第10話

 でも確かなもの。確かなものってなんなんだ。なにもない。自分を自分たらしめるものが。アイデンティティが。あるのはユーチューブで得たライフハックやらSNSに転がるバカけた陰謀論、涙と鼻水のしょっぱい味。推しの誕生日、雨の匂い、好きな食べ物くらいなものだ。もういっそ、このまま怪獣に喰われてしまうのもいいのかもしれない。俺がいなくなったところで悲しむ人なんかいないだろうし、生きてやりたいことも特にない。

 「死んじゃだめだ」推しが言う。ほなやめるか。

 「でも俺、もう夢も希望もないんだ」

 「仕方ないなぁ、僕の力を貸してあげるよ」彼女は、俺の手を包み込んだ。

 「力?」ドギマギする。柔らかい。昔水族館で触ったヒトデくらい。

 「僕の力が君を守るよ。信じるよ。肯定する」

 俺は高揚感に満ちていた。アドレナリンが汗のように吹き出している。心臓はナイトofナイツ並のBPMで脈うち、顔が熱い。何より懐かしく、優しい気持ちがオーラのように俺の体を包み込んでいた。こういうのを幸せっていうのだろうか。今ならビームでもなんでも撃てる気がするそんな気がした。

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