殺人事件と探偵追放

竜田くれは

殺人と探偵とパーティー追放

「君をこのパーティーから追放する」

 リーダーは私にそう告げた。魔術師も隣で頷いている。耳を疑った。この場で言う事ではないだろう、と。

 此処は殺人現場だ。倒れ伏す大柄な男。パーティーメンバーだった彼の僧服には血が滲んでいる。傍には赤く染まった短剣が転がっており、辺りは血の海と化していた。

「何故ですか?」

 追放の理由と此処でそれを切り出した理由、二つの意味を込めて尋ねる。

「君はうちのパーティーに必要ない」

 真剣な表情で語る察しの悪いリーダー。

 私は苦笑した。

 この現場で、何故疑いの言葉を投げかけないのだろう。

 犯人である、この私に。


「探偵みたいな役に立たない職業のあんたなんて、パーティーに要らないのよ」

 現場の状況から、明らかに私が怪しいのはリーダーも、仲間の魔術師も分かっているはずだ。犯行現場は私の部屋、使われた凶器は私が常に持ち歩いている短剣で、殺されたのは私と仲の悪かったパーティーメンバーの神官だ。

 確かにこの状況なら、私のように探偵でなくても、誰が見ても犯人は明らかだろう。

 そう、私だ。


「ちゃんと貢献してきたじゃないか。この間だって何度目かの殺人事件を解決したところを見ていただろう」

 流石にその事件の犯人は私ではない。今回は私だが。

推理それ、このパーティーでやることかしら」

「しかし、戦闘でも……」

「それに関しては私達だけで十分だったでしょう?」


 ぐうの音も出ない。私達のパーティーメンバーは四人。私は推理と格闘ができたが、リーダーはトップクラスの剣士だ。魔術師は天才魔法少女で、神官は教会にコネがあった。私と神官が出るまでもなく、戦闘は片が付いた。

 はっきり言って、戦闘面で神官と私はこのパーティーに必要なかった。いつかは解散、又は追放されるのだろうとは思っていた。だが、今じゃないだろう。

 そこで死んでいる神官のことを気に掛けろよ。かわいそうだろう。私が殺したのだが。二人とも死体を見ても眉一つ動かさなかった。警察を呼ぶこともせず、私への追放宣言を続けた。

 

 何故二人は、このタイミングで、私を追放しようとしているのだろうか。

「ほら、早く荷物を纏めて出ていくんだ」

 荷物を纏め部屋を出る前に、この殺人事件の犯人を告げようとした。

 だが、言葉を発そうとした瞬間、強制的に口が閉じられ、景色が変わった。見渡すと、近くの街に飛ばされていることが分かった。魔術師の操作と転移魔法だろう。結局、犯人が私だということを伝えられずに彼らと別れた。とっくに彼らは答えに辿り着いているはずではあるが。

  

 翌日、新聞の一面には、『有名パーティーのリーダーと魔術師が逮捕! メンバーだった神官殺しを自首!』という文字があった。

 驚いた私は数日後、面会可能になってから留置所に向かった。

「追放された君がわざわざ顔を出しに来るとは。殺人を犯した僕を嗤いに来たのかい?」

 面会に訪れたリーダーはそう言った。

「いえ。謎を解くために」

 そう、何故私は殺人現場で追放されたのか、という謎を。

「そうか、あの時のことを謎だと」

 リーダーは微笑みながら言った。

「気付いていたはずです。私が神官殺しの犯人だと」

「君も気付いていたはずだ。君が解決した、いや解決したことになっている殺人事件、その全ての犯人が私達だったということを」

 私の顔が強張っていくのを感じた。


 私がパーティーに入ってから起きた最初の殺人事件、その時から気付いていた。魔術師の魔法で隠滅された証拠を探偵のスキルで発見した私は、リーダー達が犯人だと分かっていた。だが、高レベルの探偵以外気づけない完璧な犯行に周りは気付いていなかった。

 私は迷った。リーダー達には恩があり、仲も良かった。その場は一番怪しいと思われていた人物を犯人に仕立て上げた。


 事件が起こるたび、その場で最も怪しい人物に罪を擦り付けた。魔術師が隠し切れなかった証拠は全て隠した。そのたびに、私の心は疲弊していった。もう、二人を庇うのはやめよう。そう思ったが、長い付き合いとなった二人を見捨てられなかった。そんな時だ。神官がパーティーに加入したのは。

 

 神官はずっと私達のパーティーを疑っていた。殺人事件の真犯人ではないかと。それを探るためにパーティーに入ったのだ。そして、見てしまったのだ。私の部屋、そこに隠してあった数々の証拠を。心が揺れていた私は証拠を処分せずに隠していた。

 見られた、そう気付いた私は衝動的に神官を短剣で刺した。倒れ、事切れた彼を見て、私は絶望した。急ぎこれまでの証拠を処分し、現場をそのままにして二人を呼んだ。普通なら警察を呼ぶ場面だ。だが、動転していた私は二人を先に呼び、通報はしなかった。その後、追放されて今に至る訳だ。


 何故あの場面で私は追放されたのか。これは今になって思えば、かなり無理やりだが私を逃がしてくれたのだろう。だが、二人はこれまで平気な顔をして殺人を犯していた。何故今になって、私を庇ったのか、この謎が解けなかった。


「何故、なんで私を庇ったんですか……」

「簡単なことだよ。僕達は仲間だったじゃないか」

 共犯者という意味だろうか。

「共犯者という意味じゃない」

 不満げに返された。顔に出ていたようだ。

「親しい人を庇おうとするのは、普通のことだろう?」

 大量殺人犯が普通を語った。だが、納得がいった。私が二人を庇っていたように、二人も私を庇ってくれたのだと。

「まあ、もう仲間じゃないけどね。改めて告げるよ」

 リーダーは深呼吸して、告げる

「僕達みたいな殺人者とは別れて真っ当な生活を送るんだね」


「君をパーティーから追放する」


 

 

  


 















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殺人事件と探偵追放 竜田くれは @udyncy26

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