てるさんスペシャル 3

 翌日、学校終わりに駅裏のカフェに寄ってあさひくんと二人、わたしは抹茶のパフェ、あさひくんはチョコのパフェを頬張っていた。抹茶とチョコで悩んでいたわたしに「二つとも頼んでシェアすりゃいいじゃん」と魅力的な提案をされ、ありがたくそうさせてもらう。



「そういえば、昨日ちーちゃんにラインしたの?」

「ちづに?なんて?」



 放課後、あさひくんから職員室に行くから教室で待ってて、と言われたので、ちーちゃんと一緒に待とうとしたら、ちーちゃんは「柚ちゃん、じゃあね」とわたしの横を通り過ぎる。



「あれ?ちーちゃん帰るの?用事?」

「うん?柚ちゃんはあさひくんと用事あるんでしょ?昨日、あさひくんからライン来たけど」

「え?そうなの?」

「え?違うの?」



 「用事は……あるかも……?」と曖昧に答えたわたしに「うん?じゃあね?」と頭にハテナを浮かべながら去っていくちーちゃん。わたしもちーちゃんと同じ顔してたと思う。

 カフェ行く以外に約束してたっけ?

 忘れてたら怒られるよね?

 え、なんだなんだ、何の約束だ、と頭をフル回転させる。



「……ず……ゆず!柚!」

「っわ、びっくりした、早かったね」

「行ける?」



 という出来事を経て、今に至る。

 「なんか約束してたっけ」とあさひくんの顔を伺いながら聞いてみると「や、べつに?」と何ともあっけない返事にホッとする。

 でも……



「用事ないのに用事あるって言ったの?」

「あいつらいるとうるせぇから」

「今度はみんなで来ようよ」



 ふっと鼻で笑い、自分のパフェとわたしのパフェを交換。

 あさひくんは甘いものを食べてるイメージがない。なんなら苦手な方だと思う。普段飲むものもブラックコーヒーやお茶だし、寄り道して食べるクレープもしょっぱい系を選ぶ。

 パフェを提案したのは間違いだったかなぁ、なんて思ったけど(意外と)美味しそうに食べている。



「どっちの方が好き?」

「何が?柚と二人んときか、みんなでいるときか?」

「違くて、抹茶とチョコ」

「あぁ。どっちでもいい。柚は?」

「ん~、どっちも好きだけど、チョコの方が好きかな」



 はい、とチョコの方を渡される。



「柚は?二人んときとみんなといるとき、どっちが好きなん?」

「ん~、あさひくんといるときは楽しいっていうより落ち着くが勝つけど、みんなでいるときは楽しいが勝つかなぁ。どっちも好きだよ」

「俺は柚と二人んときの方が好きかも」

「え?」

「こうやって、柚とのんびり過ごしてる方が好き」

「……二人が聞いたら泣いちゃうよ」



 びっくりした。

 ドキッとした。


 あさひくんは普段から自分の意見をはっきりと口にするから、良い意味でも悪い意味でもドキッとする発言が多い。いまのは免疫がついているわたしでもドキッとした。

 危ない危ない、あさひくんじゃなかったらキュンとしてた、と心を落ち着かせる。


 それから、いつも通りのあさひくんといつも通りに徹したであろうわたし。

 パフェを食べ終えてレジに向かうと「ここは俺が出します」とあさひくんが財布を持つわたしの手を阻止する。



「いいよ、割り勘にしようよ」

「いいから」

「なんでよ」

「給料が出たので」



 流れるようにお会計をして店の外に出るあさひくんを追いかけて、しつこく話を聞くと、バイトして初めての給料が出たこと、初めての給料は一番に柚(わたし)のために使いたかった、とのことだった。



「なんでわたし?」

「なんとなく」

「そこはかなちゃんたちが一番じゃないの?」

「あの人らにもなんか買う」

「え~、じゃあもっといっぱい頼めばよかった~」

「また今度な」

「ちーちゃんや勇太くんには?」

「あいつらはすぐ調子乗るから」



 あ~、だから二人が良かったんだ。な~んだ。


 ……『な~んだ』って。

 何が『な~んだ』なんだ、わたし。


 ふとした感情に戸惑う。

 あれもこれもあさひくんがあんなこと言うから、変に意識してしまう。

 そんなことを考えているわたしに構わず、どんどん先を歩くあさひくん。あさひくんは幼なじみで、友だち。それ以上でもそれ以下でもない。いままでもそうだったし、これからもそう。



「柚」



 先を歩いていたあさひくんが、振り返ってわたしを待ってくれている。

 ごめん、と少し早歩きをしてあさひくんに追いつくと「また考え事?」なんていままで何百回も言われてきた言葉を聞いて、さっきの感情、『な〜んだ』に隠されたは勘違いだろう、と思うことにした。

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