落ちこぼれの元貴族、『砂』魔法を極めたらぶっ壊れ神託級で成長が止まらない

菊池 快晴@書籍化進行中

第1話:『砂』魔法でファックユー

「サンド、お前を追放する」


 子爵家、ロック家の三男に生まれた俺は、落ちこぼれとして兄二人と事あるごとに比べられた。

 神聖な儀式によって授かる能力で、兄二人が剣術と魔術の才能だったことも関係しているだろう。


「……そんな」


 俺は絶望した表情を浮かべながら、その場で膝をついた。

 父上は能力至上主義だ。


 力によって成り上がった家系だからこそだろう。


「お前の能力【砂】はいつまでたってもおままごとだった。少しは期待した私がバカだったな」


 俺が授かった【砂】は、四大属性【地】の亜種である。

 できることは砂を動かしたりすることで、兄二人が入学した貴族学園でも使いづらい上に、見たこともないハズレスキルだと認定された。


 それを使って家の中庭を綺麗にしたりしていたのだが、それが逆に腹立たしかったのだろう。


 兄も事あるごとに俺をいびり、父はため息を吐いた。


 俺は涙ながらに立ち上がると中指を立てて――ファックユーを決めた。


「……ふぇ?」

「何が能力至上主義だよ。こっちが泣きてえわ。親ガチャ失敗したこっちの身にもなれってんだ」

 

 俺の変貌ぶりに、父はあんぐりと口を開けた。


「お、おまっな、いったいなにを――」

「使用人には偉そうにする。食べ物は毎回残す。寝る前に歯磨きもしない。ほんと、毎日が地獄だった」


 俺の身長は170センチほど、金髪で顔はほどよく格好いい。

 いわゆるイケメン風。

 それだけは感謝しているが、後は最悪だ。


 今まではいい子ちゃんだった。


 だがそれは、一年前、唐突に終わった。


『この世界もしかして『フリー・ファンタジー』じゃないか?』


 突然、俺に新たな記憶が舞い込んできたのだ。

 それは、前世の記憶だった。


 ブラック会社員で働いていた俺は、汗水たらして毎日を必死に生きていた。

 もらえない残業代に上司からのパワハラ、中間管理職ということもあって、後輩のことが見捨てられず、辞めることもできなかった。


 大人になれば【自由】が待っていると思っていた。だがそんなものは虚像だった。


 ある日の帰り道、心臓が痛くなりそのまま息絶えた。


 そこで俺は終わり――のはずだった。


 だが気づけばサンドとして生まれ変わっていた。

 

 この世界は、俺が生前愛してやまなかったRPGゲームの『フリー・ファンタジー』のゲームの中なのだ。

 ロック家というのはモブ中のモブで、悪役貴族のコバンザメみたいな家系だ。更に例えると金魚のフンみたいな。

 なぜ俺がここまでの暴言を吐いたのかというと、父は俺に虐待していたのもあるが、違法な商売もしていて、本当に最低な貴族だからだ。


 だがそれはすべて告発済。正式に逮捕されるのも時間の問題だろう。


 名を名乗るなと言われたが、どうせすぐ無くなってしまう。


 ちなみに――。


「父上、俺の【砂】ですけど」

「な、なんだ」

「これ【神託級】なんで」

「……なんだと?」


 【フリファン】には、魔法に四段階のレアリティが設定されている。

 れは自身では選ぶことができない。


 プレイヤーはまず、キャラクターをクリエイトすることになる。

 目鼻立ち、髪型、誕生日、体重、出身地と100を超える質問と外見を決めた後、五歳の神託の儀式で能力スキルが発表されるのだ。

 

 細かく分けると種類は500を超えるが、大きく分けるとこうなる。


 普通級(基本元素)――火、水、風、地。

 上級(進化元素)――氷、炎、雷、岩。

 最上級(特殊元素)――闇、光。


 だがそれで終わりじゃない。


 超レアリティが高いのがある。


 それが――神託級。


 これだけはかなり複雑で、普通級、上級、最上級を併せ持った上で偶発的に誕生する。

 

 俺もすべては把握していないが、出現率は0.0000001%で、狙って出せるもんじゃない。

 そして【砂】は俺がゲーム内でも使っていた神託級スキルなのだ。


 記憶が戻ったときは思わずガッツポーズした。

 基本元素は【地】だが、派生が枝分けしているフリファンでは無限の力がある。


 父上はよくわかっておらず、口をあけながら鼻水を垂らしていた。後、やっぱり歯磨きしてないので、虫歯も見つけた。

 馬鹿め、この世界で歯痛は命取りだ。


 扉を思い切り強く締め外に出る(いつも優しく閉めていたので、これもまた気持ちがいい)


 名残惜しくもないが、最後かと屋敷を見つめていたら、執事が走ってきた。

 俺の事を幼い頃から育ててくれた人だ。


「坊ちゃま! ……何もできずに本当に申し訳ございません。今後、何かあれば、私にいつでもおっしゃってくださいませ」

「気にするな。十分良くしてくれた。俺が本当に家族だと思っていたのは、君たちだけだよ」

「なんと、もったいないお言葉でございます。それと、大変申し訳ございませんでした」


 父が隠れて罪を犯していたことは、既に伝えている。おそらく屋敷がなくなることも。

 それに気づかなかった自分が悪いとまで言い切ってくれた。ここまでの人格者はそういないだろう。


「気にしないでくれ。俺もわからなかったからな。それと少ないが、使用人全員に一枚ずつだ。退職金にしてくれ」


 俺は、金貨三十枚を手渡した。日本円で300万くらいだ。

 父の不正の仕事を正しくして、利益を溜めていた。

 旅の資金は必要だが、彼らには強く恩を感じている。

 愛情を持って育てられたのだ。それがないと、記憶すら戻らなかったのかもしれない。


「そ、そんな、こんな大金受け取れません!」

「いいから。後、落ち込まないでくれ。俺はいつか【砂の国】を作る。そのときは良ければまた仕えてくれないか。もし手が空いてたらでいい」

「なんと……是非、お待ちしております。みな大喜びで仕えると思いますよ」

「今までありがとな。――おっと、最後の挨拶を忘れてたな」


 俺は、デカい屋敷に向かって中指を立てた。


 そして【砂】を発動させる。

 地面から砂埃が舞い、土が盛り上がっていくと、徐々に同じ形がかたどられていく。


 【砂】で出来た巨大なファックユーの出来上がりだ。


 俺の能力がおままごとだと?

 バカいうな。これが――本当の【砂】魔法だ。

 今までは隠していたにすぎない。

 もちろんこれは、能力の一つでしかないが。


「ははっ、坊ちゃまが何か隠していたと思いましたが、まさかここまでとは思いませんでした」

「今まで楽しかったよ。でもこれからは自由に生きる」

「お達者で。【砂の国】首を長くして楽しみに待っております」

「ああ」


 このゲームの売りは、名前と同じで自由度だ。

 貴族学園に入学するもよし、冒険者になるもよし、旅に出るのも、魔王を倒してもいい。


 。

 これはからは自由をたっぷりと謳歌しながら、最高の【砂の国】を作る為に旅をする。


 能力を惜しみなく使って、【自由】に人生を謳歌するのだ。


 

 そのまま馬に乗り、近くの街まで移動しようとしたが、夜になって馬を解放した。

 まだ森の中だが、ここからは一人で歩きたい。

 それも、旅の醍醐味だしな。


 さて、今日の寝床を作るか。


 頭の中で【家】イメージをしながら、地面に手をかざす。

 すると、砂がグググとせり上がって、四角い砂の家が出来た。


 扉を開けて中に入る。当然だが何もない。

 だがその場で手を何度か振ると、ベッドとテーブルと椅子。今のところ必要ないが、キッチンも。

 イメージさえできれば何でも可能だ。


 ふたたび手を振ると、俺が入って来た扉が完全に消えて、ただの壁になった。

 外からみれば四角い謎の物体だろう。


 だが壊すのは容易じゃない。

 砂と合わせて魔力を付与しているからだ。


 砂のベッドに横になる。枕がなかったので、それもグググっと作り上げた。


 これだけやわらかくしておいたので、ふわふわだ。


「これでようやく、【砂】を伸ばして眠れるな」


 貴族として生きていた知識と俺の知っているゲームの知識、そしてこの【砂】があれば人生を謳歌できるはず。

 だがそのとき、ぐぅと腹が鳴った。

 かっこつけずに金貨一枚ぐらい残しておけばよかったか。


「……けど、なんでだろうなあ」


 だが一つだけ困っていることがある。

 それは、レベルの概念がないことだ。


【フリファン】ではステータス要素が面白いとされていたし、俺もそれが好きだった。

 特別ボーナスがあれば、もっともっと強く――。


『条件が満たされました。【ステータス】を表示します』


 だがそのとき、脳内に聞き馴染のあるナレーションの声が聞こえた。

 すると、視界に表示される。


 New 名前:サンド

 レベル:1 ⇒ New2

 体力:D

 魔力:C

 気力:B

 魔法:【砂】

 操作可能砂量:1㌧⇒2㌧

 装備品:ブラックジャケット ホワイトシャツ ブラックソックス

 スキル:砂想像おままごと (イメージ通りに砂を動かすことができる)

 ステータス:お金はないけど、元気いっぱい砂いっぱい!

 称号:世界もびっくり砂人間サンドマン


「――ハッ、そういうことか」


 確か原作でも、主人公のステータスが表示されるのは家を飛び出てからだ。

 つまり、俺の条件は追放か、家名を捨てることか。


 ――おもしろい。


 ここからレベルをあげていけば、もっともっとスキルを覚えるだろう。

 原作通り、初回のボーナスが入っていた。


 一つだけスキルを覚えることが可能だ。


 俺は、前世の記憶に従って、イメージしながら習得した。

 


創造クリエイトを認証しました。スキルを一つ習得しました】


 それから俺は、ふたたびその場で手を振った。

 土がせり上がり、人の形になっていく。


 砂の剣と盾を持った、砂スカートをひらひらなびかせる小さな女の子、もとい、砂女子ゴーレム


 【砂】が神託級の理由は、こうやって使い勝手のいいスキルを砂想像おままごとを元にして作り出せるからだ。

 しかし、ゲーム画面ではなく実際に見ると改めて凄いな。


 この【砂】マジでヤバくないか……?

 ゆくゆくは、【砂軍隊】でも作ることもできそうだ。


「俺は寝るから見張りを頼む。周りで物音がしても起こさなくていいが、人の声がしたら起こしてくれ」


 コクコクと頷く姿は、随分と愛らしい。

 スキルのおかげで、多少の自動行動も可能だ。命令をどこまで聞いてもらえるのかも調べてみるか。


 安心したら眠くなってきたが、今日からが本当の人生スタートだ。


 この世界が【フリファン】なら、魔物で溢れている危険な世界だ。


 今いる場所は【北】なので、できればもっと【南】へ行こう。


 確か砂漠続きの場所があったはず。

 そこなら誰の土地でもないので邪魔はされないし、領地の面倒ごともないだろう。


 ただ、それまでに必要なものがたくさんある。


 ”金” ”仲間” ”人脈” ”知識” そして―― ”レベル” をあげることが必須だろう。


 まずはお金を稼ごう。

 それも楽しそうだ。


 今まで気弱に生きていた。人の顔色をうかがいながら。


 でも、もうそれはしたくない。


 俺は、この世界で一番自由に生きてやる。


 ――――――――――――――――――――――

 あとがき。

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