第118話 魔王VS勇者④
「じゃあ早速、我にエクレアを奢ってくれんかのう?」
何でだよ。何で初めて会ったオマエに奢らなきゃいけねーんだよ。
「出来ぬのなら勝負じゃ!」
勇者は半身になって構えた。
「あ、ちょ、待って、足の裏痛ぁい……」
言うと、勇者は座り込んだ。そして足の裏を確認する。
ローラースケート脱いだ時に素足になってたからね。
なんか踏んづけた?
「……やべ、ちょっと切れてるかも……」
と、勇者はガチトーンで呟いた。
「石踏んじゃったかな~……」
素になったら喋り方フツーの女子だなコイツ。
「あのー、大丈夫か?」
俺が問うと、勇者はムッとした。
「だ、大丈夫じゃ! おのれえええええ! 流石は
うまくねーし、清キラは足切り制度無いぞ?
もしかして受験して落ちた奴か?
「くそう! 今のでHPがゴッソリ持っていかれたのじゃ!」
足の裏を切っただけで? どんだけHP少ないの?
「こんな時にMPさえ! MPさえあれば上級魔法を唱えて魔王なんて一撃じゃったのに! 肝心のMPが空っぽじゃ!」
空っぽなのはオマエの脳みそ。
「仕方ない! 仲間の魔法使いを呼ぶとするわい!」
止めといた方が良いよ。
魔法使い呼んだら来るから。
アイツが来るから。
『魔法使いですってええええええええええええええええええええ?』
ほらああああああああああああああああああああああ。
魔法使いボコボコにしたがってる
『今から行くわ!』
ヤバいヤバいヤバい。
魔法使い絶許の生徒会副会長が来るって。
今すぐ帰った方が良いよ。
魔法使い来たら血祭りが始まるから。
「はあ……はあ……。お待たせ、皆!」
いつの間にか、息を切らした加藤が俺の隣まで来ていたのだった。
(え、ええええええええええええええええええええ?)
速ああああああああああああああああああああああ。
ついさっきまで放送室に居たよね?
この一瞬で良く来れたな。
レーザービームかテメーは?
「な、なんじゃウヌは!」
勇者は座ったまま、加藤に問うた。
「生徒会副会長の加藤
「せ、生徒会副会長じゃとお? そんなやかましくて理性の無さそうな奴が――」
何かを言いかけたところで、加藤がしゃがんで勇者の肩を掴んだ。
「御託は良いからさっさと魔法使いを呼びなさーーーーーーーい!」
ガクガクガクと、加藤は勇者を激しく揺する。
止めたげてええ。
足の裏を切って瀕死状態だから勇者。
「魔法使いをボコらないと! 魔法使いをボコらないと今日のタスクをクリアできないのよ!」
何でそんな物騒なタスクあんの?
「やーめーるーのーじゃー……」
加藤に脳をシェイクされて、勇者は虫の息だ。流石に可哀想だと思ったのか、加藤は勇者の肩から手を離した。
「ふん! 勇者のクセに手応え無いわね! まあいいわ! 勇者をシバいたからタスククリアしたことにするから!」
余韻に浸ること無く、加藤はさっさと校舎の方に去っていった。
スゲーな。さすが魔王の右腕(右隣りの席だけに)。
彗星の如く現れて余裕で勇者シバいたよ。
「くそう! 魔王どころか手下にヤられるとは完敗じゃ!」
言うと、勇者はヨロけながら立ち上がった。
「キミの瞳に~♪」
勇者また歌いだしたんだけど。
何回聞いても超歌ウマいんだけど。
やっぱ吟遊詩人だろ。
「ラララ~♪」
歌いながら、勇者はローラースケートを履いた。
「我は勇者ではない! アイドルを目指す研修生なのじゃ!」
え、そうなの?
だから歌ウマいのね。
てか何でそんな奴が魔王討伐に来たの?
「真の勇者は他に居るのじゃ! 我に勝ったからといって喜ぶでないぞ!」
叫ぶように言うと、勇者はローラースケートで華麗に去っていった。
(え、ええええええええええええええええええ?)
おまえローラースケート超上手いじゃねーか。
さっきまで下手なフリしてた?
「我は呑み込みが早いからの! ローラースケートなんぞ数秒履けばプロレベルになるのじゃ!」
遠くから勇者の声が響き渡ってくる。
「因みに我の名前は
ここで、勇者の声は完全に聞こえなくなった。
「
トアリは言った。
「流石は城ヶ崎の兄貴! 圧勝でやんす!」
金剛力士像が続いた。
え、俺何もしてないんですけど。
『皆さん!
校内放送が入った。
間もなく校舎から『魔王! 魔王!』のコールが。
(……………………………なにこれ?)
何か良く分かんねーけど……。
俺にとって足枷だった「魔王」という異名は、もうプラスになったようだ。
そう感じた一日だった。
あとあの勇者は……加賀玲奈と名乗った研修生は……実力を見るに、すぐアイドルに昇格するだろうな。
【第2章】
真の魔王降臨
-おしまい-
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