25 体育祭、始まる
校長や理事長や招待された人たちの挨拶が終わり、いよいよ競技が始まる。
ABC、3クラス対抗のこれは、各競技の勝敗で点数が入る加点式。けど、犯罪に近い行為が行われたら、そのクラスの競技には、点数は入らない。それと、ちゃんとあとで、指導される。
そして、行われる競技数は多く、時間が被るものもそれなりにあるので、生徒も見学者もみんな、事前に何を見るかを決めていて、その通りに動くことが多い。全体のリレーは午前の最後で、玉入れは午後の真ん中辺りである。
そして、私はそのまま、座っていた。
ここで始まる50m走と100m走と、400m走を見るために。因みに、どれも、男女混合だ。
「わー速ー」
小さく呟く。周りは応援をしていたり、スマホで動画を撮っていたり。
と、スマホが震える。桜ちゃんからの電話だ。
『見てる? 50m』
「見てる。みんな速いよねー」
一応、クラス対抗の体を取るために、見学席も3クラス分用意されていて、そこから動くのは、あまり得策ではない。
けど、こういうのは、セーフと見なされる。
『マリアちゃん、もうちょいあとだよね』
「うん。その筈。それと、橋本も後半だって」
『そっかー。橋本ちゃんのも、見る?』
「ん、まあ、その予定。体育祭の存在を忘れていた人に、思い出せてしまった責任もあるし」
『忘れてたんだ……』
「そう言ってた。あ、マリアちゃん、準備に入ったね」
『だね』
マリアちゃんが位置につく。合図で、走り出す。
「はっや」
6名同時に走り、3位だった。赤、青、青、緑、赤、緑、だから、マリアちゃん、結構良い点数になるはず。
『み、緑が……』
「いや、その前の緑の人、1位だったじゃん」
そんなふうにだべりながら、橋本の番を待っていたら、何か通知を受け取った。見れば、愛流からだった。
「ごめん、ちょっと切っていい? 愛流からなんか来た」
『おっけ』
通話を切り、それを見る。
『その、橋本さん? だっけ。なんの競技に出るの?』
『色々出るよ。今やってる50m走にも出る』
送ったら、愛流から電話が。
『いつ出る? どんな見た目? 足速いの?』
いつになく食いついてくるな。妹よ。
「後半に出るよ。まだ先。足速いよ。で、見た目はね、えー、背の高さが180近い。今日は赤組の見た目で、ハチマキをネクタイにしてて、オレンジと赤の髪色。赤のカラコン着けてて、赤のネイルしてて、両腕に赤のタトゥーシールしてる」
『他には何に出るの?』
「このあとの100mと400m、あと、走り幅跳び。リレーが全員参加なのは、覚えてる?」
『オッケー分かった。リレーのは覚えてる。で、お姉ちゃんはそれ、見るの?』
「うん、その予定」
そう言っている間に、橋本が立ち上がったのが見えた。
「今、橋本さん、立ち上がったよ。分かる?」
『背の高い人多くて分からん』
「えー、今動いてるんだけど。あと2組走ったら、来るね」
言っていると、その1組目が走った。
「この人たちがおわ……たな。の、次の次」
『あ、あー……分かったかも。オレンジと赤。そっちから見て、手前から、2番目?』
「そうそう。その人」
で、橋本の番が来た。
『わー……この人が』
「そう。橋本さん」
位置に着き、合図で走り出す。ぶっちぎりの1位。
『はっや……』
「ね。6秒切ることあるらしいよ」
『6秒……切る……?』
「最高ね。いつもじゃないから」
『はあ……分かった……じゃ、一回切る……』
「ん、分かった」
で、切れた。
桜ちゃんに、愛流とのやり取り終わったよ、と送り、お茶を飲む。
「……あ」
普通に飲んでしまった。リップが取れ……てない。
「……リップも、水に強いやつなのかな?」
と、桜ちゃんから、連絡が。緑組でだべってていい? と。
OKのスタンプを送り、終わりかけの50m走を眺める。
「橋本、めっちゃ速いね」
「ね。練習見てなかったけど、陸上に勧誘された噂、嘘じゃないのかも」
うん。嘘じゃない。皆さん、橋本へもっと、興味を持って下さい。良い人なので。
周りの会話に混ざりつつ、100m、400m、を眺めて。
橋本は全て、ぶっちぎりの1位だった。
「赤、今のところ、1位だね」
クラスメイトに言われ、掲げられている順位と点数表示の電子掲示板を見る。
1位、赤。2位、緑。3位、青。だった。
「そうだね。このまま行くかな?」
言いつつ、さて、そろそろ、女子バレーの席確保に行きますかと、カバンのベルトを肩に掛け直す。
周りに一言断って、荷物を持って、第二体育館へ。今は男子バレーをやってるけど、……わあ、なかなかに、混んでいる。
「あ、空いてる」
後ろの方だけど、空席が幾つかあったので、失礼しますと言いながら、その一つへ。
桜ちゃんに着いたことを連絡しよ。と、スマホを取り出し。
橋本からの通知に気付く。
『今どこ』
『第二体育館です。マリアちゃんの女子バレーを観るために』
『行く』
少しして、追加が送られてきた。
『どこ座ってる』
……。赤の席、て意味じゃないな、うん。
『後ろから2番目、右から5番目です』
『近く、空いてるか』
『左隣は今、誰もいません』
『席の確保、頼む』
了解、のスタンプ。
ちょっと失礼して、左隣の空席へ、カバンを置く。何かあったら怖いので、ベルトは持ったままで。
桜ちゃんへも、着いたよ、と送信。
そんな作業をしていたら、試合が終わった。赤と緑で、赤の勝ち。こういうのは総当たり戦なので、男バレは、あと2戦だ。
と、桜ちゃんから電話が。
「はーい」
『席が、全然……』
「こっちも混んでた。なんとか座れたけど。男バレ、人気だっけ?」
『……去年にさ、全国行って、ベスト4だったよね、確か。それかな』
「あーそういやそうだったね。それかも。バレー部が全員参加してるとは……参加してるのかな?」
『分かんない……あ、空いた! 座るね!』
「頑張れー」
『座れた!』
「良かった良かった」
そんなやり取りをしていたら、「すいません、通ります」と、聞き覚えのある声が。
振り向けば、タオルを持って、リュックを肩にかけた橋本が。
私は、スマホを耳から少し離し、
「席、ここで良いですか?」
と、カバンを持ち上げる。
「ん、助かる」
橋本が頷いたので、カバンをどかし、膝の上に。橋本はリュックを肩から下ろしながら、私の隣に座る。
『みつみん、橋本ちゃんっぽい声聞こえたけど、いるの?』
スマホからの声に、橋本がビクリとする。
「うん。今来たとこ。左隣にいるよ」
『ほーぉう。みつみん、橋本ちゃんが走ってるの、ずっと見てたよね!』
「え、うん」
『速かったよね』
「うん。ぶっちぎり1位だったし。周りも何人か、その話してたし」
『うん。じゃ、私、切るね』
「え、あ、うん」
で、切れた。
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