閉ざされた街の僅かな青春

月影澪央

第1話 魔法使い

 この世界には、魔法が存在する。


 だが、使える人間はごく僅かだ。


 本当はかなり昔から魔法使いはいただろうが、それが知られるようになったのはメディアの発達などによって国全体に情報を広めることができるようになってからだろう。


 それ以降、多くの高層ビルが立ち並び、国が発展してきた現代に至るまでに、魔法使いのことは国全体だけではなく世界中で知られるようになった。


 だがその扱いは決していいとは言えないものだ。


 ほとんどの国では、定期的に魔法が使えるかを検査し、魔法を扱う才能があると分かれば、高い壁に囲まれた都市に閉じ込められてしまう。


 普通の人間は魔法使いを蔑み、迫害する。暴力行為に及んでも罪には問われない。むしろ魔法使いに対抗した英雄のように扱われる。


 そんな風に社会から追い出しておきながら、国は魔法使いたちを対魔法使い用の戦力として利用している。いないと成り立たない。


 今の魔法使いの仕事は、国の手から逃げ延び、犯罪を起こす魔法使いの対応だけだ。


 だが仮に戦争なんかが起こった時はまず魔法使いが前に立たされる。表向きには戦闘に長けているからと言うが、本当は魔法使いの命が安いから。


 そうやって扱えるのは、魔法使いたちは寿命が短く、九割が未成年――子供だからだろう。


 平均寿命が二十歳、長くて三十歳。みんな二十歳までという認識で生きている。



 そんな扱いを受ける魔法使いたちだが、国の補助を受けて運営される魔法使いの街で暮らし、初代リーダーの血筋を王族として大きく八つの組織に分かれて街が成り立っている。


 飲食店、飲食以外の店、医療、エンタメ、教育、警察、軍事組織、そして中央政府の八つだ。


 そのうち軍事組織と警察が町の外で戦っているが、残りの約七割が街で平凡な日々を暮らしている。その七割からすれば、この街では差別もされずに幸せな生活を送ることができるというわけだ。そんな人たちのためにも、その三割が全てを背負って戦っている。


 今ではこの街で生まれた子供も多く、そもそもこの街の外での魔法使いの扱いを知らないなんてこともある。


 そんな中で、幼い頃から魔法使いの地位を痛感してきたのが、王族の一人である聖弥せなという少女だ。現在の王の妹で十五歳。白い髪で青い目が継承されてきた王族だが、その中で黒髪と赤っぽいピンクの右目、水色に近い青い左目のオッドアイを持ち、口元に切り傷の跡のような大きな傷が残っている。


 そんな聖弥に兄である王の燈弥ともやが、ある仕事を命じた。


 それは、軍事組織第二部隊の再建をすることだった。


 第二部隊は最初期からある部隊だが、数年前にある任務でほとんどが死んでしまい、それ以降戦力が無くなって仕事も受けられなくなり、財政難に陥っている。


 今はなんとか貯蓄でやりくりしているが、それも長くは続かず、上に助けを求めた。それがより上まで上がってきて、今聖弥に任されたところだ。

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