第72話 す……す……す……


 消灯時間になった。

 トアリと加藤かとうの布団は隣り合い、俺はそこからうんと離れた汚染区域付近に布団を敷いていた。


「じゃあ消すぞ?」


 俺は電気を消して、布団に入った。


(今日も疲れたな……)


 暗闇で目を瞑り、今日の出来事を思い返していた。


(何だかんだで楽しかったよな、人生ゲーム……)


 まさかあんなに盛り上がるとは思ってなかった。


(にしても旅館の料理、めっちゃ美味かったな……)


 刺身や懐石料理が絶品だった。


(つーか……)


 俺はカッと眼を開いて、


(寝れねええええええええええええええええええええ!)


 そりゃ寝れるわけないよ。

 だって女子二人が同じ部屋に居るんだもん。

 物思いにふける他ないわ。

 倉庫のが眠りにつけたわマジで。


 つーか何なのあの二人?

 何でああも安らかな寝息を立てて寝てんの。ここに一人の男が居るッちゅうのに。


 まさか男と認識されてない?

 ああゴキブリだから?

 って誰がゴキブリだバカヤロウッ☆


(落ち着け落ち着け……俺は眠い眠い……眠いんだ……思い込めば眠れる……)


 羊を数えよう。

 一匹、二匹、三匹、よし順調だ。数えられる。

 このままいくぞ。

 四匹、五匹――、



 ――千五十一匹、千五十二匹……。


(寝れねええええええええええええええええええええ!)


 羊千匹超えたよ。

 柵の向こうでジンギスカン焼いてるよドワーフが。

 ウールマフラーも量産されてるよ。


「どすとろおおおおおおおおおい!」


 と、加藤が叫んだ。ビクッと俺は起き上がった。しかし加藤はスヤスヤと寝息を立てている。その隣でトアリも。


(……寝言かよ……)


 どんな夢見てんだ。


「……城ヶ崎じょうがさきくん……」


 今度はトアリだ。


(お、俺の夢……見てんのか?)


 俺は耳を澄ませて、続きを聞く。


「城ヶ崎くん……す……す……」


 ……す? す……何だ?

 えっ、もしかして……。


「す……す――」


「こったまもじやああああああああああああああああ!」


 おい。


(なんて言おうとしたんだ……なんて言おうとしたんだ……)


 チャンスは再び来た。


「城ヶ崎くん……す……す……」


 ……す?


「隙間にはゴキブリホイホイがあるので注意してムニャムニャ」


 夢の中でもゴキブリ設定きとるんかいいいいいいい。


「ヨーロッパ! 赤いポストとともに!」


 そしておまえは何の夢を見ている。

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