第80話 人外魔境メガネ決戦⑧(sideM)


「分かった? メガネくん、あなたも自分に自信を持ちなさいってこと。そうしたらどんな困難でも跳ね返せるんだからね」


「えっと、はあ……」


「なあに? そのリアクションは? もしかして私が生徒を盾にしようとしたとでも思った?」


 ごめんなさいそう思うのが普通です。


「ま、何はともあれ、生徒『たち』を守れて良かったわ」


 ……たち? と一瞬引っかかったけど、多分寝ている他の生徒のことだろう。

 はそう軽く考えていた。


「無事で良かったわね。そこのアナタ」


 と、岩田いわた先生は幽霊さんに優しく言った。


「あのあの、ありがとうございます……」


 幽霊さんは指をモジモジ絡ませながら言った。


「ふふ、きちんとお礼を言えてよろしい! じゃあこれ、約束のもの」


 岩田先生は、ふところから白い袋に入ったポテト(Sサイズ)を幽霊さんに手渡した。


「……え? これ……」幽霊さんはとても驚いている。


「欲しかったんでしょ?」


「……あのあの……えと、ありがとう……ございます……」


 すると、幽霊さんの全身が、スウッと透けていった。


「あら、もう良いの?」


「……はい……。あのあの、ワタシとお話ししてくれて……ありがとう……」


「なあに? 私はちゃんとお話しした覚えはないけど?」


「ううん……。怖がらずに厳しくしてくれたり……。普通に接してくれたのが……その……嬉しくて……」


 ふふっと、岩田先生は笑った。


「どういたしまして。メガネくんにもお礼、言うべきじゃない?」


 ここで、幽霊さんは、ボクに向かって微笑みかけた。


「ありがとう、メガネくん……」


「あ、いえ、その……うん……」


 ボクは照れ隠しに頭を掻いた。

 幽霊さんの体が、どんどん透けていく……。


「ねえ幽霊さん。私ね、ずうっと教師やってると思うわ。この先、ずうっと」


 だからね、と岩田先生は続ける。


「アナタが生まれ変わったら、私の所に『ホントの生徒』として来ることを約束してほしいな。きよキラに受かるのはそう簡単じゃないかもしれないけど、どう?」


 幽霊さんは、パアッと表情を明るくした。


「あ、あのあの……はい! 必ず!」


 スッ……と、幽霊さんは姿を消した。


「ありがとう」


 その一言を置いて。


「ふう。一件落着ね早乙女さおとめくん」


「はい……って、え? あれ? ボクの名前……」


「あのねえ。知ってるに決まってるでしょう? 担任よ?」


「じゃあ何でさっきまでメガネって……」


「悪い幽霊に名前を覚えられたら危ないでしょう? まあ今回は良い子だったけどね」


 ……だからか……。


「あの~、もしかして最初のクダリから見てました?」


「ええ。幽霊がポテト欲しいって言ってたところもちゃんとね。だからポテトも用意出来たのよ。旅館の人に無理言って用意してもらったの」


 ……この時、ボクはとても感動していた。

 岩田先生って……。

 凄い先生だなって……!


「さっ、早く寝ないと寝坊するわよ? 早乙女くん♪」


 ご機嫌に言うと、岩田先生は自分の部屋へ歩いて行った。


(幽霊とか、金剛力士像が動いてたこととか、ボクがレーザー跳ね返せたこととか良く分からないけど……)


 良く分からないけど……。

 岩田先生は良い先生だと思いました。

 そんな夜でした。


 

《人外魔境メガネ決戦》  -おしまい-

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