第69話 人生ゲーム 前半


「ほらほら二人とも、早くやりましょうよー」


 トアリは人生ゲームの箱を開けた。そしてそれぞれ車の駒を用意した時だった。


「ああ城ヶ崎じょうがさきくんの駒はそれじゃありません」


「え?」


「城ヶ崎くんのはこれです」


 トアリは俺から青い車の駒を受け取って、ある茶色い駒を渡してきた。


「特別ですからね?」


 トアリから受け取った駒は、テレビだと絶対にモザイク処理されるほど、細部まで精巧に作られたゴキブリの駒であった。


(え、ええええええええええええええ?)


 なにこれ気持ち悪ぅ。


「私が丹精込めて作った特別な駒です。それを使えるのですから誇りに思うことです」


 まさかの自作? つーかゴキブリ嫌悪してるくせに何でこんな精巧なもん作れんの?

 もしかして逆に好きだったりする?


「あっ、城ヶ崎くん。あまりそれを私に見せないでください。気持ち悪い!」


 テメーが作ったんだろがああああぁ。


「ちょっと! あんただけズルいわよ! トアリさん! 私の分はないの?」


 そしておまえは何を目指してゴキブリの駒を求めてんだ。


律子りつこさんはまだゴキブリの域に達してないのでダメです」


「ウソでしょ? ちっくしょおおおおおおおおおおお!」


 うるせえよ。そこまで悔しがるほどの価値はねえよ。


「さー始めましょうか」


 トアリ、加藤かとう、俺の順で人生ゲームが始まった。

 所持金は一億円でスタート。


「最初から飛ばさせてもらいます」


 トアリが回したルーレットは三で止まった。

 赤い車の駒が三つ進み、『道ばたで五千万円を拾う』のマスへ。


「なかなか幸先良いじゃないトアリさん」


 次に加藤が回した。

 五で止まり、駒は『警察に補導される。二千万円払う』のマスへ。


「ちっくしょおおおおおおおおおおおおお!」


 うるせえよ。そこまで魂込めるほどのもんじゃねえよこれ。


「よし、俺の番か」


 俺がルーレットを回そうとした時だった。


「城ヶ崎くんはルーレットも別です」


 トアリが出したルーレットは普通のものと同じだった。数字の代わりに『ス』と書かれた目が一つだけ足されていること以外。


「……なんだこの『ス』は?」


「それは『スーパーカサカサタイム』の略です」


 スーパーカサカサタイムって何?


「ゴキブリの駒のみが得られるスペシャルなタイムのことです。そこに止まるとゲームでとても有利になります。うわ城ヶ崎くんの駒気持ち悪っ」


 だから作者テメーだろうがああぁ。


「なるほど……。敵に塩を送っといて後悔すんなよ?」


 俺はルーレットを回した。

 止まったのはトアリと同じ三。


「よっしゃ、五千万円ゲットだぜ!」


「ああ城ヶ崎くん。違います。マスも専用のものになります」


 トアリは『道ばたで五千万円拾う』と書かれたマスを捲り、下にある隠れたマスを出した。


「ゴキブリの駒は捲った下のマスです」


 出現したマスは、


『ゴキブリホイホイにハマる。五千万円払うと同時に二回休む』


 ペナルティ重すぎんだろ。


「あーあー残念ですねー城ヶ崎くーん」トアリが言った。


「まったくもって張り合いが無い人だわホント」加藤が続いた。


 トアリと加藤は仲良く爆笑。


(ぐぐぐ……)


 ゲームだと分かっててもなんか腹立つ。

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