第26話 パーティメンバー育成

 5キロエリアに入ると、巨峰サイズの葡萄がたわわに生っていた。

 無花果も大振り。

 消えないのが判っているので、軍がモンスターを殲滅してから収穫者を入れる手筈が整っている。

 目に付いた宝の山だけ崩して直進した。

 ボスエリアに着いたら、お狐様を瞬殺する。

 もう以蔵の牽制もいらない。

 正面から行って、頭に衝撃波。

 出たオーブを田坂さんに取らせた。


「こんなに簡単で、いいの?」

「1年はやってみる事になってる。まずければ来年修正。ダンジョン出現前に成人だった軍の人が旧世代と言ってるけど、僕らもまだプロトタイプだね」

「旧世代でも原始人でもいいから、はやく行こ」


 四分谷少佐に急かされて、北上した。

 生っていたのは夏ミカン大の桃だった。


「メロンじゃないの」

「桃いらないんですか」

「いるわよ。でも、桃は扱いが面倒じゃない」


 ダンジョン産のものが、触っただけで腐るかどうか知らない。

 桃の林を抜ける前に、斑狐が出て来た。

 誘き寄せもなく、マサが天駆で低空を駆けて行き、一発射撃、避けた狐に行安が剛突の嘴を突き込み終わらせた。


「ここまで強いか」


 後藤が目を見張る。


「剛突が入ってるからな」

「片岡のはもっと強いのか」

「マサも弱くはないが、タラオは格闘専門で、ファミリアにも強撃が生えてる」

「俺もゴンタも強撃だぜ」


 話している内に、癒合が終わる。


「おし、変身する」

「隠した方がいいの?」


 四分谷少佐に聞かれた。


「そうですね、見たくないと言う意味で」


 マサは波模様のべっ甲の霊晶甲になった。

 髪も茶と焦げ茶の斑。

 女顔になったので、キモさも抜けた。


「その体なら抱かれてもいいわ」


 田坂さんが行安を撫ぜながら言う。


「何で上から目線だよ」

「排泄介助が必要じゃないの」

「ああ、今まではプロに頼んでたが、やってくれるなら頼むわ」


 ちょっと性格に難ありな子なんだけど、マサがいいならいいか。 

 桃を採り終えて移動する。

 手軽に取れる高級果物が欲しい四分谷少佐の願いも虚しく、次は完熟梅林だった。


「なんでよう、桃の次はマンゴーが常識でしょ」

「聞いた事がないです」

「順番も間違ってるし。梅桃桜じゃない」

「次サクランボかな」

「なら許す」


 ダンジョンは許されなくても気にしないだろうに、サクランボが生っていた。

 四分谷少佐が嬉しそうで、なんか嫌だ。

 もう他に用がないので、みんなで取っていたら、収穫だった全員が採集になった。


「これ、採集者入れたら、探求者の促成栽培が出来るわ」

「取り敢えず、ミャーちゃんは出来るだけ採集だね」

「うん」

「ちゅ」


 銀二が任せろと片手をあげる。可愛い。


 出た果物をお土産に持って帰ると、北大谷の4キロで出たサツマイモと、5キロ産の栗の栗ご飯を貰った。


「食糧危機が解消するほどは出ないな。金持ちに高く買わせるもんだな」

「上で果物は出ないんですか」

「7でブルーベリー、8がアセロラ。イチゴはどっちにも転がってる。もっとこう、おお! みたいのが出ると思ったのにな。行ったついでなら兎も角、あそこまで行って取るかっての」 

「探求者の促成栽培って話が出たんですが。良かったら僕らが5キロの時はミャーちゃんはそっちに入れてくれませんか」

「おう、任せろ。3級いれば自衛力は十分だしな」


 翌日学校に行き、昨日出た分の4級オーブを、能力順に生産支援職に富士森に取りに行ってもらう。

 外れ組が押し寄せてきたが、全員に行き渡るまでやるから、今日得られなくても泣かない。


「なんで、オーブただで配るの」


 田坂さんの疑問はもっともだ。


「適性値上げるため。130越えたらスキルレベルを上げたい。スキルとの差が80以上あれば、今やっていることはできるはずだけど、100を維持したい」

「なんでスキルレベル上げるの」

「穢れの5キロのボスを倒す。防護の装備が出たから、戦力的には倒せるはずだけど、軍は止めている。ボスエリアの直径が倍ある。ボスに特殊能力があって、浄化師じゃないと倒せないかもしれない」

「それは、あなたがやらないといけない事?」

「ではないね。やってみたいだけ。取り敢えず、レベルを10にして、何が出来るようになるかみる」

「ボスやるとしても、子供出来てからだよ」


 アイちゃんが言った。


「その頃には、俺等も強くなってる」


 後藤が言う。


「ボス戦は6人だ。アイちゃんとタラオ以外は決まってない」

「私は?」

「田坂さんは遠射だから、考えてない。マサも入れないんだ。ボスエリア前に一緒には来てもらうけどね」

「なんで、遠射じゃダメなの」

「ボスは、象よりでかい、鎧着たカバみたいなやつだ。軍が確認はしてる。防御力が高いに決まってる見た目で、格闘戦になると思う。強撃持ちが欲しい」

「おう、任せろ」


 珍しく、権田が後藤より先に言った。


「頼む。週末にミャーちゃんが猫獲りに沼津の天狗山に行く。一緒に来てくれたら空跳を渡せる。強跳は後からでも入る。費用は全部持つ。もう、個人的には稼ぐ必要がないんだ。半年、4級だけでも10個以上出たら半分、分け前だった」

「大富豪様だったか」


 田坂さんがにじり寄って来る。


「ねえ、私は?」

「5キロのモンスター撃ってスキルレベル上げて。空跳は高レベルの遠射なら、普通エリアのモンスターからでも獲れる。時間を見て三人とも速射は入れる」

「速射はどこ?」

「湯河原。まあ、焦らないで」


 田坂さんは。一時のリーナに似ている。

 天狗山に連絡したら、大天狗山にも来て欲しいと言われた。

 シフトボディ用の飛行力の要望が溜まっている。

 三人の都合を聞いた。


「熱海の8キロに行くのだけど、来週ずっとになる。行くなら後藤と権田にはメヘルガルドールと3級オーブ、田坂さんは3級オーブが渡せる。融合モンスターは戦闘力の上り具合次第」

「行くわよ」

「行かない理由がない」

「おう」


 学校に行って来週はいないと言ったら、4級オーブ未取得組がパニクったけど、今週と土日で全員分以上出るはずだと言ったら解散した。

 後藤と権田に機敏を入れ、田坂さんに5キロモンスターを撃たせていたら、スキルレベルが3から4になった。

 仕留めなくても、当てればいい。

 男二人は、瀕死のモンスターに止めを差させる。

 強突、強斬、強打の威力が上がって行く。


 沼津の5キロは、既にチカちゃんが確認済みのミカンがなっていた。

 ボスを瞬殺して後藤に空跳を渡し、北上する。

 こちらも情報通り伊予柑がなっていた。

 僕が入ったからって変わるもんでもない。


 銀山猫は、ミャーちゃんの射撃からの天駆するリス銀二の伸気斬、それを見てしまってイーリスの剛突を避けられずに終わった。

 ミャーちゃんは1発撃っただけ。

 髪は銀二よりすこし濃い灰色、霊晶甲は所謂銀色。

 天駆があれば不便じゃないので、翼は後でいいと言う。


 権田用の空跳を取って、付いて来たネコさんチームも増やし、軍のチュウヒで熱海に連れて行って貰う。

 石動中佐に三人を紹介した。


「ほんとに高校行ったんだね」

「同世代の友達が出来ませんから」

「言ってくれれば、君と付き合いたい子はいくらでもいるよ」

「そうじゃなくて」


 イナサに田坂さんが乗せてもらい、空跳の入った戦闘職の男二人は走る。

 回し車エリアで、田坂さんは倒せなくてもモンスターを撃たせて貰った。

 一週間やっていたら、スキルレベルが6になった。


「こんなに早く上がるなんて」

「格上過ぎるからね。いい処に当たってるのに、ほとんどダメージになってないだろ」

「そうですね。あなたが私をボス討伐メンバーの対象外にした理由が判りました。上位スキルを得て、図に乗っていました」

「落ち込むこともないけどね。まだスキル得て1年経ってないのに、8キロ物相手にしているのが異常」

「そうだよ、あれを撃てるだけでも、大した胆力だよ」


 石動中佐もホローしてくれる。


「速射入れたら、5,6エリアのフュージョンモンスターなら獲れるんじゃないか。帰り道だから、寄って行ったら?」


 何言ってんですか、飛行機で帰るのに。

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