第10話
統兵転覆?
小児啼き止む?
——まさか、四兄上は合肥の戦で、孫権が敗れると、それも大敗すると断言しているのか?
関索は思わず眉をひそめた。
「五弟、何をぼんやりしているんだ?早く読め…」関平は慌てて彼を促した。
「こ、これは…」関索は口を開いたが、どもりながら「こ」の一言しか発することができなかった…
皆、彼の心中にある大きな苦悩に気づいていた。
まさか関麟の答えがあまりにも「ふざけている」のだろうか?
もちろん、ここ最近の関麟の言動からして…もし本当に「ふざけている」とすれば、何も不思議ではない。
これはもはや通常運転なのだ。
関索の傍らに立っていた関興は、せっかちな性格ですぐさま関麟の机まで歩み寄り、関索の手から竹簡をひったくると、大声で読み上げた。
——「虎嘯逍遥として千里を震わし、江東の碧眼なお夢に驚かん!子を産むならまさに孫仲謀の如くあれ、合肥十万の首を献げん!」
えーと…合肥十万の首を献げん?
この二句が出た瞬間。
一同騒然!
この詩が下手だとか、韻を踏んでいないとかいうわけではない。
実際…四男関麟の予想があまりにも大胆で、あまりにも突拍子もないのだ。
関興も一瞬たじろいだが、そのまま読み進めた。
「少年志大きく雄心狂おし、十万の大軍曹の疆を圧す。
張遼神勇無敵にして隠れ、落花流水の如く呉軍敗走す。
古来より兵家測りがたくして亡び、統帥三軍智勇を以て匡(ただ)す。
政治鉄腕を以て兵将を馭(ぎょ)し、兜鍪を捨て甲を脱ぎ狼狽惶(こう)す!」
「……」
ここまで聞くと、関羽の顔にも驚きの色が浮かんだ。特に「少年志大きく雄心狂おし、十万の大軍曹の疆を圧す」「政治鉄腕を以て兵将を馭し、兜鍪を捨て甲を脱ぎ狼狽惶す」…
関羽は目を凝らし、心の中で「雲旗」の目には、孫仲謀はそれほどまでに頼りないのかと呟いた。
関羽はもともと傲慢で、江東の鼠輩を眼中に入れていなかった。
しかし、ふと、関麟の方が自分よりも傲慢なのではないかという気がした。関麟は「碧眼児」を眼中に入れないばかりか、行間には嘲りの意さえ込められている。
まるで、この「碧眼児」の存在は、生まれながらにして嘲笑され、揶揄されるためにあるかのようだ!
なんと大胆な物言いだろうか!
そのとき、関興は最後の二句を読み上げた。
「八百の虎賁江に乗り込み、十万の呉軍胆を喪して帰る。
孫十万統兵転覆し、張八百小児啼き止む!」
十万と八百!
統兵転覆!小児啼き止む!
これは、張遼の武勇と孫権の頼りなさを再び強調しているのだろうか?
ここまで聞くと、正堂は静まり返り、皆、目を丸くして騒然となった…
関羽でさえも、珍しく呆然としていた。
思わず口の中で呟く。「孫十万統兵転覆し、張八百小児…小児啼き止む?」
彼は激しく首を振り、丹鳳眼をカッと見開いた。
ようやく、なぜ関索が読み上げられなかったのか、なぜ関麟があらかじめ答案を出したのかがわかった!
この子は答案を出さずに、ここで家法を待つつもりだったのだろうか?
「バーン」という音とともに、関羽は机を拳で叩いた。
「たわけたことを!」
もちろん、関羽は認めざるを得なかった。しかし、「詩歌・辞賦」の観点から見ると、中間の数句は非常によくできており、韻律も整っている。
例えば「子を産むならまさに孫仲謀の如くあれ、合肥十万の首を献げん」や「八百の虎賁江に乗り込み、十万の呉軍胆を喪して帰る」などは、口に出して読むと実に心地よい…
それどころか、一度聞いたら忘れられないほど印象的だ。
しかし、これらはすべて…
「どう考えても間違っている」という大前提の上に成り立っている!
それは、孫権が大敗し、張遼が大勝利を収めるということだ!
はぁ…
関羽は、息子関麟のことを「なんておめでたいやつだ!」と、ふと感じた。
孫権がどんなに無能であろうとも、呂蒙、陳武、甘寧、凌統、潘璋、宋謙、徐盛、丁奉、蒋欽、賀斉…これだけの江東の勇将たちまでもが無能だと言えるのだろうか?
仮に彼らが全員無能だったとしても、十万の兵で七千と戦う、圧倒的な兵力差の中、しかも攻撃するのは孤立無援の孤城である合肥であり、さらに tướng lĩnh同士の相性もある。
関麟が昨日言っていたように——こんな戦い、孫権が指揮を執るまでもなく、犬に指揮させても勝てる…
負ける?
関羽には、どうすればこの戦いに負けるのか、全く理解できなかった。
「呵呵…」
関羽は心の中で冷笑し、こう呟いた。「これが雲旗の言う『武を学んでも漢王朝を救えない』ということか?どうやら、彼の文才もたいしたことはないようだな?」
関羽は竹簡を指さし、「でたらめなことを書きおって。安国(関興のあざな)…四弟のこの詩を燃やしてしまえ!外に漏れて恥をかくようなことになったらたまらん!」
「お待ちください!」
すると、廖九公が口を開いた。
彼は関羽の怒りが増しているのを見て、すぐに両手をついて言った。「将軍、お待ちください…わたくしめが出題したこの問題は、合肥の戦いの勝敗や今後の展開を予測するというものです。今はまだ合肥の戦いは始まっておらず、どちらが勝つのか負けるのかは、我々が勝手に推測しているに過ぎません。今ここで、彼の答えが正しいか間違っているかを判断できるはずがありません」
そう言ってから、廖九公は少し間を置き、再び口を開いた。
「かつて将軍が劉皇叔と共に赤壁で曹操軍と戦った時のことを思い出してください。曹操軍は八十万と号していましたが、孫劉連合軍はわずか五万に過ぎませんでした。まさに寡兵で多勢を相手に戦ったのです。もし赤壁の戦いの前に戦況を予測したとしたら、孫劉連合軍の大勝利を予測できた者がどれだけいただろうか?」
明らかに…廖九公の言葉は一定の効果をもたらした。
関羽は上げた手をゆっくりと下ろした。
廖九公はかつて荊州時代に諸葛亮の師の一人であり、博学多才であったため、関羽の心の中でも一定の重みがあったのだ。
そこで、関羽はうなずき、「廖公のおっしゃる通りです。しかし、合肥の状況を赤壁と比べることなどできるはずがありません。まあいいでしょう。あと数日待ちましょう。合肥の状況が明らかになれば、雲旗のこの答えがどれほど愚かなものなのかがわかるでしょう」
こうして、関麟の「子を産むならまさに孫仲謀の如くあれ、合肥十万の首を献げん」という答えによって巻き起こった騒動は、ひとまず収束した。
しかし、「文才」の試練はまだ終わっていない…
子供たちは、もう一つの問題に答えなければならないのだ。
——江東の使者が「湘水を境界とする」という盟約を盾に、関羽に対して荊州の江夏、長沙、桂陽の三郡の返還を求めてきた?荊州はどう対応すべきか?
実はこの問題は合肥の戦いと同じように、関羽の心中にはすでに答えがあった。彼の性格からして、この三郡を簡単に手放すはずがない。
そして子供たちのうち、関平、関興、関銀屏も皆、同じような答えをしていた。
荊州は父と伯父が命がけで勝ち取った土地であり、今まさに伯父は巴蜀に入ったばかりで、足元が固まっていない。荊州は「根」なのだ!
どうして根っこを手放せるだろうか?
関羽は小さくうなずき、彼らの答えに賛同の意を示した。
一方、関索は別の提案をした。「父上、私は…まさに伯父上と諸葛軍師が巴蜀でまだ足場を固められておらず、曹操軍の主力が漢中にいる今だからこそ…湘水を境界とするという約束は果たすべきだと思います!」
関索はさらに詳しく説明しようとしたが、関羽は手を挙げて、それ以上言うなと制止した。
関羽は、今の巴蜀の状況が微妙であることを知らないわけではない。
曹操が漢中を占拠している以上、いつ南下してくるかわからない。
よりによって兄劉備は、あまり褒められたやり方ではないにせよ、ようやく巴蜀を手に入れたばかりだ。
短期間では、民心も軍心も安定しない。
このような状況下では、荊州は根であり、失うわけにはいかない。こんな時…たとえ三郡を諦めることになっても、江東と直接対立することはできない!
もし西側の戦場で曹操の圧力を受け、東側の戦場で孫権の攻撃を受けるようなことになれば、まさに「危急存亡の秋」を迎えることになる!
このことを、関羽が理解していないはずがない。
しかし、彼の性格、彼のプライドが、彼に三郡の城を江東の鼠どもに簡単に明け渡させることを許さないのだ。
心の底から、関羽は曹操を軽蔑し、さらに江東を軽蔑していた。
そう思った時、ふと…関羽は、関麟がこの問題にどう答えるのかを見てみたいと思った。
何しろ、前の問題では、彼の答えは驚くべきものだった。
今回はどうだろうか?
思わず、関羽は関麟の答えに対して、強い興味を抱いた。
もちろん、前回の反省から、今回は関羽は誰にも彼の答えを読ませなかった。「孫十万」「張八百」「統兵転覆」「小児啼き止む」などという言葉が出てきて、またしても周囲を驚かせることになったらたまらない…
関羽は、まず自分が読んで内容を確認することにした。
彼は周倉に目配せをした。周倉は言いたいことがわかり、急いで関麟の机の上にあったもう一つの竹簡を取りに行き、関羽に手渡した。
関羽は落ち着き払って、ゆっくりと竹簡を広げた。
しかし、ちらりと見ただけで、彼の顔色は真っ青になった。
胸の中の怒りが一気に燃え上がり、炎が「ぐんぐん」と燃え上がっていく…心臓まで燃え移りそうだ!
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