錬金術師の青年は冒険者ギルドの総本山で成り上がる
新山田
第1話
自由都市フリードッグ。傭兵家業を営む者たちが冬を越すための作られた隠れ家が発達し都市化した場所。今は冒険者ギルドを主軸とした街として繁栄をしている。大陸唯一の王のいない都市である。
四六時中多くの往来のある街の通りの中、紙袋いっぱいに食べ物を詰めて少女が人混みを掻き分けて歩いていた。
人の波を避けながら慎重に進んでいたが不幸にも誰かの肩が彼女の背中にぶつかる。
「キャ!」
その勢いに態勢を崩し、両腕で抱えていた紙袋を盛大を放り投げてしまう。地面へと向かいながら空中を散る食べ物たちが落ちていくのを見つめ青ざめる少女。石畳に頭が衝突する寸前に落下が止まった。
「えっ!?」
ふわふわと彼女は何かに空中に持ち上げられて浮遊しゆっくり着地する。放り投げられた食べ物も彼女同様、浮遊しながら紙袋に納まると少女の手に戻る。
驚きの表情を浮かべながら紙袋を見つめる少女とその一部始終をみた周りの大衆たちを他所に、フードを被った青年は笑みを浮かべてその場を去った。
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毎日多くの者が名声や大金を求めてやってくる。牧園者ギルドの一階にはそんな野望を秘めた者達で溢れていた、そんな中で一人の青年が呼ばれる。
「4番のかたー!」
「はい」
白い髪の青年は柔らかい笑顔を携えながら番号を読んだ受付の女性の前に用意された座席に座る。
「今回は冒険者登録手続きでお間違いないでしょうか?」
「ええその通りです」
「ありがとうございます。ではこちら登録の際に必要な情報になります。記載お願いします!」
受付の女性は見事な営業スマイルで迎え受付内容を確認すると申請書と書かれた紙をこちらに渡してきた。
青年は指定された情報を記入して女性に渡す。
女性は情報に抜けがないか目視で確認していく。
「問題ありませんね。それではこちらに手を乗せていただけますか?」
少し厚みのある板を取り出した。そこには魔法陣が刻まれておりそこに手を置くように促される。
「それではこちらに記載いただいた情報に偽りがないか確認していきます」
「ええどうぞ」
「ありがとうございます。それでは名前はクロムウェル・・・さんであってますか?」
「はい」
「出身はルミナリア王国で間違いないですか?そこでは錬金術師をやっていたと──」
そこから記入した情報を一通り確認する。
「はいそれでは誤情報は無いようでしたので証の発行してきます!」
そう言って席を立ち手続きを取るため部屋の奥へと消えていく。
少し時間が経った頃、片手に木製の薄いカードを持ってきた。
「はい、これが冒険者証になります。無くさないでくださいね!」
「わかりました。ありがとうございます」
クロムウェルは冒険者証を受け取ると席を立った。
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クロムウェルは旅用のローブを纏い、ウエストコートの内側に冒険者証をポケットにしまいこんだ。その場を後にした時、受付の女性から「新人の冒険者さんへとちょっとした講習があるので!」と奥の部屋へと向かうよう指示を受けていた。その言葉に従い少し広めの待合室に辿り着いた。部屋の中には同じような新米冒険者たちがいた。
「やぁ!キミは”ギルド新加入者向け講習”にきたのかい」
品位のある黒いジャケットを身に着けた金髪の少年が部屋に入ると話しかけてきた。彼は自身の前髪を横へ払いセットした髪を軽く整えつつ近寄ってくる。
「ええそうです。ということはあなたも・・・」
「その通りだとも!ボクは”天翔ける黄金”のハクトベルトだ!以後お見知りおきを!」
「もう二つ名をお持ちとはすごいですね!僕の名前はクロムウェルです。どうぞよろしくお願いします」
「よろしく!クロムウェルくん!」
自己紹介を終え握手を交わしたとき部屋の隅で長椅子に腰を掛けた眼付きの悪い少女が口を開く。
「別に凄かねぇよ!そいつの二つ名は自分で名乗ってるだけだ!」
肩にかかった赤い髪の少女が背もたれに体重を預けたままクロムウェルに向かって大きな声を張り上げた。
「そうなんですか・・・」
その声に少し驚きつつもクロムウェルは少女の内容について真偽をしるべくハクトベルトに目線を向ける。金髪の少年はどこ吹く風とでも言うような涼しい顔をして疑問に答える。
「今は自称さ!でもいずれキミも!そしてそこの彼女も!ここにいる皆も!一様に言うさ!ボクの事を”天翔ける黄金のハクトベルト”と!!」
彼は両腕を広げて高らかに宣言する。睨みつけるような鋭い視線でその姿を見た赤い髪の少女は、「へっそうかよ」と鼻で笑うと機嫌が悪そうに別の方を向いた。
辺りにいたほかの冒険者たちもハクトベルトと赤い髪の少女のやり取りを最後に個々に会話を始めた。ハクトベルトも話したいことを終えると「それでは!」と前髪を払い部屋の隅で壁にもたれた自分の世界に入ったようだった。
クロムウェルはどこかに座ろうと空いてる席を探し始めた時、待合室の扉が開いた。
「新人冒険者諸君!待たせたな!」
扉の枠に体が入りきらず背を屈めて部屋に入ってきた大きな男。筋骨隆々なその体は着ていた衣服を弾かんばかりであった。
その体躯に見合った大きな声で白い歯を見せながら快活な笑顔で部屋にいる新人冒険者にあいさつをした。
「オレの名はゴグマ!お前たち新人教育を担当することになった!まぁここにいる奴の中には冒険者チームに所属する予定で、すでに訓練している者もいると思うが・・・」
と大男ゴグマが言うとその場にいた幾人かが前髪を払う、鼻を鳴らすなどの仕草をした。
「・・・訓練はしてもらう。まぁ”訓練”といってもモンスターを一体倒すだけだ。どんな方法であれ倒すことができれば問題なしとしてお前たちの持つ”仮冒険者証”をこの”冒険者証”に交換して終了だ。以上!質問はあるか!」
ゴグマは”訓練”の内容を説明し終えると、自身の持つ木製のカードが仮冒険者証だと知らされたことで受付での説明との違いに不満を持つ者たちの中から一人手を挙げる。
「お前!」
名指しされた少女は、セミロングの白銀髪をなびかせて気品の良さを漂わせながら姿勢よく立ち上がり凛とした顔つきでゴグマに問いかける。
「受付でこのカードは”冒険者証”と説明を受けたのですが?」
ゴグマはまた白い歯を見せて快活な笑みを浮かべて答えた。
「それはな!あそこで”仮冒険者証”と伝えれば喚く奴が出てくるだろう。『オレの実力なら仮なんて必要ねぇ!』ってよ!だからあえてそう伝えてここへ呼ぶんだ。渡さなきゃ渡さないで文句言うやつも多いが・・・。わかったか!」
そして『ガッハッハ』と笑った後ほかに質問する奴がいないか確認した。
「ほかにいるか!いないようだな!よしそれじゃあ訓練場に向かうぜ!」
とまた大きな体を屈めて部屋の外へと出た。そのあとを追う様に皆一様に席を立ち続く。
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「さてお前たちの力を試す奴はこいつだ!」
ゴグマは仮冒険者たちをギルドの奥にある訓練場、円形の広場に案内した。訓練用と思われる数種類の武器などが並び簡易的に休憩できる場所もあった。その広場の四方に一つずつ鉄の柵がある。ゴグマは甲高い口笛を鳴らすと鉄の柵が上がるとその奥から強い獣臭を放つ下顎から胴まで裂け横にびっしりと歯が並んだ大きな狼のような怪物が現れた。
「アイツは”バンバビグル・オー”。バンバビグルの群れを統一するボスモンスターだ!捕獲したのはいいが使いどころがなくてな・・・知っている奴もいるとは思うが肉もマズい。悩んでいた時にふと思った!『新人の訓練に使えるな!』ってな!ってわけだ!それじゃあ早速だが全員武器を抜け!協力するも良し競争するも良しだ!」
ゴグマの言葉に仮冒険者たちは慌てて様々な武器を抜く。
「万が一のことがあればオレか、訓練場の端にいるお前たちの先輩である冒険者が助ける。だから後先気にせずアイツを倒すことに専念しろ!」
仮冒険者たちはそんな雑説明に戦々恐々とした面持ちをしている中で幾人かは自身の実力を示すチャンスに笑みをこぼしていた。
「それしゃあ訓練開始だ!」
ゴグマの合図に素早くそして華麗に腰に巻いた鞭を外し前で出たのは自称”天翔ける風”のハクトベルトだった。
「それでは諸君!先に行かせてもらうよ!」
仮冒険者たちに向かってウインクした。
「チャオ!」
ハクトベルトは前を向き”バンバビグル・オー”に向かって走り出した。
「クソッ!出遅れた!!オレも行くぜ!」
不機嫌な顔をした赤い髪の少女は金棒を担いで後を追う。
他の者も急ぎ思い思いの武器を取ると走り出した。そんな中白銀の少女は反対の方向に歩き出し羽織っていたローブを脱ぐとその中から銀色の鎧が姿を見せる。脱いだローブを奇麗に畳むと広場の隅にある小さなテーブルに置いた。
「エスメ!はやく私たちも行きましょう!」
エスメと呼ばれた銀髪の少女に駆け寄る複数の男女。その中から内巻きの茶色い髪をした少女が銀髪の少女を急かした。
「分かってますカノレ。ですが淑女たる者、どんな時でも品位を欠いてはいけませんから・・・それでは行きましょう」
彼女の言葉に取り巻き達もテーブルに羽織っていたローブを脱ぎ、エスメに従う様にきれいに畳置いた。そして滑らかな光を反射している細身の剣を腰から抜いてゆっくりと歩きだした。後を追う様に少年少女たちは続いた。
皆が走り出す中、一人の青年は手を後ろで結んで仮冒険者たちの背中を眺めていた。
「どうした?怖気づいたか!ガッハッハ!」
ゴグマはその青年クロムウェルに声を掛ける。筋骨隆々な大きな男に笑みを浮かべたまま顔を向けて口を開いた。
「僕の”力”は乱戦に向かないので機会を伺っています」
「力?機を見てる間にあいつらが倒しちまったらどうするんだ?」
「その時は・・・まだ奥にいるモンスターを倒して証明しますよ」
ゴグマから目線を逸らし仮冒険者たちを死闘を繰り広げる”バンバビグル・オー”の後ろにある鉄の柵に目を向ける。
「そうか!なら好きにしろ!」
白い歯を見せて快活な笑顔でゴグマは返すと戦いの様子を見に行った。
「さて、僕の出番はあるかな?」
クロムウェルは独り言をポツリとつぶやきながら戦闘の行く末を見つめていた。
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