したのか分かった気がするんだ。

 ユキがイリスの頭脳に全てを任せずに、自分の力で考えたのはとても大事なことだ。実際、シュウ様のお力添えもあり、その領域にユキは辿り着いていると思う。もちろん、そのことも一人の力だけではないが、そのイリスと同じ天才のシキがユキに託したということは、最難関魔法であると同時に、一人の力だけでは成し遂げられないからではないだろうか。

 話を聞く限り、解除魔法、停止魔法、修復魔法を使える魔法使いが三人いれば、実現できると思った。ここに三人いるじゃないか。ユキ、クリス、ヨルン。この三人がそれらの魔法を習得すれば、あの猫を救えるのではないか? シキはきっとこの瞬間を待っていたんだ。

 私が魔法を使えなくて役に立てないのが悔しいが……」

「シンシアさん……、ありがとう。シンシアさんもだよ。みんなの力で私がここにいて、みんながここにいるんだね。本当にその通りだ。

 よーし、遠慮はしないよ! みんなで頑張ろう!」

『おー!』

 みんなの掛け声が部屋に響いた。騎士団に勝るとも劣らない、良いチームだ。

 その後も研究は進められたが、打ち上げの時間が迫ってきたので、今日はそこで切り上げて、全員で食堂に向かった。

 食堂には、遅い夕食を食べに来ていた城内の人達も大勢いたが、その奥には、『臨時騎士選抜試験打ち上げパーティーご一同様』のスペースが設けられ、計五十人以上の団員達と合格者達が集まっていた。

 シンシアの話と俺の『万象事典』での確認によると、城内と城下町の騎士は約三百人いるので、その約六分の一が選抜試験に関わっていたことになる。地方配属騎士は約二百人なので、全騎士では約十分の一だ。精鋭なら、全騎士数はもっと少ないイメージもあったが、やはり『団』と呼ぶからには、最低でも数百人以上の規模になるよな。

 近代では、それは『連隊』規模で、最低でも『旅団』と呼ぶのは二千人以上となるが、そんなに騎士がいても運用に困るだろうし、この際、単位名称はあまり気にすることはないか。

 でも、同人誌でいつも気になってたんだよな。『騎士団』って一体何人いるんだよって。小隊規模でも『騎士団』を名乗ってるのもあった。『いや、それ騎士隊じゃね?』とツッコみたくはなるが、それは流石に許せる。『吹奏楽団』のように、軍隊でなければ全く気にならないんだがなぁ。

 とりあえず、それは置いておくとして……。騎士団長シンシアの挨拶で打ち上げが始まり、団員達の話を聞いていると、試験準備係は立候補制だったらしい。しかし、全員が立候補したため、くじ引きで人数を絞ったとのことだった。『打ち上げに参加したいだけだろ』と冗談を言われた騎士もいたみたいだ。

 実際、五十人も使って何を準備するのかと思うのが普通だが、今回は新しい試験の考え方を主催側で実感して慣れてもらい、受験者が多くなった時のために滞りなく準備できるようにする目的がほとんどで、残りの目的は、短期間でその準備や調整が必要で、最も働ける総責任者が不在の時間もあったため、その保険ということだったらしい。

 まあ、印刷機がない分、筆記試験の問題や当日の流れを人数分書き写す作業もあるから、全く働かなかった人はいないだろう。総責任者代理の既婚男性先輩騎士も問題なく役割を果たしていたそうだ。

 今回のことで、改めてコリンゼの手腕が団員から評価されたことだろう。まさに、本日の主役として、打ち上げの間は常に団員達の話の中心になっていた。合格者達もその輪に加わり、色々な話を聞いていた。彼らが主役となるのは、現組織の合格祝賀会か、次の騎士団歓迎会だろう。

 打ち上げは食堂が閉まる午後九時まで盛大に続き、解散となった。その後、同じく王家の盛大な晩餐を終えた姫の部屋に行き、盛り上がったところで、その日を終えた。

 今後の予定を整理しておくと、明日は、イリスちゃんと魔法生物救出方法の相談、リオちゃんに紹介してもらった店で昼食、アドとギルドで茶番の打ち合わせ、茶番に使用する衣装の購入。明後日は、ウィルズ達とパルミス公爵との面会。三日後は、午前中にユキちゃんの叙爵式とシンシアの新役職任命式。四日後は、茶番本番。五日後は、朱のクリスタルへの接触。それ以降は、シキちゃんの捜索へ出発、となるが、魔法生物の救出をいつ行うかは、ユキちゃんの魔法創造次第だ。予定通り明後日なら、三日後の午後に孤児院に向かうのが良いか。いずれにしても、まだまだイベントは残っているようだ。

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