帝国の黎明
魔力目覚める
第2話
宇宙アリの討伐ミッションに挑戦することにした。
ネットで初心者に向いているミッションを調べてみた。
掲示板や銀河知恵袋では人によっていろいろなミッションが挙がっていた。ある程度のミッションに絞られるものの、少し悩んだ。
ミッション・レビュー誌には初心者には宇宙アリの討伐ミッションがいい……と書かれていた。
宇宙アリの討伐ミッションは銀河辺縁星系を中心に生息している有害昆虫ギノジェオプス――通称宇宙アリ――の討伐ミッションだ。
僕はこれまで宇宙アリが存在するなんて知らなかった。
銀河は広いから多種多様な生物が棲んでいる。宇宙アリを討伐する仕事があるんだ、そうなんだ~という程度のものだ。ものの知らなさ加減は半端ではない。
それを駆除する仕事のイメージがつかない。調べてみるか……。
どうやって駆除するのか、動画を探してみる。あった。黒い六本の足を持った宇宙アリは、目が怪しく赤い光を放っている。動画は20秒ほどのショート動画で、宇宙アリの懐に入り込んでいく。ビームライフルで体長2メートルほど(!)の宇宙アリの心臓を射抜く……なかなかハードかもしれない。
動画を見て学んでいくうちに宇宙アリの討伐ミッションのイメージが固まってきた。基本宇宙アリは夜行性なので夜のあいだ、討伐ミッションを行う。マップや情報はナビAIを同行させるので安心だ。彼女といっしょに行動しながら宇宙アリを一匹ずつ倒す。倒した宇宙アリは回収シールを張り付けておいて行政院管轄の巡回シップの到着を待つ。巡回シップは討伐した頭数に応じて印を押していくらしい。
ただ現地に着いてからも学ぶことは多いだろう。
アリというからには、集団で生活して女王アリがいて……ということくらいはイメージできる。つぎつぎとアリを倒していき、そのトップの女王アリを倒せればミッションクリアなんだろう。
もっと調べていくとビームライフルは行政から貸与制で、倒したアリの頭数ごとに補助金が出るとのこと。講習もあり、バックアップ体制もバッチリだ。
さらにネットでは初心者の討伐ミッションの入門にもいいし、ミッションの基礎を学ぶには適していると書いてあった。
これは面白そう!
討伐ミッションと言うとゲームなんかでゴブリンを打ち倒すものというイメージが僕にはある。中学生のとき満天堂のリング・キングダムというゲームが流行った。
画面に所狭しと配置され、襲い掛かってくるゴブリンをこん棒で叩いたりや剣で切り裂いたりするゲームだ。
僕はこのゲームがとても好きだったが、あんまり上手くなかった。ちょうど隣に住んでいた友達によく誘われてやったが、好きな割に実力が全く出せずに終わった。
ゴブリンはアリじゃないけれど、要は似たようなものだ。ゴブリンをアリに置き換えればいいんだろう。
あの手のゲームは画面上の敵を全滅させてクリアする。次のステージでも同じ敵と戦うんだけど、ゴブリンにも上位種族がいて比較的大きいオーガなどもいた。
ネットによると宇宙アリもいろいろなタイプがいて餌を探してくる働きアリと外敵から巣を守る兵隊アリと巣で幼虫を育てるアリと女王アリが存在するらしい。ギノジェオプスは警戒心があまり高くなく、のんびりしているという。ビームライフルで射抜く瞬間だけ気をつけておくことと警告されている。
どうして宇宙アリを駆除する必要があるのかと言えば、土地をぼろぼろにしてしまうので討伐対象になっているのだ。
ギノジェオプスの情報を漁っていくうち、昆虫採集が好きだった幼少時代を強く思い出した。地球産のアリはみな小さく、小さなガラスタイプの容器でコロニー丸ごと観察できた。アリの生態もなんとなく知ってるつもりだし、まったく知らないというわけでもない。ギノジェオプスは地球産のアリを大きくしたようなものだ。
つまり宇宙アリの討伐ミッションは相性バッチリのミッションだ。
宇宙アリの討伐ミッションはふたつの難易度の違うミッションが含まれる。ひとつは働きアリの
もっと言えばいろいろな星系の宇宙アリをまとめて掃討する、大規模ミッションなんていうのもあるんだけど、それは端からお呼びでない。そういうことをするのは銀河皇帝になるにしてもまだ先のことだろう。
ふつうにミッション選択で行政サイドがおすすめしているのは働きアリの殲滅ミッションなので、これにする。
世間では初心者向けと言われているようだが、じっさいに軍人も参加したことのあるミッションであることも忘れてはいけない。
難易度の格付けは13。中難易度……。
貧弱なおじさんにとってこれはなかなかなレベルの格付けだ。
僕みたいな下手くそなおじさんでもミッションクリアできるか。やってみるしかない。スペースシップの用意もある。
銀河行政院にも届け出を出した。
宇宙アリの討伐ミッションに挑戦しようと思う。
***
スペースシップに乗ってセシリアの案内で辺境星系惑星ジィジィーに来た。
宇宙アリ討伐にあたって行政院から初級・中級・上級の三種類の難易度からミッションを選べると案内された。一般的なハンターに要求されるのは中級からだ。
初級は聞けば日帰りでハンター体験をするので討伐自体が無い。これではミッションも何も無いではないか。でも僕のような下手の横好きでやってるような人間じゃ、初級のほうがいいのかな……。
でも実地でハンターをやるにしたって討伐ができなければ始まらないよね。ここは敢えて中級を選んだ。
ミッションの大まかな工程では5つの段階を攻略する必要がある。
がんばろう。
初日は先輩ハンターとの顔合わせだった。講習付きなので先輩ハンターが教えてくれる。彼の名前はギルベルト・ターナー、灰色の髪をオールバックにした青年で気難しそう。首に眼鏡をぶら下げている。顔つきは二枚目で鋭い目つきが全体の印象を損ねている。
「ようこそ、カヅキさん。講習は私が担当します。よろしく」
印象の割には爽やかな対応をされたのでさっきの言葉は撤回とする。
惑星ジィジィーは見渡す限り、砂漠で、ハンターテント周辺にしか町と呼べるものがない模様だ。空は晴れ渡っている。聞けばほとんど雨も降らないらしい。
地球で言うところのエジプトみたいなところだ。
ハンターの装備をとりあえず貸し与えられた。
ビームライフル一丁だ。
「ビームライフルは設定で銃弾のショットタイプが選べる」とギルベルト。
つまみを弄ると、一つ目は、赤い印。拡散弾というワイドショットが出せる。一発の威力は小さいけれど、広範囲にビームを発射できる。密着すると強力だ。ただ、発射までが遅い。
もう一度つまみを動かすと、二つ目は緑の印。充填弾。前方集中の太いビームが出せる。弾を当てるためにはアリの正面に立たないといけないけれど、相手との距離に関係なくダメージが与えられる。発射までは速い。
「さぁ、カヅキさん。ハンター講習と行こう」
夜になり、ギルベルトについて行く。
何度かハンター講習を受けて分かったこと……。
まずアリは意外と怖い。体長二メートルくらいのアリを相手にするんだけれど、地球で言えばゾウくらいの生き物を一頭倒すのに近い。ギルベルトの指示で緩慢な宇宙アリの懐に、急いで近づいていって充填弾を向ける。ところが赤い宇宙アリの瞳と目があった。
「ひッ……!」
とっさにUターン。ダッシュで逃げる。
地球のアリの巨大版とか書いたけれど、その迫力は段違いだ。とにかく怖い生き物のように思った。逃げた僕をよそにギルベルトが宇宙アリを仕留めた。ギルベルトは意外にも僕を責めなかった。
「初心者なら、仕方ない!」
毎月、ハンター講習へは5組から8組の応募があるらしい。そのなかでも中級を選ぶ初心者ハンターは僕以外にも大勢いて、さいしょの講習で宇宙アリを倒せるのは一組程度だって話だ。その夜は講習でギルベルトが宇宙アリを三体仕留めた。
次の夜も講習に出かけた。その夜はなんとか宇宙アリを一体仕留められた。ビームライフルを、初めてしっかり使った感想としては充填弾がしっくりくる。
やっぱり宇宙アリがこわいので大きく逃げ回ってしまう立ち回りで、だから発射までが速いほうが、余計な心配が少ない。引き金を引くとビームを発射できて引きっぱなしにすると連射できる。熟練したハンターのなかにはビームライフルの設定を弄って、破壊力を増した弾を出せる人もいるらしいけど、おじさんにはわからなかった。
宇宙アリから攻撃を受けることはないけれど、いちばん嫌だったのは毒汁という宇宙アリ特有の習性だった。毒汁というのはハンター同士のあいだのスラングみたいなもので、正式にはアンティングというらしい。宇宙アリが自分の匂いを周囲に擦りつける習性だ。それが討伐の最中に飛沫となって飛んでくる。これが臭い。
この匂いはギルベルトによれば、ハンターのほとんどが「慣れ」でやり過ごしているというものらしく、奥深いなと思った。
宇宙アリを一体仕留めた話に戻ると、宇宙アリは必ず心臓を撃ち抜かないと死なないことは覚えておくべきだった。
ビームライフルの
あとでギルベルトに言われたのは、あのまま行ってたら死亡コースだったらしい。ゾッとしてその夜は一睡もできなかった。
ギルベルトの講習ではほかに毒餌を置いて宇宙アリをおびき寄せるなんてこともした。宇宙アリは知能はほとんどないので簡単におびき寄せられて来た。これはすこしマニアックな狩りの仕方でギルベルトもあまりやらないらしい。それだけ僕の性能がポンコツだったってことです……。
とりあえず開始まもなく、死ぬ可能性があります……。
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