Part21:「別れと病みと呼びかけ」
「――本当に君たちには救われた、改めて感謝するよ」
モール前に機体を降ろしたSV機の兵員輸送室より、そこに乗り込み立っているファースが。地上からそれに相対している星宇宙とモカに向けて、そう礼の言葉を紡いだ。
大分のイレギュラーはあったが、このモール・ロケーションを舞台とした一連のクエストはこれにて完了。
ファースたちはこのプライマリー・ダウンワールド地方にある、彼女(彼)等の進出拠点にこれより帰還することとなる。
「とんでもない、あなたが居てくれてこっちこそ助けられた」
ファースの言葉に、星宇宙もまた正直な思いを返す。
「我々は西にある、シュクレスク旧城塞公園をこの地の拠点としている。もし機会があれば尋ねて欲しい」
ファースはそう教え伝える言葉と合わせて、「本当は今すぐ招きたい所だが」と惜しむような言葉を続ける。
実際、このクエストはそのままファースたちに同行する選択もできるが。
星宇宙はこの後にまた別のロケーションを目指す予定・計画があり。ファースたちとは一度分かれる選択を取ったのだ。
「はんっ、その前にくたばるオチとならなきゃだがよッ」
そこへファースの背後、SV機の兵員室の座席にドカりと座っているオックスから。またそんなお嬢様姿に似合わぬ、嘲る皮肉気な声が割り込まれる。
「ふふんっ、次に会う時には俺はもっと強くなってるさ。そしてお前さんが、ビビッて手の平返す姿が容易に想像できる」
「あァん?ほざけェ」
しかしそのオックスからの嘲る言葉に、星宇宙はニヒルに嘲りの言葉を返す。
売り言葉に買い言葉で、オックスなそれにドスの利かせた一言をまた寄越す。
「ベーシック・オックスッ」
「あぁ、失礼を」
オックスのそれにファースが毅然とした色で咎める言葉を向けるが。オックスはそれに事務的に従う色こそ見せれど、様相態度は一貫したままだ。
(うぉぉんっ♡この推しキャラとのヒリついたダーティーなやり取りたまんねぇぇっ♡)
一方の星宇宙はと言えば、外見ではその端麗な顔にニヒルな冷たい表情を取り繕っているものの。内心ではまたもオックスとのそのダーティーなやり取りの体験に、愉悦していたりしたが。
その背後では「もう放っておこう」と言うように、モカが(^ω^)な顔で生暖かく見守っていた。
「また会える日を心待ちにしているっ!」
離陸のために二重反動ローターブレードの回転を始めたSV機。その音に掻き乱されながらも、しかしその中でも確かに響く声量で、ファースは別れの言葉を機上から寄越す。
「俺たちもだよ!」
「元気でねーっ!」
SV機の離陸に伴い、安全距離を取って離れた星宇宙とモカもまた。SV機の立てる音の
中でも確かに響く声量で、一旦の別れの言葉を飛ばす。
その二人の見送りを受けながら。ファースたちを乗せたSV機は次にはローターブレードの回転数を上げて、次にはフワリをその大きな機体を浮き上がらせた。
そして緩やかな前傾進行と合わせて上昇し。上空を旋回しての警戒にあたっていた僚機と合流。
二機は編隊隊形を組み、モール施設の上空を離脱。向こうに見える大空へと飛び去って行った。
「――はぁっ、クエスト完了だっ」
「ふぁーっ、スリリングなイベントの連続だったねー……っ」
SV機の編隊が遠く小さくなるまでを見届け終え。
星宇宙はやれやれと締め括る様な一言を発し。
モカもそれまで別れの仕草でブンブンと振っていた腕を降ろして、脱力した様子でそんな言葉を零した。
《うんマジでお疲れ様っ!》
《乗り越えられてよかった……!》
《たびたび肝が冷えた……》
手元のコメント欄にはそれらに答えるように、労いやここまでの感想のコメントが流れる。
「俺もよく乗り越えられたと思う、皆もありがとっ」
そんな視聴者等にも礼の言葉を返す星宇宙。
《別にウチらは何もしてないけどね……》
《ワシ等ホントに見てただけやん》
《既プレイだけど、イレギュラー多すぎて毛ほどの助言すらできんかったぞ……》
《ただの野次馬である》
《デスゲーム配信とかでゲスな高みの見物決め込んで、ラストで因果応報食らうやーつ》
しかしそれに視聴者の皆からは、遠慮や力不足を感じている様子や、視聴者側の立場を自嘲するコメントがまた流れる。
「あっはは、確かにゲスムーブとかされてたら俺もブチ切れてただろうな――でも少なくとも、みんな面白半分じゃなくて真剣に見守ってくれてたカンジは伝わって来たよ。それだけでもありがたい」
しかし星宇宙はそれに笑って返す。
「それに、覚悟ができた――なんて言うと大げさだけど、少し気持ちが地に足ついた感じがする。だからまだ恐怖不安はあるけど、この世界の攻略にも改めてガチで挑みたいと思う。――だから、みんなせめてその様を見届けてよ」
そして星宇宙は、改めての意思表明を言葉にして。合わせて視聴者たちに向けてそんな願う言葉を紡いで見せた。
《うぉぉ……中々ヘヴィーな事をおっしゃる……》
《結構、いやかなーり重大な要求やで星ちゃんおじさん……っ》
《ちょ、ちょっとこっちにも心の整理の時間をちょうだい……》
しかし。そんな星宇宙の軽く言って見せた、しかし中々に重たいムーヴに。視聴者からは安請け合いはできない様子の、戸惑いのコメントが流れる。
「――え?なんで?俺のことずっと見守ってくれるって言ったじゃん――?」
直後。そんな視聴者の反応に、星宇宙はその可憐な瞳からスッとハイライトを消し。
静かに冷たい声でそんな台詞を発した。
「え?言ってない?ふーん、そういうこと言って俺を裏切るんだ……?じゃあみんなの事逃げられないようにしなきゃ……」
そしてまた、背筋が凍るまでの冷たく静かな声色で。そんな台詞を紡ぎ、皆に姿を届けている撮影用スクリーンの方へ、得物を捕まえようとするように手を伸ばす――
「――ヒェっ」
それを横で見ていたモカが。(^ω^;)という顔を作ってのドン引きの一声を零した。
《ヒッ……》
《怖い怖い怖い怖い怖いっ!!!》
《裏切らないです!見守ります!だからやめてもろて!》
《突 然 の 病 み ヘ ラ》
一瞬凍り付いた空気を慌て解凍しようとする様相で、コメント欄には今の星宇宙のムーヴに対する反応、宥めるコメントが怒涛の勢いで流れた。
「――あっははっ!冗談冗談っ、分かってるよ無理強いはしない。そもそも終わりの分かんない実況動画を、ずっと追いかけろなんて現実的じゃ無いからねっ」
そんな視聴者コメントに向けて、星宇宙は噴き出し笑いながらネタ晴らしのように言葉を紡ぐ。
《ほっ……》
《なんで急に病んだし……?》
星宇宙のネタ晴らしに、コメント欄には安堵するコメントや戸惑い交じりのツッコミのコメントが打ち込まれる。
「ゴメンゴメン、気を張りっぱなしだったから悪戯で気分を切り替えたかったんだ。にしてもちょっと悪趣味だったな、冗談はやっぱり下手みたいだっ」
コメントに対して、ケラケラと可愛らしく笑いながら、そんな弁明謝罪の言葉を紡ぐ星宇宙。
《申し訳ないけど、ホントまったくもって悪趣味だよぉ……(;ω;)》
《ジョークのセンス下手か……っ!(汗》
《大きな事は言えないけど、可能な限りはホント手を貸すからね……?》
そんな星宇宙に、またツッコミの言葉がコメントで流れる。
「ホントゴメンってっ」
それに謝罪を重ねながらも、クスクスと笑う星宇宙。
「でも――少しでも、できる限りでも手助けしてくれるってのはホント嬉しいなっ」
しかし次には、星宇宙は一旦撮影用スクリーンから身を翻して背を向ける。そして――
「――だから、それだけは――約 束 だ よ?」
身を捻り振り向き、愛らしさを含む動作で。
しかし瞳のハイライトを一瞬だけ再び消して、透りながらも冷たい声色でそんな一言を紡いだ。
「おーぅ」
《わーぉ》
《きゃー……》
《もうワテらのこと好きにしてもろて》
再びの冗談か、ひょっとしたら本気かもしれないそれに。
また(^ω^)な顔のモカと、視聴者コメントはシンクロして。星宇宙の真底に黒く重たいヤベェものが眠る可能性を感じつつ。
覚悟、あきらめにも近い感覚でそれぞれそんな反応を示すのであった。
そんな、冗談半分――恐ろしいことに本気半分かもしれない寸劇が、区切りを迎えたタイミングで。
星宇宙の手元真横に小さなウィンドウが投影された。
「んっ?」
「およっ?」
星宇宙とモカは、それに気づき。ここまでのヤンデレムーヴ関係のそれからまた意識を変えて取り直して、それを注視する。
それは前にも一度あった、TDWL5のゲームシステムウィンドウとはまた異なる、コンソールコマンドのもの。
FLH:[_]
FLH:[次を乗り越えたようだな_]
それは前に一度コンタクト?をこちらへ試みて来た、Future Lost Heartなる存在からの呼びかけのようであった。
FLH:[_]
FLH:[観測できただろう、世界のイレギュラーを_]
FLH:[望むのはこれの解決だ_]
FLH:[さらに次を目指せ_]
そしてコンソールウィンドウに流れ始めたのは、そんなさらなる飛びかけの文章列。
「んんん?これって前に呼び掛けて来た、フューチャー・ロスト・ハートさん……?」
それを星宇宙の横から覗き見て読み解きながら、モカは訝しみつつ推察の言葉を零す。
「らしいけど……ッ、イレギュラーを観測?やっぱりアンタは何かを知ってるのか……!?」
星宇宙はそのコンソールでの呼びかけに、疑問点を発しぶつける。
FLH:[_]
FLH:[すまない、私はそちらへのコンタクトに多大な制約を受けている_]
FLH:[回答は肯定だ_]
FLH:[他は_]
FLH:[_]
FLH:[時間限界だ_]
FLH:[さらなる健闘を――_]
星宇宙のぶつけた問いかけには、かろうじて肯定の一言が返ってきたが。
それ以降はまたほぼ一方的な形で、告げる文章が一つ二つ打ち込まれると。それをもって前回と同じように、コンソールウィンドウはパツっと消え去ってしまった。
「あっ、っー……ほとんど聞けなかった……でも……」
「やっぱり、何かを知ってる人?なのかな?」
「だな……それに向こうも、何か制約を抱えているみたいだ」
僅かに垣間見えた情報と、たった一つ得られた回答から推察し零す二人。
しかし結局。詳細、答えにあってまでを導き出すには到底至らなかった。
「……言われた通り、続けてクエストを進めるしか無いみたいだな」
一種腹を括る様に、そんな一言を零す星宇宙。
「だけどひとまずは、どこかで態勢を整え直そう。準備整理をして、休息も必要だ――」
そしてモカに向けてそう訴え、二人はこのモールロケーションを離れる事とした――
――――――――――
中盤の病みヘラムーブは蛇足気味というか作者の趣味です。
Chapter2はここまでとなります。
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