第31話 RPGあるある

 北大谷に帰って、穢れの6キロに入った。

 一本道でないRPGでやれる、中ボスほったらかして上位エリアでレベリングとアイテム漁りである。

 今の処時間制限がないんだから。

 心配性の保護者約二名が付いて来る。

 もうそんな歳ではないのに。


 モンスターは、小トカゲ、中トカゲ、汚泥鬼までは一緒。

 人型、人型、爬虫類、爬虫類、人型なので、人型だろうと予測されたが、ドローンのカメラに映ったのは、3メートルのネアンデルタール人だった。妙に逞しい。

 頭髪はあるが体毛はなく、肌は蜜蝋色。人間ぽくない。

 モンスターなので、雌と言うか女と言うか。

 勿論、モンスター用量産品衣料はない。


「ちょっと殺し辛いのが出たな」

「いや、やります。これ越えたら爬虫類二連でしょう」


 まず穢れを払ってみる。

 腹ばいにはならなかったが、四つん這いで動けない。


「以蔵、蹴って」

「ぎゅ」


 〇丁乙の〇を蹴ったら、砂になった。

 ポーションオーブが出る。

 やはりスキルレベルは上がらない。


 穢れを払わないと、こっちに気付いた途端に絶叫した。

 脳に物理的なダメージが来るような恐怖だったが、銀仮面が軽減してくれた。

 魔女の断末魔の悲鳴とか、マンドラゴラの悲鳴とかが、こういうのじゃないかと思われる。

 お返しに射撃して、マゴラが突進、以蔵が飛び上がる。

 大女が腕を振り上げたので、マゴラも上昇、僕は太腿に斬り付けて横に抜けた。


 僕を捕まえようとして姿勢を低くした大女の後頭部を以蔵が蹴り、マゴラが降って来る。

 猛禽ストンピングで仕留めた。

 レベルが上がる。


「どうだ」

「浄化攻撃、気弾や伸気に浄化を乗せられます」

「やったな」


 もうカバちゃんに負ける気はしないんだけど、まだ足りないものがある。

100殺の前に、出来る範囲の場の浄化をする。

 動けなくなったのは、やれる人にやってもらい、宝の山を探した。

 見つけたら、チョンと突っつく。金の物が出た。


「金製防護の仮面。穢れを弾き、恐怖と絶望を防ぐ」


 精神攻撃は半減くらいだが、防御力の他に心力が上がる。

 心力は固定ではなく、割合なので僕にやさしい。


「なるほど。それを集めるのが先か」

「ええ。出て戻るより早いと思うので回し車で」

「おう、場の浄化があれば、いくら原始女がいても意味ないからな。ほんとにバグ技だよな」


 回し車にも別の敵は出て来なくて、ただ時間まで浄化して山を崩して、金仮面を2つ、同様の効果のアームレットを2つ見つけた。

 顔に貼れるにしても、シフトボディはアームレットの方がいい。

 100殺を後回しにして、6月まで仮面とアームレットを採掘してしまった。

 6月になって、お義父さんから情報があった。


「10キロすこし奥行ったら、牛原始人女出たわ」

「何ですかそれ」

「頭の横から角生えてる大女。カウガールとか、ミノカウロスとか、名前決まってない」

「レッサードラゴンの後に出て来るほど強いんですか」

「でかいわりに動きが速い。汚泥鬼でパワレベしてなかったらヤバかったかも」

「穢れの6キロは、普通の10キロ説の裏付けですか」

「そんなとこだな。10キロも急ぐ必要はないから今の処までだと上から言われた。一人でも殉職が出たら、雰囲気が全く変わるからな」

「穢れの7キロに行って見ます。浄化して勝てない事はないでしょう」

「それで勝てないのが出たらどうにもならんぜ」


 7キロも中トカゲ、汚泥鬼、原始女までは同じ。

 やっていなかった、原始女100殺を済ませてしまう。

 同じモンスターでもここの方が強いはずなんだが、絶叫が全く効かず、こちらの浄化弾は防御力無視で重傷を負わせ、浄化浸透勁は頭に当たれば即死技だった。

 100殺が終わるまでは奥に行かなかった。

 金仮面とアームレットが増える。


 奥に行くときは絶対声を掛けろと言われているので、仕方なく声を掛けた。

 二人を連れて入った奥に飛ばしたドローンから送られて来た画像には、エロ系のドラゴニュートが映っていた。

 体つきはほぼ人間。ヌードモデルにドラゴンのコスプレさせました、と言う雰囲気。

 背中は二足歩行の小型恐竜。太い尻尾が生えている。

 頭に髪はなく、細い角か太い棘かが幾本も生えている。


「こう来たか」


 見ていると竜女が口を開き、ドローンが壊された。 


「音がする前に壊れたってことは、衝撃波か」

「ですね」


 超音速の気弾も考えられる。

 正面から行く訳はなく、場を浄化してしまう。

 うつ伏せで倒れていた。以蔵が頭を蹴って、砂に変える。


「基礎能力上げとアイテム漁りからですね」

「おう」


 なぜか妙に気合の入ったお義父さんがとげとげ頭を潰して行く。


「あ、なんか出た」


 緑色のオーブを拾って吸収した。


「防御のオーブだった。俺より防御力高いのかよ。シュン、一人で潰してみてくれるか」

「はい」


 僕がやると、4体で1つオーブが出た。

 今日は回し車まで浄化してしまい、明日スキルレベル上げに挑むことにした。

 スキルレベルが上がっていないせいか、金仮面、アームレットより良い物は出ない。


 ドローンを上に飛ばして、僕は隠れマントを着て走る。

 ドローンが落ちたら、浄化弾を撃つ。

 竜女が平手で受けて、叫ぶ。痛かったようだ。

 僕を近づけないように、尻尾を振り回す。

 実体の倍くらいの長さの気が出ている。

 近づく気はないけどね。


 喉を狙うと腕で防ぐので、脇の下を撃った。

 「ギャッ」と叫んで、顔が丸出しになった。

 目を狙うと避けられそうな感じがしたので、首を撃つ。

 また腕で防いだので、また脇の下を撃つとしゃがんだ。

 脇の下に防御力無視の攻撃なんか当たったら、痛いじゃすまないはず。


 後は砂になるまで頭を撃つだけだった。

 マナコアを拾ってみんなの処に戻る。

 お義父さんが寄って来た。


「どうだ」

「浄化の威力が上がっただけです」

「そうか。浄化弾で瞬殺って訳にも行かなくなったな。ここまでだろう」

「そうですね。僕はここまででしょう」


 全部独りでしなければいけない訳じゃない。

 場を浄化して崩した山からは、直径5センチくらいの1メートルの銀の棒が出た。

 マサに渡す。


「鋼銀の棒。武器防具の材料。これは合わせて錬成が可能だ」


 霊晶より使いやすく性能も良いものだった。

 鋼銀の仮面とアームレットも出たが、防御力は金よりだいぶ高いが、心力の上りは金より良い程度だった。


 100殺はせず、7月まで7キロの浄化を続けた。

 リーナにも浄化済みの竜女を潰してもらったが、防御のオーブは4分の1しか出なかった。


 お義父さんは10キロのもう少し奥を覗いて見たが、翼無しで飛ぶ竜女がいたそうだ。

 機動性はエゾモモンガ以上。戦わないを選択。

 チームで動きやすいように、6LDKの低層マンションを1棟買いして、みんなで住んでいる。

 これ以上の無理はしないと安心したのか、おかあさんズが二人とも妊娠した。

 上姉と小姉は二人の世話をすると言って、僕が住んでいた方に住んでいる。


 なんの意味もない夏休みが来た。


「どこか、行く予定のある人」

「ない」

「もう、なんか一生分やった感じだぜ」

「鋼銀出してくれ。なんか造る」

「誰も予定がないなら、夏休みの宿題を早目に済ませたい」

「おい、そんなもの小学校でも廃止しただろ」


 タラオが焦る。


「忘れてるだろ。5キロボス討伐」

「あ、あれか」

「今さら」

「ま、やりたきゃついてくが」

「やる」

「お、おうやる」


 後藤権田はやる気だ。

 討伐を申請したら、ボスを倒すと穢れエリアが消えてしまう可能性もあるけど、僕がやりたいなら、一つくらいなくなってもいい、みたいな回答をされた。

 最早低位の穢れエリアは優良鉱脈。


 全部浄化しちゃるけん、と言う気持ちでカバちゃんの前まで行く。

 見物人多数。

 四分谷少佐はここの責任者だから当然として、お義父さんと八王子群司令まではまだ許そう。

 政府関係者は何なの。


「これ、全力浄化したら、自重で潰れちゃうんじゃないかな」

「そんなつまらないのは、止めましょう」


 リエちゃんが嫌がるので、ちゃんと戦う事にする。

 後藤権田が右、タラオファミリーが左、アイちゃんリカちゃんは正面。

僕は二人の後ろ。

 一斉射撃の後、飛び上がってカバの頭に浄化浸透勁キック。

 砂になって崩れた。


「ぎゅっ」

「クワッ」


 仕事のなかった以蔵とマゴラに文句を言われる。

 こんなに脆いと思わなかったんだもん。


「なんだこりゃ」

「ま、仕方ない」

「二つ上のダンジョンクリアしちゃってるから」


 カバの皮なんか、もう希少価値などない。

 出たマナコアも、10キロの巨大生物のより小さい。

 穢れエリアが消えなかっただけが救いか。

 北口と書いてある看板が見える出口から出て、また入って見物人と合流して帰った。

 一応祝勝会みたいなものも用意されていた。


 マナコアを掴んだ時に、向こうの世界のアカシックレコードと繋がったらしく、判った事があるのだが、みんなが無理にやらなくてもよかったと思っていて酷いので黙っていた。

 知らなくても構わない事だし。

 

 プレートシステムは、邪悪と戦う戦士を選び育成するものだった。

 犯罪性向のある者に力を与える訳がない。

 既に異世界の邪悪は討たれているが、不滅属性を持っていて、無限に復活する。

 倒さずに戦士の訓練施設と融合し、異世界に繋げて、復活用のエネルギーを別の形に変えてしまう。

 それがダンジョンだった。

 ダンジョンは変形させられた魔王だったのだ。

 普通エリアは本来の訓練施設。

 穢れエリアは魔王の本性ともいうべき部分。

 穢れモンスターは切り刻まれた魔王の分身。


 異世界の管理者の目的は、ダンジョンをこちらに出現させた時点で達成されている。

 システムに多少の不備があっても、構わない。

 攻略の必要はない。モンスターが外に出られるほど霊気が濃くなるのは、這い寄る焼き饂飩でも10万年以上掛かり、その頃には現住生物も霊気の影響で全体に強化されており、実質的な被害はない。

 いきなり全部は送れないので、60年後に体の主要部分で出来た20キロ物のダンジョンが現れる。

 あ、これは言っとかないと駄目か。


「首相、お話しておきたい事があるんですが」





 これで終わりです。有難う御座いました。




 

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戦闘力のない浄化スキルで足掻いてみる 袴垂猫千代 @necochiyo

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