第20話 猛る死兵
転がっている魔物の死骸は、五、六十を優に超えていた。目に入っていないものを含めれば、たぶん百近い。
俺を襲おうとした連中は、かなりの精鋭だったんだろう。魔物はほとんどが一撃で首を刎ねられ、ハラワタを貫かれ、あるいは頭を射抜かれている。
しかし元いた世界でもそうだが、特殊作戦部隊というのは、想定外の状況で数の暴力に掻き回されると意外なほど早く崩れることもある。
速度と連携と隠密性の優位を喪えば、小規模の軽武装部隊でしかないからな。
「一騎当千てやつだな。その代わり、ひとり喪うだけで千の雑兵並みの被害をこうむる」
呻きながらにじり寄ってくるゴブリンを、横倒しになったまま唸るフォレストウルフを、サクサクと短刀で刺し殺す。そのまま周囲の安全を確認しながら、手早く魔珠を抉り出し、討伐証明部位の左耳を切り落とした。
ダンジョンの魔物は放置すると、半日ほどで迷宮内壁に呑まれて消えるらしいからな。無駄にするわけにはいかない。カネは、魔物で稼ぐ。そしてポイントは……。
「なあ」
俺は息も絶え絶えな男のひとりを見下ろして言った。
「俺に、そんな価値があったか?」
「……な……だと?」
「アンタらみたいな強者の特務部隊を鍛え上げるには、最低でも十年は掛かる。金貨で何百何千ってカネもな。それだけの力があったことはわかる。……けどな」
急所を抉られ、首を落とされ、焼け焦げた魔物の山。その傍らで、血に染まった黒装束の男たちが倒れていた。
ある者は無表情に、ある者は憎しみに歪んだ顔で、ある者は苦しみに満ちた顔で。誰もが俺を、真っ直ぐに見据えている。
「なんで俺なんだ。半獣のガキがちょっとくらいおかしな力に目覚めたところで、できることなんてたかが知れてるだろうよ。王都からこれほどの刺客を送り込むようなことか?」
「……ふふっ」
男は、穏やかな顔で笑う。ゆっくりと寝返りでも打つように身体をひねったかと思うと、その手は懐からなにかを取り出す。
パンッ!
38口径の弾丸が額を貫き、脱力した男の手から五センチほどの細い金属片が落ちる。おそらく、毒でも塗られた投擲武器だろう。最期までプロフェッショナルってわけだ。
古強者は“ガンスリンガーの神”に召され、光とともに消える。
「……クソが」
話し合いは無駄とわかって、俺はようやく開き直った。目につく男たちに片っ端から銃弾を撃ち込んで回る。五人目を射殺して銃弾を装填し、次の敵を探していた俺は勝手に開いた“
名前:バレット
天恵職:
所有ポイント:749P(LV3の必要ポイント:64P)
所有弾薬:5(弾薬購入ポイント:1P/一発)
所有弾薬:7(弾薬購入ポイント:10P/一発)
……ポイントが720も上がっている。
いま殺したなかには
「どうかしてるぜ」
38スペシャル弾を40発購入、手持ちは45発になった。残りポイントは709、もうLV3の必要ポイントは楽に超えているが、判断は保留。
正直にいえば、次の
木陰や茂みにいくつか気配を感じる。ゴブリンとフォレストウルフは臭いでわかるが、それがないということは俺を襲ってきた連中だろう。
自分を殺そうとした相手とはいえ、負傷者を殺して回るのは気分が良いものではない。だが、放置しておけば後で悔やむのは自分だ。生き延びるために必要な作業として割り切り、同じ作業を繰り返す。
どんどん跳ね上がってゆく“
38口径弾を20発使って、仕留めた敵は十六。ポイントは1920プラスされ、合計は2629になった。
「さすがにもう、LV3に上げてもいいか……」
いきなり、強烈な違和感があった。
周囲を見渡してみても、物音ひとつしない。警戒するような魔物も人間も見当たらない。あと数人、敵が残っているはずだが。視界に入るのは、迷宮の森だけ。
感覚を研ぎ澄ませると、奥で小さな気配が感じられた。そして、真っ直ぐに近づいてくる大きな気配も。
「……おおぉッ!」
低い息吹とともに、血まみれの黒装束が突っ込んでくる。
ドゴンッ!
直前で横っ飛びに
視界が開けた場所でなければ、銃器は
「逃がすか……ッ!」
いくら俺が逃げ隠れしても、男は執拗に追ってくる。38口径を撃ち込むが、止まらない。弱るどころか、ますます興奮してくる。ズタボロになった身体のあちこちから血を噴き出しながら、狂気のような目で俺を見据えてくる。
マズいぞ、こいつは死を覚悟してる。こうなったら、自分が死ぬか相手を殺すかだ。あきらめたりしないし、止まったりもしない。
「追いついてみろ!」
俺は開けた場所に出ると、人狼の全力疾走で一気に距離を稼ぐ。弓持ちが残っていないからこそできる方法だが。男は俺に向かってくる。黒い霧のように感じられる濃い殺気を身にまとって。
「おおおおおおぉ……ッ」
森の端まで来ると、俺は足を止めて男を振り返った。両手の剣をふりかぶって、すさまじい勢いで突っ込んでくる男を。
斬撃の間合いまで、あと五メートル。男と目が合う。笑みを浮かべているのが見える。俺を殺すのが楽しいのか。それとも、自らの死を望んでいるのか。
「スティグマアアァ、ッ!」
二メートルまで詰めてきた男の腹に、俺はデザートイーグルの50AE弾を叩き込む。勢いは止まらないが、男の目から光が消える。俺を抱きしめるようにぶつかると、弾き飛ばされた俺は地べたに転がる。慌てて立ち上がった俺の前に、男は片手にしか残っていない剣を振りかぶって、そのまま崩れ落ちた。
自分が刺されているのに気づいたのは、38口径の銃弾で男にとどめを刺した後だった。
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