第0章 3話

あの凄惨な事件の翌日。


 華は親のもとを訪れていた。


「それで、大丈夫だったんだな。よかったよかった」


「うんうん……それでね……」


 華は横にいる祖国防衛隊員たちに助けられたことを伝え、自身の能力を用いて、今まで話していなかった軍事学校への進学を親に打ち明けた。


「こ、国連学校!?」


 父親の浩は大いに驚いた。


「そうか……そのニュースは結構話題になっていてな。知ってはいたが、そこに入りたいっていうのは本当なんだな?」


「うん、本当だよ。防衛隊の人に教えてもらったんだ。能力者と無能力者の共存を絶対に成し遂げたいんだ!無理でも、一歩でも近づけるように頑張るから!」


 華は唐突にほほえましい顔をしていた祖国防衛隊の隊員に話を振った。


「いや……あれは……その……」


 唐突に振られて驚き、回答に悩んだ。


「はっはっは。お前のそういう理想主義的なところはいいと思うぞ。わかった。入りたいなら励むことだ。理想に近づけるようにせいぜい頑張るんだな」


 命の保証はないにもかかわらず、父は国連学校への入学を許可した。


「ありがとう!」


「ハハハ……あんまりいいとは言いたくないし、死んでほしくないんだけど、もしこのようなことが頻繁に起きるのなら、そっちの方が安全かもね」


 あまり乗り気ではなかった母も、ついに華に折れた。


「今更だけど、本当にありがとうございました。あなた方のおかげで、こうして運よく私も夫も華も生き残ることができたのです」


 華の母親である加奈は、名も明かさない祖国防衛隊に対して感謝の言葉を述べた。


「訓練してますから当然ですよ。それよりも華さんには、ぜひとも私よりも強い軍人になって、大倭帝国の能力者と無能力者の共存、ひいてはこの国の安全に向けて励んでほしい限りです」


 少し嬉しそうに答えた。


「(私たちと話すときとは全然違う態度を取ってる……)」


 引き気味の華。


「また、このことについて伝えようか迷ったのですが、悲しいお知らせがあります。先ほどのテロリストの手により、商店街ばかりではなく周辺の住宅が破壊されました。いまこの地域は戒厳令が出ており、立ち入り禁止になっています。しかし、破壊された家屋の中に、あなたがたの家が含まれている可能性が非常に高いです。こんなに近いのに、それを保全できずに申し訳ありません」


 祖国防衛隊は、残念そうに華の家が破壊された可能性を伝えた。


「何を言っているんですか。もちろんそれは非常に悲しいですが、こうして助かっているんです。それに代えられるものなどありません」


「お母さんの言う通りです!」


 とは言いつつも、華の顔は曇っていたが、意地を張っていた。


「……感謝します。あなた方は必ず政府が助けてくれますので、心配なく」


「(とはいったものの、被害想定がされていないこの町がすぐに復興するとは思えないんだよな……)」


 そんな憂鬱が、この場所を支配した。


「……まだ早朝だ。まだ休んでていいと思います」


 そう言って退出しようとする。


「あ、じゃあもっと私に世界のことについて教えてください!」


 すると、少し間をおいて「あとでならな」という言葉を残して退出した。


「あ、行っちゃった」


「ずっと寝てないんだもの、あの人。テント設置や物資の輸送までほとんど休むことなくやってて、朝になったらこうやって会いに来てくれたのよ」


「さすがに休んでもらいたいな」


 華の父親は願うように言った。


「へえ……すごいね」


 一人だけ尊敬して、さらに軍人への好奇心を高めていった華だった。


数時間後

 昨日の疲労からようやく目覚めた優香。まだ朝の9時で、昨日の事件を考えれば当たり前のことだ。

 むしろ朝の6時ほどに起きて話に行けた華の方がおかしいのである。


「う……ん」


 まだおぼろげな視界を見ながら優香は新たな決意を見せていた。


「(国連学校に入るためには、入試を突破しないといけない。そのためには体力はもちろん自分の固有能力が発現した方が有利……)」


 優香は一人でそんなことを考えていた。


 華と優香はすでに能力が発現しており、中の上ほどの実力を秘めているといわれているが、これは大倭帝国では1000人に1人という才能だった。


 能力が発現すると変わることは二つ。

 身体能力が大幅に上昇し、物覚えが良くなること。

 そして、能力者一人一人に固有能力がもたらされることだった。


 能力が発現していても、華と優香は固有能力は発現していなかった。


「(うーん……でもこれが発現するのはほぼ運って聞くしなぁ)」


 結局解決しないままだった。


「あああ、疲れた!もう休ませてください!」


 華の部屋を退出して少し離れたところにある祖国防衛隊の駐屯部隊……実質生存者の介護役となっているが、それでも祖国防衛隊は出される食糧の輸送と調理、配膳や掃除などを行っている。


 そして華たちを見つけた隊員、もとい朝雲という隊員は、昨日からほとんど休んでいないため疲労困憊状態だった。


 基地が近いとはいえ1km近くある距離を歩く気にはなれず、テントで寝ることにした。


「それは構わないが、大変だな」


「そこのテントが空いてるから、そこで寝るんだな」


「ありがとうございます!」


「それよりも、あの子、国連学校に入学するんだってな!あいつから盗み聞きしたぞ!」


 朝雲の戦友でもある友達が言った。


「何聞いてるんだよ……まあそれがどうした」


「すごいな……やっぱり無能力者の俺たちとは違うね」


「それはわからなくもないがな。あまり騒ぐんじゃないぞ。なにせ今は精神的に不安定だと思うから」


――まあ、あの子なら大丈夫だとは思うが。とは言わなかった。


「ちょ、ちょっと朝雲ぉ!?」


 これ以上話しても無駄だし、それ以上に疲れているのもあり、水を飲んでからテントに入り、そのまま眠りについた。


ニューヨーク 国際連合本部

 重たい空気が流れ、一人の人が発表し、最後には拍手喝采が起こった。


「先日決まった国際連合軍事学校を試験的に東京で再開し、そこから順番にゲルマニア、ドーバー、リッチモンド、モスクワと今年中に開校していきます!この国際共同軍の登場は、国際協調をより深め、いまだ残る能力主義紛争に終止符を打とうではありませんか!」


(拍手喝采)


 国連学校の創設決定の翌日、入学式を4月10日とし、急なもののため途中入学も可能とした。また入試を7日に行い、発表を前日である9日とした。


 入学試験については、基礎体力、基礎学力、そして面接が行われる。


 華と優香はその日から一緒に勉強と体力向上を行い、戒厳令が出ている町の外には行けないので、その内周を毎日5周するという長距離走を行い、体力は飛躍的に向上した。 


 それを2か月間継続し、4月5日、入学式の5日前に町のがれき撤去がある程度終わったので、戒厳令は解除された。


 同時に祖国防衛隊の朝雲から二人は話を聞いていて、戦争の悲惨さと心構えを教えられていたが、本人は


「これはあくまで自分の考えだ。そこに入るのなら、自分でその心構えを見つけてみせるんだ」


 と言っていた。


 そして時間の流れは速く、二人はついに入試当日を迎えたのだった。

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