第48話 担任は弁当担当


「あら、作戦会議はどう?」


 岩田いわた先生は柔く笑いながら言った。岩田先生がピンクの寝間着姿な理由を、俺はワンテンポ遅れて気付いていた。


「せ、先生? 何でここに?」俺は言った。


「あなたたちが無断で下校したって噂を聞きつけてね。注意しにきたわけじゃないわよ。何をしにいったのか何となく分かったから、その首尾を確かめに、ね」


「それでわざわざ来てくれたんスか……」


「ええ。相変わらず大変ね。この家の中に入るだけでも」


 ふふっと岩田先生は笑う。その口ぶりからして、どうやらこの家に来たのは初めてではないようだ。


「ああ鞘師さやしさん。妹さんは学校に戻ったから」


「あ、はい……」


「なあに? 急に縮こまっちゃって? 私のこと恐いの?」


「い、いえ! そんなことないです! まさかまた来てくれるなんて思わなくて……」


 自分のことを理解してくれるなんて……。トアリがその意を込めていたことを、俺は勿論のことだが、岩田先生も気付いただろう。


「ホント素直じゃないよな、トアリって」


「う、うるさい! スプレーで滅しますよ!」


「……おい、そのスプレーってアレか? あのジェット的なスプレーか?」


「ええそうですよ! それでプシューッてあの世へ送ってあげますよ!」


「んだと?」


 むーっと睨み合う俺とトアリ。


「ふふふっ。なによもう、すっかり仲良くなっちゃって。妬けるわね」


「冗談じゃないですよ先生!」


 俺に続いて、トアリも「そうですそうです!」と言う。


「はいはい! 二人とも落ち着いて。お腹、空いたんでしょ?」


「あ、はい。俺、弁当まだ食ってなくて。てか俺の弁当はどこやったんだよトアリ?」


 その問いに答えたのは岩田先生だった。


「ああ城ヶ崎じょうがさきくん。それなら私が頂いたわ」


 は?


「あのお弁当、この家の中では食べちゃ駄目らしくて、私が外に居る間にいただいたわ」


 なにしてくれてるんですか先生。


「心配しないで。どうせこの家の中に入ることのないモノだったんだから」


 そういう問題じゃなくて。


「代わりに私の胃の中に入っちゃったってわけね。ふふっ」


 うまくねーし笑えないんですが。


「ああごめんなさい。感想ね。美味しかったわ」


 別に空腹を満たした感想求めてませんが。空腹を満たしてくれる弁当求めてるんですが。

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