戦闘短歌部

新棚のい/HCCMONO

八雲立つ(立ってない)

 その男は目があった瞬間、廊下中に響き渡る声で僕の名前を叫んだ。

「君、八雲龍也くんだよね。文芸ライティングコースの新入生。というか三年前の短歌探究ジュニア賞の中学生部門最優秀賞の」

 恐らく先輩だろう。

「あ、ええ、まぁ……」

 曖昧に返事を漏らす。口を動かすと同時にその男はキャンパス中に聞こえそうな声を張り上げた。

「当たりだ!」

 いつの間にか僕は屈強な男六人に囲まれている。マズい。逃げられない。

「部室へ連行しろ! 丁重にな」

 屈強な男たちは瞬時に僕を担ぎ上げた。抵抗しようにも分が悪い。悪過ぎる。

 これが噂に聞いていたサークル勧誘か。僕の受賞歴を知っているからには短歌部、もしくは文芸部か。

 いや、文芸系の部員が屈強な訳がない。高校の競技かるた部だってここまでゴツくははなかった。

 だとしたら文芸系ではなくヤバい部類の……新興宗教とか? あるいは左翼とか?

 確かに文芸系の人ってだいたい左寄りだとは知ってる。知ってるけど、露骨な左翼はテロサーの姫の老婆くらいしか知らない。まさかこんな田んぼだらけの平べったい田舎の芸大に潜伏していたのか。

 なんて考えていたら暗い部屋の中に放り投げられた。目を凝らして辺りを伺う。筆書きの文字が見える。

「言葉は暴力」

「脳は虐殺器官」

「殺す気で詠め」

 うわ、明らかにヤバい。犯罪者のアジトだ。逃げなきゃ。でなきゃ殺される。でも、どうやって。

 デカい声の男はまたデカい声で言った。

「ようこそ。戦闘短歌部へ」

 男は恭しく会釈をして笑顔を作って見せる。ただし妙にギラついた目を細めた恐ろしい笑顔で。

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