第19話 白の天使との距離
翌日。今日は雪とレモンケーキを食べに行く日だ。現地集合のためカフェへ1人で向かい、中へと入る。
カフェはオシャレで、来ているお客さんを見るに女性が多い。だが、男性が1人もいないわけではないので入りにくいということはなかった。
中へ入ると店員さんに何名様ですかと聞かれたが、待ち合わせしている人がいるのでと言った。
(さて、雪を探そう……)
彼女を探すためまずは入り口から右の方を見る。手前には女性2人組、奥にはパソコンで仕事中をしている男性が1人いた。右にはいないことがわかり左を見てみる。
手前には大学生らしき男女グループが、そしてその近くにはスーツ姿の男性がいる。その横には女性3人組。そしてその奥に雪がいた。
(いた……)
彼女のいる方へ向かい、本を読んでいる雪に気付いてもらうため名前を呼んだ。
「雪、おはよ」
そう言って彼女の目の前に座ると雪は顔を上げてニコリと微笑んだ。
「おはようございます、晴斗くん。外暑かったでしょう?」
「うん、暑かったよ」
外は暑いのに比べて中は冷房がかかっており涼しい。
テーブルの上を見ると雪の目の前にはジュースが入ったグラスがあった。俺が来るまでどうやらそれを飲んでいて、皿はないのでレモンケーキは俺が来るまで待っていたらしい。
このまま何も頼まずにいたら俺はただ涼みに来ただけの嫌な客になってしまう。メニューを見て注文することにしよう。
メニュー表を広げると中には1枚だけ別になっているレモンケーキのことが書かれた紙が挟まっていた。
(これがレモンケーキか……)
レモンケーキを2つ頼むことは決まり、次は飲み物だ。雪は先に飲み物を頼んでいたがもうほとんどないためまた別の飲み物を頼むらしい。
「晴斗くん、レモンケーキにはキームンが合いますよ」
「……キームン?」
何だろう。知らない言葉だ。初めて聞いた言葉に首をかしげていると雪は小さく笑った。
「簡単に言うと甘みがある紅茶ですよ」
「へぇ、そうなんだ。キームンなんて初めて聞いたからどんな味か想像できなかった」
レモンケーキと一緒に飲む紅茶でオススメなのがキームンらしいので、俺と雪はキームンを注文することに。
注文するものはこれで終わりかと思ったが、雪はまだメニュー表を見て悩んでいた。
(もしかしてお腹空いててもう1つケーキ頼もうとしてるのかな……)
「決まりました。注文しましょうか」
雪の言葉に俺はコクりと頷き、呼び出しのボタンを押した。店員さんはすぐに来て俺と雪は注文していく。
お腹が空いていたのか雪はレモンケーキとショートケーキを頼んでいた。メニュー表の写真じゃ大きさがわからないが2つ食べれるのは凄いと思う。
「以上で」
「かしこまりました」
注文を終え、店員さんが立ち去ると雪はパタリとメニュー表を閉じた。
「雪、この前、味噌汁作るって話だけど、今日の夕食は俺の家で一緒に食べないか? 今日はオムライスと味噌汁を作るつもりなんだ」
「晴斗くんが作ってくださるのですか?」
「うん」
「では是非食べたいです」
「わかった」
俺はこのときすっかり忘れていた。今日は家にお母さんがいたことを。
待っている間、雪と話していたので待ち時間は全く退屈しなかった。そして数分後、注文したものが運ばれてきた。
「レモンケーキ、やっと食べれます……」
レモンケーキを見るなり雪の目はキラキラしていた。
あの海に行ったときから食べたかったレモンケーキが食べれるもんな……嬉しいはずだ。
レモンケーキも気になるが、キームンも気になる。甘いと聞いたがどんな味がするのだろうか。
ケーキの前にティーカップに入ったキームンを飲む。すると口の中に甘くてコクのある味がした。
(美味しい……)
さて、次はメインのレモンケーキだ。フォークで一口サイズに切り、食べると甘い香りが広がった。
(甘い……そしてキームンに合う)
「美味しいな」
「はいっ、美味しいですね。こちらのショートケーキも美味しいですよ。食べますか?」
「……いいの?」
「えぇ、晴斗くんと美味しいものを共有したいので」
「……ありがとう」
雪は一口サイズのショートケーキをフォークで刺し、それを俺の口元へ運んだ。
「じ、自分で食べれるよ?」
もしかしたらまたあ~んされるのではないかと思っていたが予想通りだ。
「晴斗くん、あ~ん」
(あ~んとか、かわよかよ)
目を開けていると恥ずかしいので目を閉じ、雪の持つフォークに刺さったショートケーキを食べた。
「……美味しいな、ショートケーキも」
「ふふっ、そうでしょう? あっ、晴斗くん、すみません、クリームが……」
「!」
雪は椅子から立ち上がり顔を近づけてきたので俺はビックリした。それと同時に心臓がうるさくなっていく。
(綺麗な瞳……)
一瞬だったが見とれていると雪はティッシュで口元についていたクリームを取ってくれた。
「取れました」
「……あ、ありがとう」
「! すっ、すみません!」
俺の反応を見て雪はハッとして慌てて顔を離し、椅子に座った。そしてゆっくりと口を開いた。
「私、男性とはあまり話さないので距離感がわからないんです……もし、近すぎと思ったときは遠慮なく近いと言ってほしいです……。友達だとしても嫌でしょうし」
(嫌……)
確かに雪は俺との距離が近い気がするが嫌と感じたことは一度もない。
「嫌じゃないよ。ビックリしてドキドキはするけど、距離感近い友達が多いからそこまで気にならないよ」
「……そう、ですか……」
気にならないよと言ったが、雪は、なぜか暗い顔をしている。理由が知りたくて聞こうとしたが、聞けなかった。踏み込んでいいのかわからなかったから。
空気が暗くなった気がして雪に何か言おうとしたその時、カフェに高校生らしき女子2人組が入ってきて、雪は彼女達のことを見るなり、下を向いた。
「ほんと、楽しみだったんだよ」
「うんうん、私もー。ん? あれ、雪?」
女子2人のうち1人が雪がいることに気付きこちらに来た。そしてもう1人も雪に気付いた。どうやら女子2人は彼女の知り合いのようだ。
「ほんとだ。もしかしてデート中?」
「で、デートではありません……友達です」
「へぇ、そうなんだ。もう関係ないから雪が誰といても何も言わないけど、私はあの時のこと許してないからね」
そう言って彼女達は俺たちのところから離れたテーブルへ行った。
雪は下を向いていたが、顔を上げて俺にニコッと笑いかけてきた。
「雪、大丈夫?」
「? 私は大丈夫ですよ」
大丈夫、彼女はそう言うが、無理やり笑っているように見えた。俺に心配をかけないように。
「さっきの友達?」
「いえ、中学の時に同じクラスだった方です。山崎さんが好きな方が私を好きになったことで少し……」
山崎さんというのは先程、雪に許さないと言った彼女だろう。好きな人が雪を好きになったからといって雪に何か言うのはおかしい気がする。
「雪。追加でチーズケーキ頼むけど雪はどうする?」
「……私も頼みます!」
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