第116話 魔王VS勇者②


「キミの瞳に~♪」


 立ち上がろうとしながら、ショートカットの女子……勇者は歌いだした。


(えええ……)


 急に歌いだしたんだけど。

 意外と美声だし歌上手いんだけど。


 何なのコイツ。

 え、超恐いんですけど。


「ラララ~♪」


 美声で歌いつつ、勇者はローラースケートを脱ぎ始めた。


(……脱ぐのかよ……)


 さては色々めんどくなったな。

 キャラ設定を守るとか出来ないの?


「はぁ……。帰ろうかな……」


 トアリは防護服の中で、ため息交じりに言った。

 そりゃそうだよ。俺も帰りてえよ。完全にアブねー奴だもん。


「さあこれからが本番だわいな!」


 キュッとした綺麗な素足で大地を踏みしめて、勇者は立ち上がった。


「ふふふ。勇者と聞きつけて、我が男だと思っていたようだな、ウヌらは」


 言うと、勇者は腕を組んだ。


 勇者じゃなくて今んとこ吟遊詩人だよね。

 てか何で勇者なのにウヌとか我とか魔王側の言葉遣いしてんの?


「ところがどっこい! 我は女勇者だったワケだ! ルックスBってやつだわいな!」


 ルックスBって何?

 もしかしてポリコレに配慮してる?


「なるほど! ルックスBですね!」トアリが言った。


 なんかスゲー食いついてきたんだけどぉ。

 急にどうした?


 さっきドン引きしてたのに。もう帰ろうとしてたのに。

 えっ、なんか餌でも見つけた?


「ほほう。その防護服……ウヌは魔王の手下ぞな?」


 何で初見でフルアーマー(トアリ)のこと手下だと思ったの?

 見た目からしてトアリのが魔王だろ。


「その通りです」トアリは言った。「私はルックスGの魔王の手下です」


 ルックスGって何だ。

 G……。


 …………あああああああああああああああああああああああ!


 分かったわ。

 テメーさてはルックスBからルックスGの流れ言いたくなって食いついたろ。


 聞いた瞬間ウズウズしただろ。

 マジで分かりやすいなオマエ。


「る、ルックスGじゃとお? そんなの聞いたことないぞお!」


 そりゃあね。


「ど、どんな奴だわいな?」


「それはゴキ――ふふふっ!」トアリは途中で噴き出した。


 笑っちゃってんじゃねーか。

 テメー自分が発したネタくらい最後まで言い切れよ。


 今日ずっとそんな感じだぞ。マジで反省しろ。


 つーか何?

 何で俺をイジることに関してはそうイキイキすんの?


「な、なるほど! ルックスGは素早さ・回避力・飛翔力・黒光くろびかりょくが高いということじゃな?」


 誰がゴキブリだ。今ので良く瞬時にゴキブリに辿りついたなオマエ。

 てか黒光り力って何? 戦闘の何処で影響するステータス?


「黒光りにさらされると、魔法防御力が下がるからのう! 厄介な魔王じゃ!」


 黒光りにそんな効果あったの?


「黒光りなんて見たくないのじゃ! 見ると精神的にもヤられるのじゃ! さすが魔王じゃ!」


 それGに対しての拒絶反応ってだけだろ。


「ふっふっふっ。オイラも負けてないでやんすよ」


 金剛力士像が話題に入ってきた。

 ホントにコミュりょくたけーなコイツは。フツーならこの間に入れず黙っちゃうけど。


「オイラはルックスGの魔王の手下、ルックスDの戦士でやんす」


 ルックスDってなに?


「ルックスDとは、『どないやねん』のDでやんす!」


 銅像のDじゃないのね。


「なるほど! 金剛力士像が動いてるなんて『どないやねん』のDということじゃな!」


 何でこんな理解力高いのこの勇者?

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