第39話 幼馴染みからのアドバイス

 わからない。なぜ雪は急によそよそしくなって、名字で呼んだのか。


 今日の彼女からは近づくなと言いたげな冷たい雰囲気があった。


(嫌われた……のか?)


 あの日の夜、お互い好きだとわかって、これからもよろしくと言ったばかりだが、俺は彼女に何かしてしまったのだろうか。だとしたら俺は謝らなければならない。


 何かあったとしたらおそらく昨日の夕方から今日の朝までの間。彼女とは会っていないが、何かあったとしたらこの時間。


 メールを無視したから怒っている、と考えて彼女とのメッセージのやり取りを確認したが、その時間帯に彼女からメッセージは来ていない。


 次に考えるのは付き合い始めたのになにもなかった俺に問題があるということ。


 昨日の夕方、雪の家から出てからは彼女とは電話、メールはしてない。


(だから怒ってるとか……)


 それか一緒に学校へ行こうと誘わなかったから不機嫌なのか……。


 原因を考えながら教室へ入り、席へ着くと後ろから背中を軽くパシッと叩かれた。


「おはよう、晴!」

「痛いわっ、それと驚かすな」

「幼馴染みでなが~い付き合いだから驚かないと思ったよ。慣れて」

「背後から驚かされることに慣れなんてないだろ」


 カバンを机の横にかけ、椅子に座ると未玖は前の人の席の椅子を借りてそこへ座った。


「で、何かあったの?」

「……実は雪と付き合うことになりました」

「おぉ、おめでとう! いや~、よく2人でいるところ見かけてたからいつ付き合うんだろうって思ってたんだ。けど……雪ちゃんと何かあったんだね?」

「うん……今朝会ったんだけど、なんだか雪がよそよそしい感じがして……気のせいかもしれないけど」


 彼女が俺のことをどう呼ぶかは自由だ。けど、彼女の様子がいつもと違うのは明らかで。


「ん~これは予想だけど雪ちゃんは付き合い始めて晴とどう接していいのかわからなくなってるんじゃないかな」

「なるほど……」


 その可能性はなくもない。友達から恋人へと関係が変わって今まで通りでいいのかと思うのは俺もだ。


(前と同じようにっていうのも難しい気がする)


「まぁ、本人と話すのが1番だね。今日は始まったばかりだし、雪ちゃんのクラスに行ってみたら?」

「うん、そうするよ。話聞いてくれてありがとう未玖」

「いえいえ、幼馴染みとしていつでも相談乗るから何かあったら頼るんだぞっ」


 未玖が言うように授業が終わり休み時間に雪に会いに隣のクラスへ行くことにした。


 隣のクラスへ行くと次の授業は移動教室なのかあまり人がいなかった。


 教室を覗いてみたが、雪がいる様子はない。もう行ってしまったのだろうかと思い、教室へ帰ろうとすると後ろから声をかけられた。


「あっ、未玖の幼馴染み。どうしたの?」

「未玖の幼馴染み……?」


 後ろを振り返るとそこには話したことのない女子がいた。だが、未玖の幼馴染みと知っているところからおそらく未玖の友達だろう。


「白井さんっているかな?」

「白井さんならもう移動教室に行ったんじゃないかな」

「そうなんだ……教えてくれてありがとう」


 いないことがわかり教えてくれた彼女にお礼を言ってから教室へ戻った。


 次の休み時間にまた行ってみようとしたが、自分のクラスが移動教室で結局、お昼休みになるまで会えないままだった。


 お昼はいつも雪からお弁当を受け取るので、会えるチャンスだ。


 椅子から立ち上がり、彼女に会いに行こうとすると飲み物を買って教室に帰ってきた亮が俺にお弁当を渡した。


「晴斗、さっき白井さんと廊下で会ってこれを渡してくれって頼まれた」

「あ、ありがとう……」


 これは俺と会いたくないってことなのだろうか。


 スマホを見ると雪からメッセージが来ており、開くと今日は一緒に食べれないということが書かれていた。


(忙しいってわけじゃないよな……)

 

 結局、お昼は亮と食べることになり、放課後になるまで雪と会えることはなかった。


 今日、最後のチャンス。放課後になると同時に俺はカバンを置いて隣の教室へ向かった。


 教室に向かい、教室を覗こうとすると廊下に出ようとしていた雪と遭遇した。


「あっ、雪」

「!」


 俺の顔を見るなり彼女は横を通って逃げるように早歩きで行ってしまう。ちゃんと話したいので、彼女を追いかけることにする。


 追いかけると彼女は逃げるようにスピードを上げた。だが、俺は足が速い方なのですぐに彼女に追い付いた。


「ごめん、俺が何かしたなら謝る……」

「………はる、八雲くんは悪くありません。すみません、急いでるので」


 彼女はそういって校舎から出て校門の方へ走っていった。


 悪くはないと彼女は言ったが、自分に問題があるのではないかとまだ思ってしまう。


(明日もこうなのかな……)




***



 同時刻。瑠奈と凪沙は、ファーストフード店へと寄り道していた。


 中へと入ってからは頼んだものを摘まみながら楽しく話していたが、会話が終わると瑠奈がボソッと呟いた。


「先輩の様子がおかしい」

「ん? 先輩って八雲先輩?」

「うん。今日、昼休みに会って挨拶したんだけど様子がなんかいつもと違った気がした」

「いつもと……何か悩んでるのかもしれないね」

「だよね」


 悩んでいるという言葉を凪沙から聞いた瑠奈はもしかしてと思うことがあった。


「(もし、八雲先輩の悩んでいることが白井先輩に関わることだったら……)」

「あっ、瑠奈ちゃんと凪沙ちゃん!」


 シーンと静まり返ったところに現れたのは未玖で彼女の隣には亮がいた。


 意外な組み合わせに瑠奈は驚き、そして口元に手を当てた。


「未玖先輩と高宮先輩、こんにちは。そういう関係だったんですね」

「ごっ、誤解だよ! 亮くんとはそんなんじゃないから! ね、亮くん?」

「あぁ、うん。友達だよ」


 誤解であれば落ち着いた様子のはずだが、未玖の顔が真っ赤だったことから瑠奈は心の中で可愛いと呟いた。


「仲良しってことですね。2人は、友達。そういうことにしておきます。ところで、高宮先輩。噂の他校の女子とは……」

「それ毎回聞いてくるけど、あいつが俺に付きまとってきてるだけだからな」

「仲良しなんですね」

「誰か瑠奈の口にチャックしてくれ」


 瑠奈と亮の会話を聞いていた未玖と凪沙は、お互い顔を見合わせて笑った。








         【第40話 白の天使の未来】

★移動時間に書いて予定より早くに更新しました。次回、最終話です。よろしくお願いします。

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