第114話 勇者襲来。


「ちょっと用があるから生徒会室に行ってくるわ!」


 言いつつ、加藤かとうは立ち上がった。


「勇者パーティーが来たら校内放送で伝えるから安心して!」


 来ないから。


「もしかしたら、もうすぐ来るかもしれないしね! それじゃあ!」


 と、加藤は勢いよく教室を出ていったのだった。


「いやー、勇者パーティーが来た時のことを考えると、オイラ武者震いするでやんす」金剛力士像は言った。


 来ねえっつの。


「ゴキ――」


 おい今俺のことなんて呼ぼうとした金剛力士像おおおおおおおお。


「ふふっ……!」


 隣で密かに噴き出してんじゃねーぞクソボケフルアーマー。


「じゃなかった。城ヶ崎じょうがさきの兄貴……って呼んでいいでやんすか?」


 じゃなかったってなに?

 ……引っかかるけど、まあ許してやるか……。


「あ、ああ……その呼び方なら良いよ……」


「城ヶ崎の兄貴は、勇者パーティー襲来とか慣れてるでやんすか?」


「……いや……慣れてるも何も、そういうの――」


 来ないから、と俺は金剛力士像に『人間界』の真実を告げようとした。

 その時だった。


「お、おいあれ! 皆、見てみろよ!」


 クラスの男子が、教室の窓から外に向かって言った。皆が窓際に集まる。

 このクラスだけじゃなく、どうやら全クラスで同じようなことが起こっているらしく……。学校中が外に向かってざわざわと騒ぎ始めた。


(な、なんだ?)


 俺も窓際に行って、外を見た。

 学校の広いグラウンドに繋がる校門の前に、怪しい人影が一つある。


(……ん?)


 遠くてハッキリ見えないが……ピンクのタンクトップ? を着た男が校門の前に居るのは分かる。変質者か?


「あれって!」


「ああ!」


「間違いない!」


 等と、この教室と、上の階や下の階の教室から大騒ぎ。


「勇者が来たぞ!」


「見た感じで勇者ね!」


「俺、シルエットだけでも分かったぜ!」


「私もよ!」


「ちょっと! 第一発見者は私よ!」


 等と、学校中が騒ぎ散らしているのだった。


(え、えええええええええええええええええええええええ?)


 勇者ああああああああああああああああああ?

 いやタダの変質者だろ。

 なんで見た感じとかシルエットで勇者って断定してんの皆?


「さっそく勇者のお出ましですね」トアリも窓から外を眺めながら呟いた。


 トアリもおおおおおおおおおおおお?


「ふっふっふ。間違いなく勇者でげす。腕が鳴るでやんす」


 金剛力士像も?

 何? そう認知するのが当たり前なの?

 え、俺がおかしいの?


『生徒会副会長の加藤律子りつこです!』


 校内放送が入った。


『校門に勇者が出現! 極悪ごくあく非道ひどう六神ろくしんじゅう及び魔王まおうは直ちに現場に向かうように!』


 何でだよ。

 何で俺が向かうハメになるんだよ。


 警備の人とかじゃないの? 百歩譲って教員が出るべきだろ。

 てか警察に通報しろよ。変質者として連行できるから。


「おお~!」


「ま、魔王が出陣するぞ!」


「俺、昨日の騒動ん時、現場に居なかったんだよな」


「私も私も!」


「見てみたいよね勇姿を!」


「でも動画撮ったり、SNSに上げるのはダメらしいわよ」


「あー。そりゃ権利問題とかあるしね」


 皆ウキウキなんだけど。

 完全に俺が行く流れになってんだけど。

 つーかネットリテラシーたけーな。


(マジか……)


 嫌なんだけどピンクのタンクトップ着た変質者相手にすんの。

 いやまあ毎日フルアーマー女子と喋ってる俺が言うのもなんだけど。


「城ヶ崎の兄貴! さあ行くでやんすよ!」


 ノリノリなんだけど金剛力士像。バキバキに開いた目ぇ輝かせてんだけど。


「さあ行きましょう城ヶ崎くん。勇者なんて軽くひとひねりしましょう」


 トアリは至極冷静な口調で言うと、ギシュリと立ち上がった。

 え、マジ? 現れた勇者以上の変質者も来るの?


 てか外見的にはトアリのが魔王じゃね?

 多分トアリのこと魔王って思うよ勇者側。


(……まあいい……。仕方ないから行くか……)


 俺は渋々、トアリと金剛力士像を引き連れて、校門へ向かうことに。

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