久しぶりに会った幼なじみが冒険系YouTubrだった件。

やさちび

第1話

 俺は鬼石悠、静岡県浜松市に住んでいる、容姿普通、成績普通、コミュ力普通のthe普通の男子のはずだった。そう、この日までは。


「あれ? 悠じゃん!おっひさー!」


 そう言って抱きついてきたのは幼なじみの犬塚芽衣だった。


 その容姿は整っており、中学生時代は学校のマドンナ的存在だった。恐らく、美少女とはこういう人間のことを言うのだろう。


「め、芽衣!? 何で街にいるんだよ、東京の高校に行ったんじゃ……」


 俺は芽衣を無理やり体から引き離し、そう問う。


「あれっ?学校辞めたのって言ってなかったっけ?」


「────は?」


「あー、その反応は言うの忘れてた感じかぁ。……ま、いっか!」


「まあいっかじゃねぇよ! 何で学校やめたんだよ、あそこ行くためにお前めちゃくちゃ努力してたじゃん。友達と遊ぶ約束断ってまで」


 そう、芽衣が行っていた高校は超絶難関の芸能高校だ。その高校に行くために芽衣がどれだけ血の滲む努力をしていたのかを、付き合いの長い俺は知っている。だから余計なぜやめたのか気になるし、心配だった。


「まさかお前、いじめられてたのか?もしそうだったら、俺がそいつの家まで行ってっ……」


 俺は芽衣に何かあったに違いないと勝手に思い込み、その感情を驚きから怒りへと変える。


 しかしその時芽衣から発せられた言葉は、俺の想像の埒外にあった。


「いや、クラスメイトはみんないい子だったよ。学校をやめたのは、もっと色んな世界を見て回りたいなって思ったからなの。だから探索系youtuberとして動画投稿を始めたんだ。そしたら思ったより人気が出て……youtubeやってるのが学校にばれちゃって、退学になったの。えへっ」


「えへっ、じゃねぇよ! ていうか、そんなくだらないことで退学になったのかよ……生活費はどうしてんのさ? そんなたかが知れた貯金で生きていけるわけないし」


 その問いを聞いて、芽衣はなにやら誇らしげな顔になる。

 まるで、聞かれるのを待ってましたと言わんばかりに。


「ふっふっふ、その言葉を待ってました!さっきyoutubeやってるって言ったじゃん? 実はyoutubeで生活していけるぐらい稼げているのです」


 ドヤ顔の芽衣。

 そのyoutubeのせいで退学になってるんだけどな、という言葉を一瞬投げかけたくなったが、本人が可哀想なのでそっと心の奥底にしまっておく。


「でも生活していけるくらいって言っても、精々月15万とかだろ?」


 俺はまさかここで一番の衝撃を受けるとは思わなかった。


「いやいや、そんなっちっぽけな額ではありません。なんと……月150万円です」


「は……? いや、さすがに冗談だよな?」


「大マジですけど」


 毅然とした顔で答える芽衣。どうやら嘘はついていないらしく、俺の思考は不意に止まった。

 俺の幼馴染が親よりも稼いでいるのだ。

 無理もないだろう。


「いやあのぉ10万位頂いてもぉ」


 俺は気が狂ったのか、とんでもないことを彼女に言ってしまった。しかし芽衣は少し考える素振りをして、


「んー、じゃあ私と付き合ってくれたらあげるよ! アハハ」


「いや、それはさすがに無理」


「えー何でよー! いいじゃん、私と付き合うくらい」


「だってお前と付き合ったら厄介ごとに巻き込まれそうなんだもん」


 嘘だ。

 本当は超絶付き合いたい。

 しかしその言葉を口にするのは、俺のくだらない見栄が許さなかった。


「んー……じゃあさ、一緒にいろんなところ回ろうよ。それならいいでしょ?」


「え……いや、学校もあるし無理だって」


 学校のことを言い訳にして逃げようとするが、反論されるのをお見通しだったかのように芽衣がとんでもないことを言ってくる。


「そこは大丈夫。悠のご両親にも学校にも、許可を取ってるから。いい社会勉強になるから行ってきな、だってさ!」


 俺は一瞬絶望した。

 が、何かが吹っ切れたのかこの先の未来が楽しみになってきている気持ちもある。なんてったって好きな女と二人で色んなところを回れるのだ。

 これで喜ばない男子がこの世にいるだろうか。


 こんな唐突な出来事がきっかけで、俺と犬塚芽衣の、騒がしくも楽しい青春ラブコメがその幕を開けるのだった。








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久しぶりに会った幼なじみが冒険系YouTubrだった件。 やさちび @yasatibi

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