Part36:「潜入」

 暗闇の海中へと身を投じた星宇宙。

 海水の圧を直後に身体が感じ、同時にスーツ越しにも心地の良くない冷たさが襲う。

 しかし気を持っていかれては居られない、すぐさま次の行動に映る必要がある。

 

 暗い海中を、腕に取り付けた位置情報端末の情報を頼りに当てを付け。投下した水中スクーターを探す。

 次には海中のすぐ先に水中スクーターのシルエットを見止め、そちらへ泳ぐ星宇宙。

 一足先に同時に飛び込んだモカが水中スクーターに取り付く姿を見せ、それに続き星宇宙も水中スクーターに取り付く。

 同時に視線を一度交わし合い、お互いの所在を確かに確認し合う星宇宙とモカ。


 ――ドボォ!というような鈍い衝撃音と。そして頭上、海面近くで何かの大きな気配がしたのはその瞬間だ。


(!)


 見上げ、目を剥く星宇宙。

 飛び込んで来たのは、海中に巨大な物体が――回転翼機、ストライク・ヴァルチャーが落ち水没して来た光景だ。

 それこそ、今まで星宇宙を運んで来た機体。先に星宇宙の感じた「撃墜」の感覚は間違いでは無かった。

 機は、敵拠点艦の「エクログロフス」搭載火力の火砲を受けて、撃墜されてしまったのだ。


 海中に没し、朽ち果てた姿で力なく沈んでいく輸送型SV機。その姿に顔を険しくする星宇宙。


(ッ)


 しかし現状は、それに気を持っていかれ悔いてばかりもいられない。自分等にはまた担うべく役目がある。

 星宇宙とモカは再び視線を交わして意思を確認し合い。

 星宇宙が水中スクーターの操縦系を掴んで着き。その星宇宙の身にモカが抱き着く。

 そして二人は敵拠点艦への接近進入を目指して、暗い海中を進み始めた。



 暗く冷たい、本能的な不安恐怖を煽る海中を進んでいく星宇宙とモカ。

 近くには他の二組の水中スクーターのシルエットが微かに見え、その所在が確認できる。

 永遠に続きそうな海中での不気味な旅路は、しかし少しの後にはあっけなく終着の時を迎えた。


 チームの水中スクーター隊形は、海中進んだ末に浅瀬に到着。

 底が近くなるに伴いそれぞれの組は浮上に移行し、海面上に顔を出した。


(ふぁっ)


 マスクの内で気持ち吐息を吐く星宇宙。

 到着し浮上した場所は、岩礁が広がり広く足場となっている一帯であった。

 向こうで同じく浮上した、陣頭指揮を担当するファースがハンドサインで指示を寄越し。それを受けて各組は移動。

 遮蔽物とできる岩場の陰で集合した。


「――っ、輸送機が……!」


 各組は集合。

 警戒しつつ再編成を行いながら、水中装具を取り払っていく。

 星宇宙もマスクとゴーグルなどを取り払い、代わりに暗視ゴーグルを装備ながら。しかし輸送型SV機が撃墜された件に触れて声を上げた。


「別の機が救助する、それに任せるんだッ。我々は自分の役割を果たすッ」

「ッ、あぁ」


 しかしそれにファースから返るは、割り切るよう促す言葉。。それに星宇宙も後ろ髪を引かれつつも、改めて割り切り声を返す。


「!」


 遮蔽物とする岩場の向こうより、爆音が上がり聞こえ届いたのはその時だ。少し驚き目を剥き、岩場より覗きその向こうを確認する星宇宙やファース。

 その向こう、敵艦「エクログロフス」の巨大な船体の一角で、爆炎が上がっている様子が見えた。

 さらに間髪いれずに立て続けに、別の一点で二度目の爆炎が上がる。


「おっ始めたなッ」


 それに上がるはオックスの皮肉気に囃し立てる声。

 今の二回の爆炎にあっては味方からのもの。SV機部隊の護衛機が、抱え装備して来た対艦ミサイルによる攻撃を開始したのだ。


「行くぞ、行動開始だ。彼らが敵の注意を引いているうちにッ」


 しかしそれに長く注意を引かれる事無く、またファースが促し発し上げる。

 SV機からの対艦攻撃はあくまで「陽動」だ。

 彼らが敵艦の注意を引いているうちに、チームが艦内に潜入する手はずだ。


 ファースの促す声に呼応し、各々はそれぞれの装備火器を取り出し構え。行動を開始、岩場を飛び出した。



 チームは分散、距離を離した隊形を形成し。進路上にある岩場に遮蔽を繰り返しながら、岩礁上を進み座礁した敵艦を目指す。


 艦内へ侵入するためのアテとしているのは、「エクログロフス」の艦体側面に設けられる搭載艇のための開口部だ。

 幸い、その目当てはすぐに見つかる。

 搭載艇収容のために設けられた開けたスペース。そしてそこに配置したらしき数名のParty兵の姿が、暗視ゴーグル越しに見えた。

 空からのSV機の襲撃に伴い、やはり別方向からの侵入も警戒しているようだが。しかし遠目にもその動きは狼狽えおぼつかない様子が見える。


「自由に撃て」


 それを見止め、次にファースが発したのは自由攻撃を促す指示の声。

 そして星宇宙、ファース始め各々は各火器を突き出し構え――各個に射撃を開始した。


 星宇宙のSCAR-Hにファースのレーザー・アサルトなど。各々の火器から撃ち出された実包弾やレーザーが、敵艦の搭載艇収容空間に撃ち込まれ飛び込み。そこでおぼつかない警戒に着いて居たParty兵たちを瞬く間に撃ち抜き、崩し沈黙させた。


「――新手は無し、幸運だな。行くぞッ」


 敵の歩哨を屠り、それからそれ以上の敵が出てこない様子を見て。ファースはそれを呟き、次には続く行動を促した。

 チームは遮蔽を解き、「エクログロフス」の船体の傍、搭載艇収容スペースの真下まで駆け込む。

 間近で見て改めてその巨艦っぷりに圧巻されるが、そればかりに意識を取られてもいられない。


「三人で先に行く、他は援護を」


 また促すファース。

 まず三人が先行して登り乗り込み、それぞれの相方が下で援護に着く算段だ。

 モカに、オックスとスノーマンが警戒の姿勢に入り。

 星宇宙と、ファースにクラウレーが乗り込む準備に入る。


 先に乗り込む三人が繰り出すは、それぞれのタクティカル・スーツないしスカウト・スーツの腕に組み込まれ備わるワイヤー射出装置。

 三人がそれぞれ腕を突き出し翳し、次にはそれぞれの射出装置からワイヤーが打ち出された。

 撃ち出されたワイヤーは一瞬の後には、上の搭載艇スペースの天井に入り込み密着。星宇宙等はそれを強く引き、確かな固定密着を確認。


「よしッ」


 それを他の者にも伝わる声で発し、伝える星宇宙。


「いいか?行くぞッ」


 そしてファースの合図と同時に、星宇宙等三人はそれぞれワイヤーの巻取り装置を解放。次に瞬間、ワイヤーの巻き取られる勢いに引かれ、星宇宙等の体は飛び上がる勢いで引かれ上昇した。


「ッぅ」


 勢い、風圧を感じたのも一瞬。

 次には星宇宙等の体は、搭載艇収容スペースへと登り至っていた。

 それぞれは巻取り上昇の勢いを利用して、体をスイング。自身の身体を放り込むそれで搭載艇スペースに飛び込み、火器を構えながらその空間内に足を着いた。


「――クリアッ」


 足を着いた瞬間に、星宇宙等それぞれは火器を構え、クリアリングの視線を瞬時に走らせる。

 そして星宇宙はスペース内にアクティブな敵が居ない事を掌握し、それを知らせる声を発し上げた。


「クリアだッ」

「クリア了解」


 クラウレーからも続き同じくの声が上がり、それぞれに了解する声をファースが上げる。


「上はクリアだ、上がってくれ」


 続けてファースは、下で援護に残ったオックスたちやモカに向けて。続いて上がってくるよう促す声を通信で送る。

 その間、星宇宙等は上で今度は援護に当たる。

 直後にはモカたちが打ち出したワイヤーが飛び込んで来て、それに伴いモカやオックスたちが上がり空間に飛び込んで来た。


「――お邪魔しますは、わりかし素直に行けたなッ」


 飛び込んで来るや否や、オックスがそんな皮肉気な声を発する。


「油断は禁物だ。Partyも間もなく体勢を立て直すだろう、ここからは激しい戦闘になるぞ」


 それに釘を刺す言葉を送るファース。

 そんな言葉を交わしつつも、各々は体勢を再構築、再編成。


「こっからだねー」

「あぁ」


 星宇宙とモカも合流してコンビを組みなおし、息を整え直す。


「皆、よくよく警戒してくれ――開始するッ」


 そしてファースが各々へ忠告を促し。

 チームはこの敵艦「エクログロフス」の中枢を目指すべく、進行行動を再開した――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る