第24話 贄と罪
ドゴンッ!
発射された散弾は、
敵のひとりは頭を弾き飛ばされて倒れ込むが、隣にいた男は次弾を左腕の盾で受け止める。
バチッと青白い光が弾けて、なんらかの魔法的な効果が付与されたものだとわかった。本当に対処を考えてきたのか。厄介な敵だと改めて思い知らされる。
連続で8発を発射して、殺せたのはふたり。手負いにできたのが六人。
盾で防がれることを考えて、脚を撃つことにしたのだ。少なくとも動きは止められるし、大腿部の動脈を傷つければいずれ死ぬ。
距離を取って、ショットシェルを再装填する。最初の読みが甘かった。さらに20発を購入、バックアップとしてデザートイーグルの50AE弾も2発購入してフル装填しておく。
ピ、ピー、ピ、ピイィーッ!
笛の音がして、直感的に隠れていた岩陰から飛び出す。直前まで俺のいた場所に、直上から雷のような魔法が叩き込まれた。
さっきの笛は、俺のいる座標か位置を送ったものか? 冗談じゃねえ、まるで砲兵の火力支援を持った軍隊じゃねえか。
その間にも、手槍を持った男たちが着実に距離を詰めてくる。こっちは逃げるのだけで精いっぱいだ。
必死に周囲の気配を探るが、後衛の位置は驚くほどにつかみきれない。そのくせ、追い立ててくる前衛は音と気配をこれ見よがしに上げ始めていた。
第一階層で当たった連中に比べて、個人の強さはともかく集団としての強さが桁違いだ。いまもこちらを包囲しながら、どこかに追い込もうとしている。それがどこで、なにが待ち受けているのかがわからない。
岩陰を見つけて転がり込み、
次の7発で殺せたものはゼロ。なんと数人で盾を組み合わせて、被弾個所を減らす知恵をつけてきた。
まるで古代ギリシャの
隙間を抜けた散弾がいくらか手傷を負わせてはいるようだが、致命傷には至らない。
「神の力を舐めるなあ、スティグマッ!」
なんだかわからん罵りを受ける。第一階層でも、最後に殺した双剣持ちの男がそんな言葉を叫んでいたのを思い出す。
スティグマ。言葉の意味は、汚名あるいは罪の烙印だ。それが、俺の呼び名か?
ふざけやがって。完全に否定できる状況ではないがな。
7発装填、薬室に送ってプラス1。
3発で四人を無力化。すぐに移動して正解だった。俺のいた場所に、四方から矢の雨が降り注ぐ。頭を掠めた矢の軌道から射手に向けて勘で二連射。二、三十メートル先の起伏のあたりで倒れ込む気配があった。
こちらも新たな岩陰に入り、スパスに弾薬を装填する。
名前:バレット
天恵職:
所有ポイント:1985P(LV4の必要ポイント:128P)
所有弾薬:21(弾薬購入ポイント:1P/一発)
所有弾薬:7(弾薬購入ポイント:10P/一発)
所有弾薬:20(弾薬購入ポイント:5P/一発)
ええと……ああ、わからん。
ポイントが1500といくらか上がっているようだが、敵が
いや、気分でもなんでもなく、相手からすると完全に死神か。
ピー、ピ、ピ、ピー、ピッ!
またかよ。モールス信号に近いニュアンスの笛の音を聞いて、俺は隠れていた岩陰から飛び出す。事前に次の遮蔽を見つけておくべきだったと悔やむが、いまさらだ。
目についた窪みに駆け込んだ瞬間、また敵の策に嵌まったことを知る。
自分がどこかに追い立てられていることはわかっていたが、方向と目的が読めずに対処が後手に回っていたのだ。
なにか凄まじい力に弾き飛ばされて転がり、息が詰まって動けなくなる。焦げ臭い匂いを嗅いで、なにか魔法を喰らったのだと理解する。
「……こんな子供なのか」
ボソリとつぶやく声がして、倒れている俺の前に男が立った。
敵部隊の指揮官だろう。中年に差し掛かった程度の年齢だが、黒装束に包まれた肉体は鍛え上げられているのがわかる。俺を見る目にはなんの感情も現れていないが、殺し合いの最中だというのに気負いも殺意も感じられない。
手にした武器は、武骨で頑丈そうな鋼鉄製の
隙を見て動き出そうとした俺に、恐ろしいほどの殺気がぶつけられる。全身が総毛立つほどの圧。逃げきれないと本能が叫ぶ。
俺は全力で転がり、跳ね起きて飛び退る。間に合わないことはわかっていた。ロッドが一閃する速度と間合いを考えれば、人狼とはいえガキの体力で逃げ切れるわけもない。
気配だけで左腕を上げ
呼吸ができない。視界はグルグルと回ったまま黒く染まってゆく。意識を喪ったら死ぬ。わかってはいても、できることはない。どのみち死ぬのだと、心の声が嘲笑う。
「いまの打撃を受けて、まだ生きているとは。邪神の力も侮れんものだ」
ほとんどなにも見えない。聴覚も
炎熱魔法か。教会の関係者が、害獣や疫病者を
「「滅せよ」」
男の声と、内なる“神”の声が重なる。
その意味を理解することなく、俺の意識は飛んだ。
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