Part6:「戦い後のコンタクト、そして美少女おっさんは語る」

《熱い展開だった》

《二人ともかっこいい!》

《てぇてぇ》


 コメント欄には、そこまでの二人の活躍や今の姿を評する感想コメントがまた流れている。


「あはは……」


 それを流し見ながら、少し気恥しい気持ちになる星宇宙。


「――すまない、いいかい?」


 そんな所へ、星宇宙等に傍より声が掛かった。

 視線を向けそこにいたのは、先程の狩猟銃装備のキャラバン隊の女だ。その姿容姿は褐色肌に黒髪が映える、見目麗しい美人。

 恰好はビキニの上にジャケットとズボンという、中々に過激な色気漂う姿。


(んん?)


 しかし星宇宙は初っ端、そこで違和感を覚える。

 ダウンディノの襲撃というMODに伴うイレギュラーはあったが。キャラバン隊とのファーストコンタクトのイベントは、ゲームの序盤の流れ道理だ。

 そして本来であればこの襲撃を乗り越えた後に、キャラバン隊の代表キャラクターとの接触があるのだが。

 違和感の原因はその目の前に現れた褐色美人自身。最初に話しかけてくるキャラクターは、「カウスト」という名の中年男性であるはずなのだが。


(――ん?)


 しかし直後、星宇宙はその褐色美人の体の横に、小さなウィンドウが表示されていることに気づく。そこに記されるはその褐色美人の名前とロール・役職と思しき名称。

 そこにあったのは最初に接触するはずの中年男性「カウスト」の名が記されていたのだ。


(――あっ!)


 そこで星宇宙はある事に気づき、そして違和感の原因に気づき、そして理解した。

 目の前の褐色美人は、本来最初に接触する中年男性キャラの「カウスト」本人に他ならなかった。

 どういうことか。

 実は星宇宙。DCTS(ダウンワールド・キャラクター・TS)という、TDWL5の多くのキャラクターの外見性別を変更&美化する大型MODをまたゲームに導入していたのだ。

 カウストはその該当キャラの一名であり、本来は中年男性である彼は褐色美人へと見た目を変えていたのだ。

 失念していたが、それが違和感の正体であった。


「?、どうかしたのか」


 そんな考えから訝しむ色を浮かべてしまっていた星宇宙に、カウストは不思議に思ったのか尋ねる言葉を返してくる。

 ちなみに見た目こそMODの影響で見目麗しい褐色美女姿だが、カウストのその振る舞い・キャラクターにあっては中年男性のそれのままだ。


「っ!あっ、いや、なんでもない……!それより、そちらは大丈夫か?」


 考えに沈んでいたところへ声を掛けられ、気を取り戻して慌て取り繕い。そして自分から尋ねる言葉を返す星宇宙。


「あぁ、何人か怪我人は出てしまったが……犠牲者と、命の危機に陥る程の負傷者は誰もいない。ダウンディノに遭遇したというのに、これは奇跡だよっ」


 その問いかけに、カウストからはキャラバン隊に犠牲者と重傷者はいない旨が明かされる。どうにも早い段階で遭遇から介入できたことが幸いしたようだ。

 それに、星宇宙やモカも胸を撫でおろす。


「ありがとう、君等のおかげだ――そして良ければ教えてくれるかい、君等が何者なのかを?」


 続けてカウストが紡いだのは、その功労者である二人への例の言葉。そして二人の身分正体を尋ねる質問だ。

それもまたゲーム序盤のお決まりのそれであり、星宇宙も掌握していた。

 もっとも。カウストの言葉や様子はゲーム中のお決まりのものから少し崩したように見え。星宇宙はカウストにプログラムされたゲームキャラとは思えない人間臭さを感じていたが。


「あぁ、俺等は――フリーの仕事屋だよ」


 それを感じ取りつつも、ともかく。星宇宙はそんな回答をカウストへ返した。

 その回答は、本来であればプレイヤーの選択できる回答の一つであり。少し崩した形ではあるが、星宇宙はそれに倣って回答したのだ。


「まぁ、いろいろある身でね。今は、仕事の拠点を移すための旅路の途中なんだ」


 続けて敢えての漠然とぼかした説明を紡ぐ星宇宙。

 実際の所、TDWL5のプレイヤーキャラクターのデフォルトの設定出自は多くがぼかされており。またそれに倣っての解答であった。


「成程、そこでこの場に……しかし、だとしても良くダウンディノに襲われている場に、助けに入ってくれたな。ましてや……それを倒してみせるなんて」


 それを受けてカウストは納得の言葉を。しかし同時にその上での驚きの言葉を示す。


「物持ちの良さが――いや〝贈り物〟が、勝算を示してくれただけだよ」


 それには、手中のL-39を翳し示してまた謙遜の言葉を返す星宇宙。

 ちなみにTDWL5のゲームの仕様、すなわちこの世界の理の上では、小柄なキャラクターでも平気で巨大火器を持ち扱って見せるため。今は華奢な美少女である星宇宙がL-39を取り扱って見せた姿については、別段突っ込まれなかった。


「そうか……いや、ともかくありがとう。君等は俺たちの恩人だ」


 そこまででカウストはある程度の納得を示し、それ以上こちらの出自に突っ込むことは無かった。

 今にダウンディノを倒して彼らを救って見せた事で、信用の証明としては十分であり。それ以上は必要ない限りは深く探らないのが、またこの世界での通念であった。


「多くは返せないかもだが、何かお礼がしたい。もう少し行った所に俺たちの村があるんだ、時間があれば立ち寄ってくれるか?――」


 そして、星宇宙の知るそれとは少し崩れた進行で、かつ大きなイレギュラーもあったが。最初のキャラバン襲撃クエストの流れは解決終了へと行きつき。

 星宇宙等はカウストから、彼らの村に招かれる言葉を受けた。



 最初のクエストを完了させ、カウストより彼らの村への案内を受けたことでマップ情報が更新。彼らの拠点である、多くのプレイヤーが最初に訪れることになる村の位置が記される。


 そして同時に――〝経験値〟が入り星宇宙とモカに定められているキャラクターレベルが上がった。

 クエストクリアの報酬に合わせて。相手取り倒したのが本来の敵である小型モンスターではなく、ダウンディノであった事もあり、入手できた経験値はなかなかに大きなものになり。二人は序盤から数レベル分のレベルを上昇させ、その恩恵に預かるに至った。

 各ステータス上昇と同時にいくつかのパーク(特典、スキル)の選択肢が解放され、その内のいくつかを選び入手。またそれに伴うステータス、技能の向上を預かることとなった。



 ――それから星宇宙等は、カウスト等とのキャラバン隊と一旦分かれ、彼らを見送った。

 一緒に彼らの村へ同行する事もできるが、ゲームのシステム上、行動の自由度を阻害しないためにその点は強要はされない流れであった。


《なんとか一段落?》

《危なかったけど、その分レベルや特典の恩恵がデカいね》

《二人ともかっこよかった!》


 事態が一段落し、コメント欄には感想や二人を評するコメントがまた流れる。


「怪我の功名かな、ホントにMOD武器に助けられた……」


 そのコメントに対して星宇宙は、今になって一筋の冷や汗を流しつつ言葉を返す。


「それと、モカ。ホントにありがとう、すごくナイスな援護だった」


 そして次には隣に立つ相棒であるモカに、改めてのお礼の言葉を紡いで向けた。


「えへへ……そんな事ないよ、一番活躍したのは星ちゃんマスターだしっ」


 それにモカは謙遜の言葉を返しながらも、同時に悪くは無さそうな可愛らしい笑いを零す。


「そうそう、星ちゃんマスターこそ凄かったよねっ!デッカイ武器持ってカッ飛んで行ってモンスターと戦ってっ!スッゴクかっこよかったっ!」


 そして次にはモカは、今の星宇宙の一連の戦いの姿を思い返し。当人である星宇宙へ向けて、そして同時に視聴者の皆に同意を訴えるような形で。

 目を輝かせながら星宇宙を評する言葉を紡ぐ。


《うん、今のかっこよかった!》

《モカちゃんもだよー、二人ともかっこよかった!》

《武装少女好きです》


 それに呼応して視聴者からは。モカに同意しての、そして同時にモカも含めて二人への評するコメントが打ち込まれ流れる。


「……うーん」

「星ちゃん?」


 しかし、直後に星宇宙がそれに返したのは。自身の手元のL-39に視線を落としての、何か微妙な顔色での難しい声だ。

 それに気づき、モカはそれを伺い探る形で尋ねる言葉を向ける。


「――俺さ、美少女が機関銃とか対戦車ライフルとか担いで戦うっていうシチュも、別に嫌いって訳じゃないんだけどさ」

「ん?」

「やっぱりこういうデカい火器は、がっつり据え置いて運用してこそカッコイイと思うんだよね」


 そんな星宇宙が次に言葉にしたのは、何かそんな示す言葉であった。


「なんていうのかな。兵隊さんが複数人でちゃんと役割分担して、重々しく扱ってる姿にこそ一種のフェチズムを覚える訳ですよ」

「う、うん?」


 さらにそんな示す言葉を真剣な様子で宣う星宇宙。それにモカは少し戸惑う色で言葉を返す。


《あ》

《これは――》


 方や。コメント欄には何かに感づいたコメントがポツポツ打ち込まれ始める。

 そしてそれはご名答。

 今のモカからの、武器とその戦いっぷりを評する言葉で。しかし星宇宙の趣味人としてのおかしな〝スイッチ〟が入ってしまったのだ。


「持ち運ぶときはちゃんと分解して複数人で運んで、撃つ時はちゃんとがっつり二脚や三脚で据え置いて運用するんだ」


 コメントには気づかず、星宇宙は自身の手中のL-39の展開させた二脚を指し示しながら言葉を――語りを続ける。


「あ、うん」


 それにモカが返すは、生返事。モカもそのタイミングで、星宇宙のおかしなスイッチが入った事に気づいた。


「ちゃんと給弾捕手がいて、最低でも二人掛かりで――」

「うん」

「掘り下げた塹壕スポットとかに据えられてると尚かっこいんだな」

「ウン」

「あ、モカのMG34も二脚が着いてるけど、その二脚を付けたままさらに三脚に据えて運用される場面があってさ。あれが何かカッコよくてフェチズム感じちゃうんだっ」

「ウンウン」

「あっ。皆はプラモデルの各国軍の機関銃チームセットは知ってる?アレで実際にそれが再現できるんだけど――」

「ウンウンウン(^ω^)」


 ヒートアップし、星宇宙は自身の火器に関するフェチズムを捲し立て続ける。

 方やモカはと言えば、早々にそれに付き合うのを断念した様子で。棒読み生返事の生ぬるい笑顔で、ただ相槌を打っていた。


《星ちゃんおじさん……》

《あいたたた》

《あの、キッツイです……》

《めっちゃ早口で言ってそう(実際言ってる)》

《早口ミリオタ中身はおっさん美少女……》

《ごめん、詳しくないから全然わからない》

《二脚・三脚フェチ美少女(中身はおっさん)》

《機関銃チームセット知ってるって、星ちゃんおっさんいくつ……?》

《↑再販もしてるから……うん……》

《モカちゃんが相槌打つだけのBOTになっちゃった……》

《わ  か  る(天 下 無 双)》


 そしてコメント欄にはそれぞれに向けての。というより星宇宙のそれに引いている反応が過半数のコメントが、怒涛の如く流れている。


「それで――っ」


 シュポ、と。

 その星宇宙の怒涛の語りをそこまでと遮るように。

 星宇宙の横に小さなウィンドウが空中投影されたのはその時であった。


「っと?」

「ん?」


 それがTDWL5の各ステータス、インベントリなどのウィンドウとは少し様相の異なるもの。

 自分らでの意図してのものではないウィンドウの唐突の出現に。二人の意識はそちらへと向く。


「これ……コンソールコマンド……?」


 そしてしかし、星宇宙はその様式形に覚えがあり言葉を紡ぐ。

 出現したウィンドウは、ゲームのデータに変更や追加を直接可能とするデバッキングツール――コンソールコマンドに類似したものだ。


[]

[_]

Future Lost Heart:[――最初の段階を乗り越えたようだな_]


 そして次にそこに表示されたのは。そんな呼びかけのような一文であった。

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