エンディング

Last Part:「完結したもの、続くもの――」

「――……んん?」


 悪くはない心地の眠りから、星宇宙――いや星図は。はまどろみを覚えつつ目を覚ました。


「……ぁ」


 緩慢な意識が徐々に覚醒し、観測できた世界・場所に。それが大変に覚えのある場所である事に気づき、小さく言葉を零す。

 見えたのは――自宅。自分のアパートの部屋内の天井であった。


「あぁ……戻って来たのか……」


 すぐに、TDWL5のゲーム世界――を模した別の世界宇宙より、現実に戻って来た事を思い返し。

 波乱万丈の旅路から、急なものとなってしまった帰還を思い返して。

 それが終わってしまった事に、どこか寂しいものを覚えてしまう星宇宙から戻った星図。


「……!――そうだ、モカはっ!?」


 しかし。その冒険を共にした相棒の、モカの身についてを直後すぐに思い返す。

 その安否を、所在を確認しなければと思い立ち。

 そして真っ先には、モカの元は合成音声ソフトキャラクターであることから。その身の所在の可能性を、意識を、頭上に置いてあるマイPCへと向け。

 星図はその身を跳ね起こそうとした。


 むにっ――と。


 何か重くも柔らかい感覚が、その星図の身体に伸し掛かり、動きを阻むように伝わったのはその直後瞬間であった。


「っ――んっ?」


 思わぬそれに驚き、しかし直後には星図は自分とは別の気配をそこに感じ。

 視線を零す。


「――……うぅん、むにむに……」


 そこに在り居たのは、冒険を共にしてきた相棒――他ならぬ、〝路宵郷 もか〟であった。

 なにか幸せそうな寝言を零しながら、星宇宙の身体を抱き枕代わりにでもするように。全身で思いっきり抱きついて、その自慢に乳房などを押し付けている。


「も……モカ……!?えっ……あれ……!?」


 しかし、一方の星図に走ったのはまた別種の驚きだ。

 ここは現実世界。一方モカは、あくまで音声合成ソフトであり架空の存在のはずなのだ。


 だが今のこの現実の世界において、目の前でモカは確かに存在し。そして抱きつく彼女からは確かな体重、触れる感覚感触、気配と、なにより体温の温かさを感じた。


「モカ……現実で、モカに実体が……?」


 理由は分からないがその事実に思い当たり、また驚きの声を零す星図。


「……って――あれ……?」


 しかしそこで、星図はまた別の〝ある事〟に気づく。

 それは、抱き着くモカを見下ろすにあたって一緒に目に入る――自分の〝華奢な身体〟……


「――!」


 それに気づき、星図はモカに抱き着かれたままながらも、その半身を勢いよく見える。

 視線を向けたのはベランダとを繋ぐガラス戸。見るに今は夜で、室内の光のおかげでそこに自身の姿が映る。


 そこに移ったのは――鮮やかな青髪の美少女。

 ――美惑 星宇宙の、その姿。

 そしてその動きは、今の星図の取る行動をそのまま映している。


「え……えぇぇっ!?」


 そう。星図の、その身姿は星宇宙のそれの、美少女の身体のままだったのだ。


「え、え……なん……!戻ってな……っ!?」


 それに、今度こそ大きく困惑狼狽する星図だが。


「ひぁっ!♡」


 しかし直後。星図は変わってそんな素っ頓狂で、可愛らしく色の含まれた声を上げてしまった。

 その理由原因は、今の瞬間に星図の身体に。乳房に、尻腰に太腿付近に走った、甘い電流。


「っぁ……え……?」

「むひひぃ~……♡星ちゃんのお尻や太腿はえっちだなぁ~……♡」


 その原因。犯人は他でもないモカ。

 彼女は、引き続き星宇宙の身体である星図に抱き着き。そしてその上で星図の乳房や、乳尻太腿をまさぐり触っていたのだ。

 そしてその口は、寝言にしてなお下心丸出しの台詞を漏らしている。


「お胸はちょ~っと控えめだけどぉ……これもまた持ち味だよね~……♡」


 そして今度は、正直慎ましい星図の乳房をサワサワ触りながら。そんな品評の言葉を漏らしている。


「…………」


 次の瞬間。

 星とはそんなモカをジト目で見下ろしながら、そのほっぺたをムギューと抓り上げた。


「!?――ふひっ!?ひはいひはいひはい……っ!?」


 その走った痛覚にモカは意識を覚醒。

 ガバっと上半身を跳ね上げて起こし、しかし状況が読めずにその眼を白黒させる姿を見せた。


「……はれ?……星ちゃん……?ここ、星ちゃんのウチ……なじぇ?」


 しかし一拍置いた後に、モカはまずは目の前に星宇宙の姿で星図が居ることを確認。

 そして、同時に今の自分等の居る場所が、星図のアパートである場所を聞く。


 前のFLHの話の補足になるが。

 モカが、彼女のソフトがPCにインストールされた段階で。それをベースにFLHは彼女に自我の元を、いくらかの知識と一緒に与えたとの事であり。

 それが、星宇宙とモカが向こうの世界で出会った時に、すでに彼女が星宇宙のいくつかの事を知っていた理由であった。


「んん……星ちゃん?なんか怒ってる……?」

「……このスケベ相棒」


 そして、モカはその星図が何か怒っている事に気づくが。

 星図にあっては、その所在安否を大分心配したモカからの。こっちの気持ちも知らずのセクハラ三昧から、少し拗ねたのであった。



「そういえば、星ちゃん男の人の身体に戻ってないね?」

「うん、それなんだ……」


 そんな、驚きを一時的にそっちのけにしたトンチキスケベ騒動はさておき。

 二人の話題は、まだ解決しない疑問の数々へと戻る。


「――ん?」


 しかし直後。星図の意識はすぐ傍に置かれたマイPCに向く。

 そこにはいつの間にか、小さなコンソールウィンドウが開いていた。


FLH:[_]

FLH:[希望の星_]

FLH:[無事に帰還したようだな_]


 それは、向こうの世界でもあったコンタクト。

 そこに表示される名称がそのまま示す通り、FLHからの呼び掛けであった。


「えっ、FLHさんっ!?」

「ふぇっ!?」


 それに気づき、PCのモニター画面前まで這い寄る星宇宙にモカ。


「帰還はしたけど、これって……ええとっ……」


 その呼びかけの打ち込み文字を読み。しかし、自身の身体やモカの事など、抱える多々の疑問から声を上げ。その詳細を尋ねるべくコンソールへの返信を打ち込もうとする星図。


FLH:[大丈夫だ_]

FLH:[落ち着いて_]

FLH:[全て説明しよう_]


 しかし、打ち込むまでも無くFLH側には星図の声が聞こえているらしく。

 コンソールにはそんな言葉がまず打ち込まれ、そして説明が開始された。


 まず、FLHは現在も星図等を向こうより観測していると言う。

 これは世界を移転した星図等の身体状態に影響が無いかの、経過観察のためを理由するらしい。


 そしてだ。星宇宙の身体となっている星図と、モカの存在についてだが。

 FLHはこれを、それぞれへの功績に向けての〝ギフト〟と答えた。


 星図には、性別を転換を可能とする身体を。それによっての、人生と生活においての新たな可能性の贈り物を(というわけでヴォートの例に見たように、性別の自在の転換を可能とする――つまり男性にも戻れるらしい)。


 モカには、現実での実体を。それにより、相棒たる星図と歩むことを可能とする贈り物を。


 ――との事だ。


 なお、ヴォート――から戻り寿有亜とヨロズにあっても。

 寿有亜の自宅に二人して戻り、こちらと同じ状況にあるとの事だ。


 そしてだ。一番気になっている向こうの世界、その人々についてだが。

 今の所、TDWL5のゲームにもあったように。トゥルー・エンドを迎えてからのその延長を、復興を目指す道を辿っているらしい。


 そして向こうとのコンタクトについては、FLHが調整修正を試みている所であり。コンタクトは今の所、FLHを介しての言伝のみ可能とする状況を受け入れて欲しいとのこと。

 将来的には、臨むならば向こうとの往来の実現を可能とすることを目指しているようだが。それは少し気長に待って欲しいとの事。


 他、細かい調整事項が。コマンドコンソールだけでは伝えきれないのか、ご丁寧に各所ファイルにまとめられて送られてきた。


「ほぇぇ……」

「今更だけど、凄い人?だなFLHさん……」


 その数々に驚きつつ。

 FLHのこちらの世界にも介入する、ハイスペックという言葉でも足りないそれに。恐れ慄く域で評する言葉を零す星宇宙であった。



FLH:[合わせて_]

FLH:[君と、生の祝福との連絡手段を設けておいた_]

FLH:[活用してくれ_]


そんな所へ続けて、コンソールコマンドにそんな知らせの文言が打ち込まれる。


「――ん?あっ」


 合わせて直後。星図のスマホのSNSアプリが着信を知らせた。

 それは寿有亜からのメッセージ。

 どうにもSNSを繋いでおいたことが、その連絡手段のようだ。


《――大丈夫かい?そちらにもFLHからの説明はあっただろうか?》

《自分とヨロズにあっては無事だ》

《どうにも状況は同じのようだ、戻って尚びっくりだな》


 メッセージはそんな、向こうとこちらの状況が同じある事を伝え、確認し。

 合わせて、率直な感想を伝えるそれ。

 文言の丁寧ながらの端的な様子が、寿有亜の生真面目さを見せていた。


「向こうもひとまず無事か――」


 そんな事を感じつつ、同時に向こうの無事に安堵しつつ。

 星宇宙はこちらの無事をまた伝え返すべく、返信のメッセージを愛用しているスタンプを添えて返した。



「――ふぁ……」


 一連の事実確認が取れ、説明が終わり。

 星図が見せたのは、困惑というか呆れと疲労。

 まさかの展開に、理解と気持ちが追い付くと同時に、どっと疲労が押し寄せて来たのだ。


「まさかの……」

「ふぇぇ……また、ビックリなことになっちゃったね~……っ」


 驚き、どうにか一言を零す星図。

 それに背後からまた抱き着くモカからは、どこか柔らかくの驚きの声が零される。


「はぁ――なんか、戻って来たと思ったらまだまだトンデモだけど……」


 そしてしかし、星図は一つのため息を吐いてから。己の心を整理し持ち直すための、そんあ言葉を零し。


「とりあえず――モカ。キミとの相棒生活は、これから長く続くみたい」


 そして、今も自身に寄り添い抱き着く彼女。

 憧れの最推しから、唯一無二の相棒へとなったモカへの。そんな言葉を送る。


「ふっふ。だねっ、星ちゃんっ」


 それに、モカもニシっと笑って同意の声を返す。


「改めて、これからよろしく。モカ――」

「こちらこそだよっ、星ちゃんっ――」


 そして二人は、そんな約束の言葉を交わし合った――



――クエスト・コンプリート――

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